8月は、広報活動を行うために帰国させて頂きました。ヒューストンにいると、皆様方とお会いする機会が少なく、とても残念に思っていましたが、今回は多くの方々と直接お話をする事が出来ました。今回の帰国では、私も多くの事を学びました。今回、特に重要だと思ったのは、「夢の重要性」を皆さんにお伝えすることでした。
話は宇宙飛行士候補者に選抜された直後にさかのぼります。私は、宇宙飛行士になる機会を与えられた時、多くの方から「夢のある話ですね!」といったコメントを頂きました。ただ、私はその時、自分自身で何が「夢のある話」なのかよく分からずに、相槌をうっていました。私にとって宇宙飛行士は、とても「夢」という一言で終わらせることができない様な厳しい現実を含んでいたからです。JAXAの選抜試験の中でも、その厳しさを受験者に知ってもらうような内容が多く含まれていました。(例えば、宇宙放射線の身体への影響の話を聞いたり、ヒューストンで飛行士の方々の訓練を見学したりした事です。)
生まれて初めての記者会見で、緊張の様子。様々な想いが心の中に…私の人生の大きな転機である事に間違いはありません。
正直、宇宙飛行士に与えられる任務の厳しさを知り、驚愕したのを覚えています。私はそれまで自衛隊の中でも非常に厳しいと言われている職業である「テストパイロット」を経験していましたが、それでも宇宙飛行士の仕事をしっかりやる能力を自分が備えることが出来るか自信がありませんでした。それゆえに、合格の連絡を頂いた時は、嬉しくもありましたが、それよりも「大変な事になったな…」という気持ちが強かったのです。そして、こんなに大変な事が「夢」の一言で言い表されて良いのか?と素直に疑問に思いました。
私がこれが皆さんのいう夢だったのかと納得できたのは、「夢」=「人生の目標」という整理をした時からです。(すいません!こんな簡単な事もわからずにいたのです。さすがに国語が大の苦手だっただけありますね(笑)。)
そういう意味では、他の多くの職業も夢のある職業です。また、その職業に就いた時は、全ての人にその仕事の重要性を認識して、誇りを持って仕事をして頂きたいと思っています。さらには、受験生の皆さんが高校・大学に合格した時は、「夢」に近づいた喜びを感じるとともに、その夢の持つ責任をしっかりと実感した上で、勉学に打ち込んで欲しいのです。その様な方は、きっと就職活動でも有利だと思いますよ。私が人事担当者であれば、その仕事の重要性を理解した上で、情熱を持って努力してきた方に将来性を感じ、採用したいと思いますので…
もう一つ、夢に対する考え方について話します。私が防衛大学校に入った動機は、崇高なものではありませんでしたが、仕事を続けるにつれて自分の仕事に誇りを持つようになりました。正直、一生職業を変えるつもりは無かったですし、今も一つの事に打ち込む人生の価値を高く評価しています。それゆえ、自衛隊での役割を他の方にお任せして、他の道に進むことに非常に大きな葛藤がありました。更には、選抜された後、世論の動向をしっかりと見極め、もしも反対意見が多ければ、辞退する事も考えていました。ただ、私が確認する限り、強い反対意見もなかったようですので、宇宙飛行士候補者としてJAXAに就職する事が出来ました。その時私は、「宇宙開発も自衛隊も、国民の皆様の為の仕事である。今まで、私に投資してくださった国民の皆様に、違った形で奉仕するだけである。」と考え、自分を納得させました。これが、正しいと胸を張っていうためには、少なくとも私は、自衛隊で仕事を続けていた場合に勝る成果を、宇宙飛行士の分野で挙げ、皆様に貢献しなければなりません!長く書いてしまいましたが、結論としては、夢を追求して転職する際は、転職前に比して、より多く社会に貢献できなければならないと考えています。
いずれにしても、今後、私が、「夢」という言葉を講演やインタビューで使った時は、「人生の目標」という意味で使用していますので、今後もそのつもりで聞いてくださいね。
さて、結論です。私が皆様に伝えたいことは、「夢の重要性」=「人生の目標の重要性」です。さらにいうと、人が何故生きるのかということを真剣に考えて欲しいということです。私のような人生経験が浅いものがいうのもなんですが、多くの方がこれについて真剣に考えることで、日本或いは世界はもっと多くの人達にとって住みやすい場所となるはずです!夢について考えるのに遅すぎると言ったことは無いと思います!皆さんも時間を見つけて、一度自分の「夢」=「人生の目標」=「生き方」について考えてみてください。皆で明るい未来を築くために…
宇宙飛行士としての責任を自覚し、一生懸命「夢」=「人生の目標」の大切さを説いています。妻からは、言うことが宣教師さんみたいになってるよ!と言われることも(笑)。
※写真の出典はJAXA