(1)RCSスラスタ系
SFUのRCSスラスタについて飛行後解析を実施し、SFU回収準備として行った2回の軌道調整の後、予定していた最終軌道調整直前に生じた不具合について原因を明かにした。
RCSスラスタ系は2組のタンクモジュールと4組のスラスタモジュールから成る。タンクモジュールは2個のタンクで構成され、ブラダを用いたブローダウン方式により推薬が供給される。各々のスラスタモジュールは3個の3Nスラスタと、1個の23Nスラスタより成る。RCSスラスタ系は冗長構成を採用しており、スラスタ故障時には、機能アサインメントを変更して残りのスラスタで運用する。
(2)不具合発生と直後の対応
1995年12月26日に以下のようなSFU姿勢制御の異常状態が発見された。即ち、-Z軸回りに 0.4 deg/secで回転していると共に、姿勢制御モードは太陽指向モード(SPM)から外れ、太陽捕捉モード(SAM)になっていた。航法誘導制御系(NGC)は自動異常検知機能により主系から冗長系に切り替わっていた。RCSのL8、L11の推薬弁は連続的に開コマンドを受信したため、温度がそれぞれ110℃、97℃に上昇していた。-Z軸回りの回転により太陽電池による発電が阻害され、バッテリー電圧が日陰時に32.5V以下に低下していた。
以上の状況からスラスタ
L8、L11の推力低下又は喪失が異常原因と判定し、これらの使用を禁止した。NGC系を主系に戻し、残りのスラスタにより太陽捕捉を行った結果、バッテリ電圧は回復し、以後バッテリ性能に問題のないことが明かになった。
(3)回収運用前の原因推定
STS-72打ち上げ前に異常原因究明のFTA作業を行い、スラスタの推力喪失原因はスラスタインジェクタ部又はカピラリチューブ部の目詰まりによる推薬供給停止と推定した。また目詰まりは熱サイクルにより破砕した触媒の粉末が逆流し、固着したものと推定し、NASAもこれを了承した。
(4)飛行後解析結果
飛行後にRCSスラスタ系はSFUシステムから取り外され、以下の状態が確認された。推薬弁は作動試験及び分解検査の結果異常なかったが、スラスタ
L8 及び L11
は単体ガスフロー試験の結果完全に閉塞していた。スラスタ
L8 及び L11
を分解し検査したところ、どちらもスラスタ燃焼室直前のインジェクタ部が図1.7.2-3のように完全に閉塞していた。
図1.7.2-3 RCS スラスタ インジェクタ閉塞状況
インジェクタ部の閉塞をもたらした付着物の成分分析を行ったところ、付着物にはフッ素(F)を主体として炭素(C)、酸素(O)と少量の硅素(Si)、および微量の鉄(Fe)とクローム(Cr)が含まれていた。これら付着物の出所については、フッ素(69%)、炭素(21.6%)、酸素(9.4%)から成るOリング潤滑剤(Crytox240AC)と推定された。少量の硅素及び微量の鉄とCrはそれぞれタンクブラダの加硫強化剤SiO2、スラスタや推薬弁に用いられているステンレス鋼に由来するものと推定されるが、何れも閉塞をもたらすような量でないことが確認された。
L8、L11以外のスラスタについては、潤滑剤の流跡痕がオリフィス入口に認められたものもあったが、何れも閉塞には至っていなかった。上記の潤滑剤をヒドラジンに浸漬し、温度を100℃近くまで上昇させると、潤滑剤の油成分が溶け出し、フッ素を含む固形成分が残滓として生ずることが判かった。
(5)不具合原因について
上記の解析結果を基に、RCSスラスタ
L8、L11の推力中断の原因を以下のように結論した。即ちスラスタ本体と推薬弁の組み付けに用いたOリング用潤滑剤の余剰部分が固化・堆積してオリフィス部流路を狭め、より高温に曝されたインジェクタ部を閉塞したことによるものである。(これまで塗布手順の詳細規定がなかったので作業者の経験に頼る所が多く、この手順がうまく機能しなくなった)。異常部位については飛行中の推定とほぼ一致していたが、目詰まりをもたらした物質については回収したことで特定することができた。
(6)今後の対策
今回発生したRCSスラスタの推力損失のような不具合は、組み付け時に使用するOリング用潤滑剤の塗布手順を厳格に規定することにより、再発を防止することができると判断する。