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第3回7/19(水)【~これまでの成果~】
金井飛行士:宇宙実験については分かりましたが、「じゃあ、それがどんな風に役立っているの?」というのが、一番興味あるポイントだと思います。専門家の木平先生にうかがいます。
これまでの実験の成果にはどんなものがあるか?
私たちは頭が痛くなったり、熱が出たりすると薬を飲みます。金井さんはお医者さんですから、なぜ薬を飲むと頭痛が和らいだり、熱が下がったりするかをご存知だとは思いますが、薬の役割は体内のタンパク質に作用して、タンパク質の働きを調節することです。つまり病気の原因となるタンパク質の働きとその仕組みを正しく理解できれば、薬の設計に応用することが出来ます。とりわけ、病気の原因となるタンパク質の精密な構造情報があれば、それを基にタンパク質の機能を調節できる場所を探索し、そこにぴったりとはまる分子を設計することが可能となります。
これまでにも薬の設計を目的としたタンパク質がいくつも宇宙に向けて打ち上げられています。例えば、肺がんの原因タンパク質の一つとして知られる上皮成長因子受容体(EGFR)というタンパク質があります。このタンパク質を標的とした薬はすでに存在しているのですが、EGFRが変異を起こすことで薬が効かなくなってしまうことがあります(この現象を「耐性を獲得した」と言います)。この変異EGFRを宇宙で結晶化し、得られた構造を用いて、薬が効かなくなってしまった原因を突き止めることが出来ました。現在では、この変異EGFRにも効果のある薬候補化合物がいくつか見つかっています。
また、DAP BIIというペプチド分解酵素(ペプチドとは2−10個程度のアミノ酸が結合したもの)に関する研究も宇宙実験によって成果をあげています。様々な抗菌薬に耐性を獲得した多剤耐性菌が院内感染症の原因の一つとなっていることをご存知の方もいると思います。多剤耐性菌の中には、糖などの炭水化物の代わりにタンパク質やペプチドを分解してエネルギーを得ているものがあり、この分解に関わるタンパク質がペプチド分解酵素です。DAP BIIはその一つで、宇宙で得られた結晶から精密な構造情報を得ることに成功しました。今後は、この構造情報を基に、ペプチド分解酵素の働きを抑える分子を見つけ、新たな抗菌薬を設計することが期待されています。
その他、セルラーゼ(地球上で最も豊富に存在する生物資源であるセルロースを分解する)、キチナーゼ(キチン分解酵素。キチンはエビ、カニ、キノコなどに含まれる物質で、セルロースに次いで豊富に存在する生物資源だが、そのほとんどが未利用)、ナイロンオリゴマー分解酵素(非天然化合物であるナイロン、プラスチックを分解する)、ヒドロゲナーゼ(温和な条件で高効率に水素の合成/分解を行う)、PSII(植物の光合成に関わるタンパク質で、ほぼ100%の効率で太陽光を捕集する)など、その他多くの面白い機能を持つタンパク質が宇宙で結晶化されています。
金井飛行士:やはり、新薬・創薬に関する期待が大きいのですね。
わたしも病院で働いていたときには、癌(がん)や抗生剤の利かない細菌の感染などで苦しむ患者さんたちを目にしてきたので、早く臨床の現場で使えるように研究をどんどん進めてもらいたいと思います。
4月18日(火)の金井飛行士の訓練公開では具体的にどのような作業を行ったのか?
宇宙船に積み込む直前にバイコヌール宇宙基地にて実施するタンパク質と結晶化溶液の充填作業と、容器の組み立ての一部を実施して頂きました。地上でタンパク質の結晶化容器を組み立てたあとは、再び地上に帰ってくるまで容器を開けることはないので、金井さんが宇宙ステーションで結晶化容器を受け取ったあとに実施する作業ではないのですが、どういった手順を辿ってISSに届けられるのかを、飛行士である金井さんに理解して頂けたことは、地上の技術者として非常に嬉しく思います。
おかげさまで、結晶化容器の中でスクスクと成長していくタンパク質のイメージはしっかり頭に刷り込まれました(笑)
地上から送られてきたサンプルをしっかりお預かりし、実験が終わったサンプルは確実に丁寧に地上にお届けすることを誓います!
金井飛行士:わたし自身が医師だったこともあり、病院の臨床現場に直結するような成果が出ていると知って嬉しくなりました。
単に宇宙実験をして、学問的に興味深い結果が出ました…で終わってしまうのではなく、それがわれわれの社会に役立つことで、宇宙開発を行っていく意義も大きくなるのだと思います。
いかがでしたでしょうか?
次回は7/26(水)更新、タンパク質結晶生成実験のこれからの展望に関して木平先生に解説いただきます!
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