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船外活動支援機器・工具船外活動(EVA)を行う際には、クルーの安全な移動を支援する機器、厚いグローブをはめて作業するための特殊な工具類が使われます。ここではその代表的な機器を示します。なお、EVA工具は、現在も新たな工具の開発や改良が行われており、その種類は増えています。 移動支援機器および足場などの固定機器
セイフティ・テザーは、クルーをスライドワイヤに繋ぎ止めておくための伸縮式のワイヤ・ケーブルであり、腰の固定具に取りつけて使用します。構成は次のとおりです。
・リールケース 使用の際にはリールケースについているDリングに腰の固定具を取りつけます。一方、反対側のEVAフックをスライドワイヤー側に取り付けます。 セレクタレバーをアンロック位置にするとケーブルは自動的に巻き取られてゆるみが除かれます。ロック位置にするとケーブルの巻き取りはされなくなります。ロック/アンロックのどちらの位置でもケーブルを引くとケーブルを引き出すことができます。
スライドワイヤはスペースシャトル(オービタ)のペイロードベイ(貨物室)の両外側や国際宇宙ステーション(ISS)の外壁に取りつけられているワイヤであり、EVA中の飛行士が誤ってスペースシャトルやISSから離れていかないよう安全を確保するために使われます。各スライドワイヤにはふたつのスライダがついており、ここにセイフティテザーの端のフックを取りつけます。スライドワイヤとセイフティテザーを組み合わせて使うことにより、クルーは広い範囲を行動することができます。
クルーが移動する時につかむ手すりのことで、スペースシャトルでは、ペイロードベイの両側や前方と後方の隔壁に取り付けられています。 また、ISSでも、多数のハンドレールが使用されており、新しいEVA工具と併用することで、身体の固定や、小型の機器の固定などにも使われます。
EVA作業時に機器を一時的に繋ぎ止めておくためのベルト状のロープで、手首テザーはEVA機器を使用中や移動中に失わないために利用し、腰部テザーはEVA中のクルーを宇宙船に繋ぎ止めておく(セーフティ・テザーにつなぐ)ために使用したり、他のクルーを繋ぎあわせておくために使います。 手首テザーや腰部テザー以外にも、様々な長さや機能を持つテザーが準備されています。
ポータブル・フット・レストレイント(Portable Foot Restraint: PFR)はEVA作業時のEVAクルーの足を固定するための足場として使用されます。 PFRを固定するソケットに差し込むことでいろいろな場所に足場を移動することができます。 関節付きポータブル・フット・レストレイント(Articulating Portable Foot Restraint: APFR)は、PFRに可動式の関節部を付けたものであり、APFRに足を固定した宇宙飛行士自らが、ヨー方向、ロール方向の2軸の角度を調整レバーで変更することができます。これにより、作業時の無理な姿勢を減らして、作業がしやすくなります。
PFR取り付け装置(PFR Attachment Device: PAD)は、スペースシャトルのロボットアーム(RMS)の先端にPFRを取り付け、移動可能な足場とするために使われます。足場の位置は、RMSの先端に乗ったEVAクルーが、船内のRMSを操作するクルーに音声で移動を指示することで行います。PADを使うことにより、PFRを固定するソケットの取付場所を気にすることなく、作業の自由度を広げることが出来ます。
宇宙飛行士身体固定用テザー(Body Restraint Tether: BRT)は、EVAの際に宇宙服側にBRTの一端をとりつけ、他端をハンドレールに固定することにより、両手を自由に作業に使えるようにするための工具であり、ISSの組み立てに備えて開発された機器です。 また、クルーの両手を自由にした状態で機器をBRTで把持したまま移動することもできます。なお、BRTの中央部は柔軟に曲げられるフレキシブル構造になっています。 BRTの評価試験は、土井宇宙飛行士がEVAを実施したSTS-87(1997年11月)などで実施されました。
セルフレスキュー用推進装置(Simplified Aid For EVA Rescue: SAFER)は、EVA中の宇宙飛行士が誤って宇宙空間に放り出されたりした場合に自ら飛行して宇宙船に帰還できるようにするための小型の推進装置で、宇宙服の背中の生命維持装置下部に取り付けられています。 SAFERは、初期のスペースシャトル飛行段階に使用された有人飛行ユニット(Manned Maneuvering Unit: MMU)の小型版であり、機能はMMUとほぼ同等ですが、推進剤タンクの容量を減らしたり一部の機器を省略するなどにより小型化されました。 一番の違いは使用目的であり、MMUがEVA中の自由飛行を目的としたのに対し、SAFERは自己救難用であり、宇宙ステーション組み立て時のEVAでは宇宙服に必ず装着する事にはなっています。そのため、非常時以外は使用されません。
スペースシャトルでEVAを行う場合は、飛ばされたEVAクルーをスペースシャトルで追跡して救助することができますが、スペースシャトルがISSとドッキングしていたり、スペースシャトルがいないときにISS上でEVAを実施しているような場合には簡単には救助することが出来なくなります。このような場合に備えてISSでEVAを行うクルーはSAFERを必ず装着することになっています。 SAFERはクルーが1人で着脱でき、右下の部分にある収納部から取り出したハンドコントローラを宇宙服の胸の表示制御モジュール(DCM)部に装着することにより、片手で6自由度の制御を行うことができます。 SAFERは、13分間窒素ガスのスラスター(24基装備)を噴射することができ、元の場所に帰還したり、EVAクルーの姿勢を安定状態に戻すことができます。 SAFERはSTS-64(1994年9月)で初めて試験飛行を行い、EVA中の自由飛行テストに成功しました。その後、STS-76(1996年3月)、STS-86(1997年9月)で機能確認試験が行われた後、ISSの第1回組立てフライトであるSTS-88(1998年12月)から実用装備されるようになりました。
最終更新日:2003年3月24日
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