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1. ミッション概要

1.1 目的

  1. 宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)フライトシステムの機能及びH-IIロケット、地上局通信網、スペースシャトルとのインタフェースを立証し、打ち上げ、軌道上実験運用、回収を行う。
  2. 文部省宇宙科学研究所(ISAS)、科学技術庁(STA)/宇宙開発事業団(NASDA)、及び通商産業省(MITI)/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)/無人宇宙実験システム研究開発機構(USEF)が共同開発し、宇宙理工学実験・観測を実施する。

1.2 SFUシステムの概要

 SFUシステムは、軌道・姿勢制御、通信、電力などSFU全体の運用に関わるコアシステムと、その支援を受ける実験システムから成る。SFUの性能実績概要を表1.1−1に、軌道上で太陽電池パドル(SAP)を展開した時の外観形状を図1.1−1に示した。

軌  道 :高度 打ち上げ分離時 330km
 実験運用、開始時 486km
 回収時 472km
 傾斜角  28.5度
形状寸法 :本 体 4.46m(直径)× 2.80m(高さ)
 太陽電池パドル 24.4m(展開時)× 2.40m(幅)
重  量 :打ち上げ時3850 kg
 回 収 時3500 kg
電  力 :BOL 2.8 kW
 実験用 850 W
姿勢制御 :太陽指向/三軸姿勢制御
加速度環境 :10-4 g0

表1.1−1  SFUの性能実績概要


図1.1-1 SFU外観図

 主構体はアルミ合金製の変形8角形のトラスで、着脱可能な台形箱が8個取付けられている。このうち2個にはコアシステム機器が搭載されるバスユニット(BSU)で、6個は実験機器が搭載されるペイロードユニット(PLU)である。熱制御は、ヒートパイプ等を用いた能動方式と、熱制御材による受動方式の組み合わせにより、ユニット毎に行われる。

 姿勢制御は3軸安定方式により行われ、通常は太陽指向で運用される。太陽センサ、地球センサにより姿勢を検出し、3台のリアクションホイールと磁気トルカ又はヒドラジンを用いた12個の3Nスラスタからなる姿勢制御用推進系(RCS)により制御される。H-IIロケットから分離された後、及び、スペースシャトルとランデブを行う際に用いられる軌道変換用推進系(OCT)は、8個の23Nスラスタで構成される。推進剤はRCSと同様にヒドラジンで、主構体中心部のタンク内に搭載される。

 通信データ処理系(COMS)は、Sバンドを用いた通信系と16ビットのマイクロプロセッサのデータ処理系とからなる。地上局あるいはシャトルオービタへのテレメトリ送信速度は、1kbps、 16kbps、 128kbpsで、実時間データ及び4Mビット、80Mビットの搭載データレコーダの再生データを送信する。コマンドは実時間で行われるリアルタイムコマンドのほか、一旦搭載メモリに記憶した後に絶対実施時刻を指定するタイムラインコマンド、相対実施時刻を指定するタイマコマンドが実行できる。

 電力系は軽量でコンパクトに収納できるフレキシブル太陽電池パドル(SAP)と4台の19Ah容量NiCd電池から成る。SAPの発生電力は寿命初期(BOL)に2.7kW以上で、日照日陰を通して850Wを実験に供給できる。

1.3 軌道運用管制システム

(1)運用管制システム

 SFUは、飛行毎に異なる実験機器を搭載することができる。SFU運用管制システムでは、SFUの特徴を生かせるように以下のように設計された。

  1. 分散系の構成とし、将来の飛行にも柔軟に対応できるようにした。
  2. 装置間のデータ伝送インタフェースには標準方式を採用し、どの装置でもデータフォーマットとしてSFU標準フォーマットを使用する。
  3. どの地上局を使用する場合でもSFU運用センターから同じ手順で使用できる。

 SFU運用管制システムを構成する主な装置とその接続形態を図1.3−1に示す。

図1.3-1 SFU運用管制システムの基本構成

 SFUの追跡に使用される地上局は全てSFUゲートウェイを介して相模原運用センター、(ISAS SOC)内の装置と接続されている。地上局毎のデータ伝送上の差異は全てゲートウェイで吸収され、SFU運用センター内では地上局の違いを全く意識せずにSFUを運用することができる。

(2)地上局網

 図1.3−2にSFU運用管制地上局網の構成を示す。

図1.3-2 SFU運用管制地上局網

 使用された地上局のうち、主局として用いられたのは宇宙科学研究所の鹿児島宇宙空間観測所(KSC):内之浦局である。宇宙開発事業団の沖縄追跡管制所(OTDS)は内之浦局の代替局として使用された。NASAの深宇宙探査網DSN(Deep Space Network)の4局(ゴールドストーン、キャンベラ、マドリッド、ワロップスの各局)及びチリ大学のサンチャゴ局は、初期フェーズと回収フェーズに可視時間帯を拡大するために使用された。又上述のDSN4局は、宇宙赤外線望遠鏡(IRTS)による観測の期間中も適宜地上局として使われた。コマンドの発行やテレメトリデータのモニタは常にSOCにおいて集中的に行われた。回収フェーズにおいてSFUとシャトルオービタが十分に接近して直接交信できるようになった後は、コマンドはSOC及びシャトルオービタから発行された。この時のテレメトリデータはシャトルオービタ、NASA JSC 、SOCの3ケ所でモニタされた。

1.4 打ち上げの経過

 SFUは、1995年3月18日、17時01分(以下時刻は日本標準時)、H-IIロケット試験機3号機により宇宙開発事業団、種子島宇宙センターから「ひまわり」5号(GMS-5)と共に打ち上げられた。投入軌道高度は330kmで、直ちに太陽捕捉、太陽電池パドルの展開を行った。衛星の国際登録番号は9501101。その後3月19日から3月23日までSFUは軌道変換を行い運用軌道486km(初期高度)に達した。3月24日から3月26日にかけて、コアシステムの全機器のチェックアウトを実施し、正常動作を確認して3月26日21時より実験運用に入った。

1.5 回収運用の経過

(1)回収準備作業

 スペースシャトルによるSFUの回収はシャトルの燃料余裕により会合点(ControlBox)ランデブから直接(Ground Up)ランデブで行われることになった。ランデブのためのPRO(位相回帰軌道、PhaseRepeating Orbit)への移行作業として、3回の軌道制御をOCTにより行う予定であったが、2回の軌道調整後(この時の軌道高度は472km)SFUの姿勢に異常が発生した(詳細は後述)。異常原因となった姿勢制御用推進系(RCS)の3Nスラスタ2基は直ちに運用から分離され、太陽指向姿勢を再び確立した後、システム冗長系であるリアクションホイールと磁気トルカを用いた姿勢制御モードNM(NormalMode、太陽指向姿勢)に切り換えた。

 平成8年1月3日にSFU回収手順(姿勢及び軌道)の変更をNASAと合意した。即ち、緊急時の複合(ハイブリッド)ランデブ等の姿勢制御にRCS系の余力を温存する意図から、以降の軌道制御は行わないこととした。このためシャトルのローンチウィンドは59分から46分に短縮された。また、回収姿勢を予定のRTM(RetrievalMode、地球指向姿勢)からNMに変更した。その後打ち上げまでに開かれた飛行前審査(FRR、1月4日)、飛行前2日前審査(1月9日)にてSFUが回収可能な状態であることが確認された。

 相模原オペレーションセンター(SOC)の準備としては国内リハーサル6回、NASA(JSC、JPL)との合同リハーサル(JIS、 Joint Integrated Simulation)を5回行い、非常時運用の訓練も行った。平成8年1月9日にはNASA Cバンドレーダによる追跡が始まり、1月11日にSFUの軌道決定値を受理し、準備を完了した。

(2)回収運用実施結果

以下にスペースシャトルSTS-72の打ち上げ以降の活動を時系列でまとめる。

1月11日(木)

STS-72は18時41分に打ち上げられ、予定の軌道に達した。その結果ハイブリッドランデブは不要となる。

1月12日(金)

シャトルは正常に飛行。

1月13日(土)

 回収作業の行われた4周回の様子を図1.5−1に示す。

図1.5-1 スペースシャトルによるSFU回収運用

14時50分、PI(Payload Interleaver)リンクによりSFUとオービタの交信が可能となる。 15時44分、オービタは最終フェーズ開始(TI 、Terminal Initiation)の軌道制御を実行した。
17時09分よりSAP収納を開始し完了したと思われたが、ラッチが確認できず、予備系モータへ切り換えて2回、主系に戻して1回、部分展開・再収納を試みたがラッチ確認はできなかった。
NASA/JSC の支援室CSR(Customer Support Room)に詰めていたSFUプロジェクト主査の最終判断によりシャトルへの干渉をさける姿勢(EPM-90及びEPM+90)に移行して、18時35分及び47分に SAP-1、 SAP-2をそれぞれ切り離した。
回収姿勢に移行した後、19時56分に若田宇宙飛行士の操作するロボットアーム(RMS)によりSFUを捕獲した。
20時39分にSFUはシャトルペイロードベイ(貨物室)内に固定され、遠隔操作コネクタROEU(Remotely Operated Electrical Umbilical)を結合し、オービタより電力供給が開始された。
  • 21時57分にSFUの電源断完了。
  • 1月14日(日)〜1月19日(金)

    RCS系の保温はROEUを通して基本系ヒータで行われていたが、1月14日にスラスタ近傍温度が7℃近くまで低下したので冗長系ヒータも加えて熱制御した。
    船外活動が行われた1月17日に上記温度が10℃まで下がったが、NASAと予め合意されていたシャトル姿勢変更により規定温度範囲に保った。

    1月20日

    STS-72は16時42分ケネディ宇宙センターに着陸した。直後に行われたペイロードベイ内排気検査においてヒドラジン漏洩の痕跡は発見されなかった。

     RCSスラスタ12基のうち2基について推力損失を生じていたが、残存10基の能力により、SAP切り離し時の姿勢制御、回収姿勢制御などを果すことができた。

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