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JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在

タンパク質が私たちの未来を変える鍵?
実験担当者に聞く~タンパク質結晶生成実験~

第2回7/12(水)【~タンパク質結晶生成実験~】


金井飛行士:第1回で「タンパク質」がどんなものか何となく分かったところで、そのタンパク質で、どんな宇宙実験を行っているか、専門家の木平先生にご説明いただきます。



Q1:どのような実験を行うのか?
Q2:宇宙でタンパク質の結晶生成実験を行うメリットは?


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どのような実験を行うのか?

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タンパク質はヒトだけでも10万種ほどの種類を持っていることを第1回でお話しました。これらのタンパク質は、それぞれが固有の働きを持っていて、あらゆる生命活動を支えています。
一方、全てのタンパク質は、それぞれに違った形(構造)をしています。コラーゲンにはコラーゲンの、ヘモグロビンにはヘモグロビンの構造があります。その固有の構造をとることで、タンパク質はそれぞれの機能を発揮することが出来ます。つまり、タンパク質の構造を正確に観察できれば、その機能や仕組みを知ることが出来るということです。

では、顕微鏡を使ってタンパク質の形を見てみれば良いでしょうか。実は、そんなに簡単にはいかないのです。どれくらい小さいかというと、たとえば、タンパク質の大きさをヒトの大きさまで拡大できたとしましょう。するとヒトの大きさは大体、木星の直径と同じくらいになってしまうほどです。木星に立つヒトを想像してみると、その小ささが良くわかりますね。それくらい小さいタンパク質ですから、世界最高性能の顕微鏡を使っても詳細な構造までは観察することが出来ないのです。

では、どうしたらタンパク質の形を観察できるでしょうか。そこで登場するのが「結晶」です。結晶とは、固体のうち、原子や分子が規則正しく繰り返して配列した状態のことを言います。結晶というと塩や鉱物を思い浮かべるかもしれませんが、多数のアミノ酸が結合してできた複雑な分子であるタンパク質もそれらと同じように結晶になるのです。詳細は省きますが、結晶として取り出したタンパク質にX線を照射して得られるデータからタンパク質の構造を復元することが出来ます。

水に溶けている分子は、分子がそれ以上、水に溶けきれないような状態に上手に持っていくことができれば、結晶という特殊な固体の状態として析出させられます。例えば塩の場合は、塩水を温めて水を蒸発させることで、水に含まれる塩の濃度を徐々に上昇させ、それ以上、塩が水に溶けきれなくなったときに結晶として析出します。一方タンパク質は、温めてしまうと本来持っている構造が壊れてしまうので、その方法が使えません。その代わりに、タンパク質を溶かす溶液の種類、濃度、pH値や、分子と分子の接着剤の役割をする添加物の種類を様々検討することで、結晶化する条件を探索します。タンパク質の種類によって結晶化する条件が異なるため作業量は膨大ですが、宇宙実験を実施する前に地上で結晶化条件をきちんと決めておく必要があります。

宇宙実験では、地上で決定した結晶化条件を基に各種溶液を準備し、地上で結晶化容器に充填します。この結晶化容器は、様々な工夫が施されていて、地上で作業をしてから宇宙ステーションに持ち込まれるまでの間には結晶が析出しないようになっています。”Made in宇宙”の結晶が確実に得られるような仕組みになっているというわけです。



金井飛行士:いきなり専門的になって、ちょっと難しいです。
でも、つまるところ、タンパク質の働きは、三次元的な「形」が大切で、でも顕微鏡で調べるのは小さ過ぎるので、結晶を作って、それで分析をするってことですね。




宇宙で得られた結晶



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宇宙でタンパク質の結晶生成実験を行うメリットは?

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一口に結晶と言っても、品質の高いものもあれば低いものもあります。ここで言う結晶の品質というのは、分子の並びのキレイさ、だと思ってもらえればよいと思います。実は、品質の低い結晶からは精密な分子構造を決めることが出来ないのです。そのため、研究者は出来る限り品質の高い結晶を作ろうと大変な努力をしているわけです。

しかし、品質のよいタンパク質結晶を作ることはとても難しいのです。どんな条件で結晶を作って良いのかという検討に数年かかるということも珍しくなく、中には10年以上かかっても高品質な結晶が得られず、詳細な構造を決められないこともあります。

なぜ高品質な結晶を作るのが難しいのかでしょうか?原因は色々ありますが、その原因の一つが、重力の影響で発生する「対流」です。対流によって溶液内の分子の動きが乱されることで、分子の配列が乱雑な結晶になりやすいのです。長年研究者を悩ませてきたこの「対流」の問題を解消する決定打が国際宇宙ステーション(ISS)です。ISS内の特徴である無重力の状態では、地上のように密度や温度の違いによって生じる対流が起こりません。この地上にはない特徴によって、宇宙ではタンパク質の分子が規則正しく並び、地上では得られない高品質な結晶が生成すると考えられています。



金井飛行士:宇宙で実験をするのは、タンパク質がキレイに整って配列された高品質の結晶を作るためなんですね。
高品質の結晶を地上に持ち帰って詳しい分析をすれば、どんな形をしているのか、どんな機能があるのかを調べて、われわれの役に立つものを見つけることができるハズです。



ISS 「きぼう」日本実験棟のタンパク質結晶生成装置(PCRF)

大西宇宙飛行士がタンパク質結晶生成装置にタンパク質結晶生成実験サンプルを設置する様子



金井飛行士:なかなか歯ごたえのある解説でした。木平先生の、ほとばしる宇宙実験への情熱を感じます。
実は、単にタンパク質結晶の原料を宇宙に持っていっても、うまい具合に高品質の結晶が得られるわけではありません。地上実験を繰り返して最適の条件を見つけたり、結晶化の実験機材や方法を考案したり、JAXA独自の技術とノウハウがあってこその宇宙実験なのです!



いかがでしたでしょうか?

次回は7/19(水)更新、タンパク質結晶生成実験のこれまでの成果に関して木平先生に解説いただきます!

 
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