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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポートに連載している油井・大西・金井宇宙飛行士が綴るコラム記事“新米宇宙飛行士最前線!”のバックナンバーです。
最終更新日:2013年6月24日

既に猛暑ともいえる暑さの続いている6月のある日、私は過去の記事を参照しながら今月の『新米宇宙飛行士最前線』は何について書こうかなと思案しておりました。ちなみにこちらからバックナンバーをご覧いただけるのはご存知でしょうか?最近このコラムを読み始めたという方、是非過去の記事もご覧いただければ幸いです。

先月の私たち3人の記事を読んでいて、はたと私は考えました。

油井さんが人生における幸せの意味について熱く語り、かたや金井さんがジーン・クランツの10ヵ条を引用して地上の管制官のプロフェッショナリズムについて紹介するなか、私のコラムのメイントピックが「宇宙でのおなら」って。

・・・これではいけない。このままでは、私のキャラが完全に誤解されてしまう。

というわけで、今月は少しシリアスな内容について書いてみたいと思います。

それは、国際宇宙ステーションにおける緊急事態についてです。

国際宇宙ステーションは1つの巨大な宇宙船であり、いくつもの区画、機械、装置、コンピューターなどから構成されています。宇宙飛行士の居住空間と隔壁1枚を隔てたすぐ外は、人間が生身では生きていけない宇宙空間が広がっています。またその高度は地上約400kmで、私たちの生活している地上と国際宇宙ステーションの間には分厚い大気の壁が横たわっており、宇宙飛行士が地上に帰還する際には特殊な技術・宇宙船が必要になります。

人間の作り上げたこの巨大なシステム。もちろん、この地上の他の多くのシステムと同様、故障や不具合と完全に無縁というわけにはいきません。実際、小さい不具合を含めれば国際宇宙ステーションではこれまで何度も問題が発生しており、その都度、地上のチームと宇宙飛行士が協力してその解決にあたってきました。記憶に新しいところでは、昨年ステーションに4つある電気系統の1つの配電装置が故障した際には、星出宇宙飛行士が船外活動を行ってその装置を交換するといったことがありました。

不具合・故障といってもその種類は様々です。先ほどのステーションの運用に大きな影響を及ぼすような配電盤の故障もあれば、居住空間の電灯のランプ切れなど軽微なものもあります。そこで、ステーションでは緊急度に応じてそれらを4つにランク分けして、そのランクによって対処方法を変えています。専門用語になりますが、緊急度の高い方からEmergency⇒Warning⇒Caution⇒Advisoryという4つのランクがあります。

最も緊急度の高い『Emergency』は、日本語にするなら緊急事態・非常事態とでも言うべき事態なのですが、「すぐに適切に対処しなければ宇宙飛行士の生命の危機に繋がるような事態」と定義されています。

それでは、実際どのようなケースが『Emergency』に相当するのでしょうか?

国際宇宙ステーションでは3つのケースがこれに該当します。それぞれ簡単にご説明したいと思います。

①火災

外への逃げ場のない宇宙ステーションでは、火災は地上と同様、もしくはそれ以上に危険な事態になります。万が一発生した場合、宇宙飛行士が主体的に速やかに消火活動にあたることになります。その為、ステーション内の各所に消火器が設置され、また火災を検知するセンサーも至るところに設置されており、発生次第システムが警報を発するようなシステムになっています。

また根本的な対策として、基本的に宇宙ステーションで用いられるものは不燃性もしくは難燃性のものになっています。

②急減圧(空気漏れ)

急減圧というのは専門的な用語ですが、要するにステーション内の空気が宇宙空間に漏れてしまうような事態です。そのまま放置すれば居住空間も真空になってしまうので、これも非常に危険な事態です。
対処方法はケースバイケースです。空気の抜けていくスピード、漏れの原因となっている穴の場所などによって、その都度最適な対処法を取ることになります。

例えば空気の漏れるスピードが速く、穴を塞いでいる時間がないようなケースでは、その区画自体を隔離してステーションの他の区画に被害が及ぶのを防ぎます。家で例えれば、空気漏れの発生した部屋に通じる扉を全て閉じ、その部屋にはもう入れなくなってしまいますが、その代わりに他の部屋まで空気が漏れるのを防ぐ、というやり方になります。

③有害物質の発生

地上のように、窓を開けて換気するという最も基本的で簡単な対処法が取れない宇宙では、これも非常に大きな問題です。すぐにその有害物質を容器に収納してやる必要がありますが、それが気体なら非常に困難です。また、液体も宇宙では四方八方に飛び散ってしまうので、そう簡単にはいきません。先の火災への対策と同様、ステーションの各所に防護マスクが設置されており、有害物質が発生した際にはそれを被ってひとまず安全なエリアまで避難する、というのが基本的な対処になります。

最悪の場合、汚染された区画全体を隔離しなければならないかも知れません。

以上の3つの事態が、現在国際宇宙ステーションで緊急事態とされているものになります。想像すると、怖くなって宇宙に行きたくなくなってしまいますか?でも、実は地上の私たちの周りにも大小様々な危険が潜んでいますよね。

大切なのはその危険性をしっかりと認識して、それへの対策を考えておくことだと私は思っています。だからこそ、私たち宇宙飛行士や地上の管制チームはこれらの緊急事態への対処に関する訓練に、非常に多くの労力と時間をかけています。NASAのジョンソン宇宙センターには実物大の宇宙ステーションの模型がありますが、私は以前、その中で行われた緊急事態の対処訓練に参加したことがあります。火災の発生を想定した訓練では、実際に煙を模型の中に充満させるなど、かなり大掛かり、かつリアルな訓練でした。

安全というこの形のないもの、それを支えるのは常日頃からの訓練に他ならないと私は信じています。

写真

※写真の出典はJAXA/NASA



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