今月も引き続き、ロシアの星の街での訓練が続いています。
前回のセッションでは、ソユーズ宇宙船の通信システムや電力システム、熱制御システムなどについて学びました。今回のセッションから、いよいよモーションコントロールシステムの訓練が始まっています。
先月号で少し触れましたが、ソユーズの訓練で1番の山場と言っても過言ではありません。
モーションコントロールというのは、もう少し具体的に言うと、ソユーズの姿勢のコントロール、3次元空間での動きを制御するシステムです。
ロケットから切り離された後、国際宇宙ステーションの高度まで近づき、さらにドッキング、半年間のミッションを終えた後には宇宙ステーションから離脱し、その後の大気圏突入までをコントロールする非常に重要なシステムになります。
一口に姿勢のコントロールと言っても、簡単なことではありません。
例えば、普段私たちはどちらが上でどちらが下か、自分の姿勢がどうなっているのかを特に意識せずとも判断することが出来ます。重力があるので、自分の体重がかかっている方向が常に下になって、それと反対の方向が上という具合です。
宇宙空間では、この当たり前のことがまずわからないのです。
上下の概念自体そもそもありませんが、自分が地球に対してどういう姿勢を取っているのかを理解するところから始めなければなりません。そうして初めて、自分が所望する姿勢にもっていく為にどういう操作が必要かが計算できるわけです。
このあたりは、私が乗ってきた飛行機の考え方とも全く違っていて、とても勉強していて楽しいです(勉強はとても大変ですが)。
4月11日、このシステムの最初の試験が無事終わりましたが、ここまでの訓練を担当して下さったViktor Suvorov教官は、なんと45年間もガガーリンコスモノートセンターで働いているそうです。45年前と言うと、まだ私は生まれてもいません。ソユーズ宇宙船の歴史は1967年から始まりますので、そのほとんど全てを見てきた、まさにマスターヨーダのような方です(わからない方ごめんなさい)。
ソユーズのシステムには数々のバックアップ手段がありますが、それらのバックアップが開発された背景には、大概過去に実際に発生した不具合が絡んでいて、この教官の授業では、
「これはどうしてこうなっているのか?」
といった質問をすると、
「それはのう、今を遡ること○○年前のソユーズ○号でのことじゃった・・・」
という裏話を聞くことが出来るので、とても楽しいのです。
NASAの教官は比較的若い方が多いのですが、星の街の教官にはこのような超ベテランの方が多く、そういう米ロ間の違いも興味深いですよね。
モックアップでの訓練の前に、マスターヨーダからブリーフィング(出典:JAXA/GCTC)
手動で姿勢をコントロールする操作を練習中(出典:JAXA/GCTC)
さて。
宇宙飛行士活動レポート2012年4月号から始まったこのコラム企画も、はや2年。この2年の間に多くのことがありました。もちろん、読者の皆さんにとっても誰にとっても等しく多くのことがあったことでしょう。
新たな年度を迎えるにあたり3人で相談した結果、ひとまず現在の形での『新米宇宙飛行士最前線』はここで終わりにしようということになりました。
宇宙飛行士自身の口で、生の声をお伝えしようという目的で始まったこの企画、始めるにあたって個人的に目指したことが3つあります。
1つは、なるべく色々な話題について書くということ。
もう1つは、とかく専門的になりがちな私たち宇宙飛行士の世界を、なるべく平易な言葉で、一般の方々にもわかりやすく書くということ。
そして最後に、背伸びをせず、等身大の自分の気持ちを書くということ。
実際に書いてみると、いずれもなかなかに難しい目標でした。特に2つ目の目標は。
専門用語の飛び交う世界に長いあいだ身を置いていると、世間一般で通用する言葉と、そうでない言葉の区別が難しくなることがあります。かと言って、全てを一般的な表現に書き換えてしまうと、それはそれで現場の臨場感が薄れてしまうこともあったり。そのあたりのさじ加減には、一番気を遣いました。
自分なりに色々と工夫して書いてきたつもりではありますが、いかがでしたでしょうか?
今後の情報の発信の仕方については、広報の担当者とも相談しながら、考えていこうと思います。個人的には何らかのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を利用してみたいなという希望もあります。
これまでに頂いたご意見・コメントは全て読ませて頂いてます。それらを参考にしつつ、なるべく間をおかず始めたいと思っていますので、引き続きどうぞよろしくお願いしますね!