STS−72 Endeavour
号は日本時間で1996年1月20日16時42分、ケネディ・スペース・センターへ無事に着陸した。
(1)NASA−OPF(Orbiter Processing Facility)での活動
着陸したSTS−72はヒドラジン漏洩の無い事が確認された後、OPF
Bay-3
に格納された。SFUは1月27日にペイロード運搬車/コンテナであるキャニスタに収納され、その後VPF(VerticalProcessing
Facility)へ輸送された。
(2)NASA−VPF(Vertical Processing Facility)における活動
1月29日にSFUは専用輸送コンテナであるPTRD(PayloadTransportation
& Rotation
Device)に収納された。SFUのNASAからの引き渡しは、PTRD上で行われ、それ以降はSFU側の作業となった。
(3)米国民間施設アストロテック(Astrotech社)での作業
1月30日、SFUを収納したPTRDはアストロテックへ輸送された。SFUはアストロテックのHPF(HazardousProcessing Facility)に設置された。
● ヒドラジン排出準備作業
1月30日に火工品等の取り外しを行った後、SFUをPTRDから作業用の設置ドーリへ移設した。その際、ロードセルを用いて重量計測を実施した。1月31日には各センサー類、実験試料などの保護カバーを取り付けた。
● ヒドラジン排出作業
排出作業の前にリークチェックを行い、異常無しと判定されたので、1月31日〜2月13日にRCS/OCTのヒドラジン排出及び洗浄作業が実施された。ヒドラジンの排出量はRCSから51.3 kg 、OCTから 453.1 kg であった(打ち上げ時の充填量はRCS:99.8 kg、OCT:649.9 kg)。洗浄には脱ミネラル・脱イオン水を用い、RCSは液側とガス側共に3回、OCTは2回のフラッシングを実施した。
● ヒドラジン排出後作業
2月14日〜21日にはスカフ・プレート、グラプル・フィクスチャ、PDA(PayloadDisconnecting
Assembly)、実験サンプルの取り外しが行われた。実験サンプルはSFUに先立ち担当者が付き添い、日本に空輸された。また、2月15日にはマイクロメテオロイド/デブリ検査チームがSFUの調査を行った。
(4)SFU出荷作業
2月19〜20日には、SFUからキールトラニオンを取り外し、設置ドーリよりSFUコンテナへの移設を行った。その後、日本から作業のため搬入した機材等を梱包し、SFUコンテナと共にトラックに積み込んだ。2月29日、SFUは米国からの輸出港となるジョージア州、サバンナへ陸送され、通関手続きを終了した後、3月5日朝に日本へ向かって出航、3月28日、横浜港に到着した。
1996年1月13日、スペースシャトルによるSFUの回収に際し、太陽電池パドル(SAP:SolarArray
Paddle)2翼の収納を実行したが、収納完了(ラッチ)状態を確認することができず、安全回収のためNASAと予め交わされていた合意に基づき、両翼ともSFU本体から切り離された。
(1)太陽電池パドルの概要
SFUには幅約2.4m、展開時長さ約10mのフレキシブル太陽電池パドル(SAP)が2翼搭載された。図1.7.1−1に示すように、SAPの主な構造は、アレイブランケット、伸展マスト、プレッシャーボード、保持開放機構から構成される。
図1.7.1-1(1/2) 太陽電池パドル外観図(収納状態)
アレイブランケットは、一翼当り太陽電池セルを実装した45枚のアクティブパネルと、セルを実装していない3枚のブランクパネルから成り、後者のうち2枚はパドル付根に、1枚は先端部に装着し影の影響を避けている。各パネルは約0.2m×2.4mで、ヒンジにより結合されている。パネルの基板は50mmのポリイミドフィルムである。アレイブランケットの長さに沿う両端には電力を伝達するフラットハーネスが装着されている。フラットハーネスにはアレイブランケットの折り畳みを補助するわずかなバネ力をあたえられている。
伸展マストは円筒状キャニスタ内に格納され、パドル駆動回路(ADE:Array
Drive
Electronics)により制御されるモータで伸展・収納される。プレッシャーボードはSFU本体側に固定されたインナーボードと伸展マスト先端のアウターボードから成り、アレイブランケットが折り畳まれた時にこの2枚のボードで挟まれて保持される。2枚のボードは保持開放機構(CRM;Clamp
Release
Mechanism)により収納時にアレイブランケットを鋏んで押し付ける力を与える(図1.7.1−1(2/2)参照)。
図1.7.1-1(2/2) 太陽電池パドル外観図
CRMはリンク機構で、開放時には「Y字型」形状をしているが、アウターボードの押し付け力が一定値(3kgf)を越えるとリンクが動き、ガイドフィッティングと呼ばれる受け金具の根本に噛み合い図1.7.1−1(1/2)のように「T字型」に開いてラッチする。
(2)テレメトリデータの解析
収納運用中のテレメトリデータより以下の異常事象が判明した。
(3)飛行後データの解析
飛行後にシャトル飛行士により撮影されたビデオや写真を入手して分析した結果、切り離された後の太陽電池パドル一翼について次の事項が明かになった。
(4)SAP エンジニアリングモデルを用いた再現試験
以上の解析結果を確認するため、SAPエンジニアリングモデルを使用し、パネル面外方向挙動を抑えないよう吊り具の一部を外し(重力補正を若干犠牲にして)再現試験を行った。確認された事象は次の通り。
図1.7.1-2 ブランクパネル逆折れ原理
(5)ラッチ異常の推定原因
以上の解析及び試験結果を基にして異常の発生は以下のように推定される。パネルに折り畳みぐせを与えるフラットハーネスの弾性により、剛性の極めて低いブランクパネルのヒンジラインに逆反りを生ずるような曲げモーメントが生じた。このブランクパネルの逆折れ変形が隣接するアクティブパネル数枚に伝わり、マスト側にはみ出す変形をもたらした。これによりアウターボードの移動を阻害する荷重が発生し、保持開放機構がラッチ状態(T字型)となり、ガイドフィッティングに当ったためそれ以上の収納が不可能となった。
(6)今後への対応
SFU太陽電池パドルに生じた収納異常は、極めて柔軟な膜構造のフレキシブルパドルの故に、無重量環境下でのその挙動予測が困難であることによって生じた。今後基礎技術的には無重量環境下での膜構造力学の研究を深めると共に、今後の設計では所期の挙動からの変化を極力抑えて、ミッション目的が損なわれることのないようなシステムの構築を心懸ける事が重要であると考える。