2月になりました。いよいよソチオリンピックが始まりましたね!
以前にも書きましたが、私はオリンピックを観るのが大好きなので、テレビで選手の皆さんを応援したいと思います。
個人的に冬季オリンピックの競技で好きなのはアイスホッケーとカーリングですが、特にアイスホッケーはアメリカもロシアも強いですからね。これから両国を訓練で行き来することになる私としては、どちらの国にも頑張ってほしいです。
ソチオリンピックと言えば、若田飛行士の乗るソユーズ宇宙船に聖火のトーチが搭載されて、宇宙で初めて聖火リレーが行われました。
とは言え、実際に宇宙船の中に火を持ち込むのは危険極まりないので、宇宙に行ったのはあくまでトーチの部分だけですが。。。
ロシアの宇宙機関であるロスコスモスがアップしたこちらの動画で、その模様がご覧頂けます。私も観ましたが、国際宇宙ステーション(ISS)の中を日本、イタリア、アメリカ、ロシアの各国の宇宙飛行士たちがトーチをリレーしていく姿は、スポーツだけでなく、科学の分野でも世界中の国々が1つになれる可能性を示しているようで、なかなか感慨深いものがありました。
さて、ここからは180度方向転換して、今月の話題は先日訓練を受けたばかりのISSに備えつけられているトイレについてです。
たかがトイレ、されどトイレです。
海外旅行をされる際、その国のトイレ事情を気にする方は多いのではないでしょうか。日本は比較的トイレが綺麗ですからね。実際、アメリカ人の宇宙飛行士の間でも、日本の温水洗浄装置付きのトイレは人気があります。最初は使い方がわからず、戸惑うみたいですが(^^;)
私はと言うと、宇宙飛行士になってから、そのあたりの耐性は随分鍛えられました。野外サバイバル訓練ではトイレすらない大自然の中で10日間近く過ごしました。この時はトイレットペーパーも環境に悪影響を与えるので使用出来ないという状況でした。(注:お尻を拭かないという意味ではありません。身の回りの自然の中から、代替品を見つけて使います)
さらにその後参加したフロリダ沖の海底で行われたNEEMO訓練では、“海中トイレ”を使用して1週間を過ごしました。これは要するに、海の中でそのままするだけです。この時は『餌』に群がってくる魚たちと戦いながら用を足す必要がありました。魚たちもたいしたもので、数日もすると「人間が来る」=「餌が手に入る」ということを学習するようで、夜の暗い海の中で沢山の魚に周りをぐるぐる回られるのはあまり気持ちの良いものではありませんでした。なかなか得難い経験だったと思います。
これだけの経験を積んでいれば、はっきり言ってもう怖いものはありません(少なくともトイレに関しては)。
さて、ISSのトイレです。
現在、ISSにはアメリカとロシアの居住区画に、それぞれ1つずつトイレがありますが、元になっている機器自体はどちらもロシア製です。ただ、アメリカ側のものは水再生装置にも接続されている関係で、多少機器が追加されています。
それらの機器の使い方についての基礎的な訓練を先日受けました。
写真は打ち上げ前に撮られたものですが、一見すると地上のものと大きな違いはありませんよね?
宇宙で用を足すとき、地上と違って気をつけないといけないのは、無重力ということです。
そのことを考慮しないと、液体も固体も飛び散って、そのまま周囲にフワフワと浮遊するという恐ろしい事態になってしまいます。そこで、このトイレでは排泄物を掃除機のように吸引できるようになっているのです。
写真の中央に写っているものが、便器に相当するものです。これとは別に、「小」用に漏斗のような形をしたアダプターがついたホースもあるのですが、写真右手に縦に細長く写っているものがそれです。便器もホースも、空気を吸引するためのファンに繋がっていて、排泄物を吸引できるようになっているのです。
便器には地上と同じように蓋がついているのですが、訓練中、インストラクターから口を酸っぱくして「蓋を開ける前に必ずファンのスイッチを入れるように!」と釘を刺されました。
ふと興味がわいて、「ファンをオンにする前に蓋開けちゃうとどうなるの?」と聞いたところ、「臭いがあふれてくるよ(笑)」との答えが返ってきました。
心のノートにしっかりと、「蓋開ける前にファンをオン!」と書き留めたことは言うまでもありません。
先に、アメリカ側のトイレは水再生装置にも接続されている、と書きました。
そうです。現在ISSでは、人間の尿を再生して飲料水にするという画期的な技術が使用されているのです!!
この装置が導入された当時、ISSに滞在していた若田飛行士を含む3名の宇宙飛行士が、乾杯してその飲料水を飲んでいる映像がニュース等でも報じられたので、ご存知の方も多いかもしれませんね。
さて、ISSのトイレ事情、いかがでしたでしょうか?
今回のコラムを読んで宇宙飛行士を目指すのをやめた、という方が出てこないことを祈ります。。。
ジョンソン宇宙センターの宇宙飛行士のオフィスは、6階建ての建物の5・6階に入っていて、エレベーターか階段でアクセスできるのですが、ある日エレベーターホールに通じる扉にこんな張り紙がしてありました。『成功への近道(エレベーター)はない、階段を使うべし』
NASAの中では時々、こんな遊び心に満ちた、それでいて含蓄に富んだ張り紙を見かけることがあります。以来、よっぽど急いでいるとき以外は、階段を使うようにしています(^^)
※写真の出典はJAXA/NASA