10月5日、皆さんもニュース等でご覧になられたかと思いますが、私の同僚である油井亀美也宇宙飛行士の国際宇宙ステーション長期滞在決定が発表されました。それを記念して、今月のコラムでは油井さんについて語りたいと思います。私たち3人の2009年組JAXA宇宙飛行士は、まだまだ一般の方々に知られていないので、この他己紹介を通して、油井さんの知られざる一面をお伝えできればと思います。
油井さんと金井さんと私は、JAXAが2008~2009年に実施した宇宙飛行士候補者選抜試験で選ばれJAXAに入社した、いわゆる同期入社になります。とはいえ、油井さんはパイロットとしても、社会人としても、私よりもずっと先輩で、同期というのも本来はおこがましいのですが(汗)
尊敬できる先輩であり、とても頼りになる同期でもあり、プライベートではよく遊んでもらう友人でもあり、私にとって油井さんはそんな色々な側面をもった存在なのです。
油井さんと初めて会ったのは、2008年の暮れのことです。当時、選抜試験は2次選抜まで進んでいて、その2次選抜受験者の間で企画された親睦会という名目での宴会の場でした。この時の選抜試験にはパイロットが多く参加しており、その中に自衛隊のテストパイロットがいることは聞いていましたが、油井さんがその人でした。
自衛隊のパイロットというと、勝手ながら私の中ではものすごく強面で筋肉ムキムキの屈強な人というイメージがあったのですが、実際に会った油井さんは、とても穏やかで気さくで、特段眼光が鋭いというわけでもなく、むしろ何だか眠そうな眼をしているな、というのが第一印象で(笑)、言ってしまえばどこにでもいそうな普通のおじさん(失礼!)でした。
その「普通のおじさん」に見えた油井さんが、そのあと行われた最終選抜で、群を抜く統率力でチームをまとめ、強力なリーダーシップを発揮したことは、鮮烈なイメージで今も私の記憶に焼きついています。どんな場面でも、物事の本質をしっかりと捉えていて、今のチームに必要なもの・不必要なものを明確に区別し、周囲をどんどん引っ張っていくので、長期間に及んだ最終選抜試験の期間中、知らず知らずのうちに油井さんがリーダーになっているケースが多々ありました。リーダーシップというものが、天性によるものなのか、それとも訓練で身につくものなのかということは議論の余地があると思いますが、自衛隊での厳しい訓練をパスしてきたという自信が、油井さんのリーダーシップスタイルの根本的なところを支えているような気がします。
その後、アメリカのヒューストンに渡り、NASAの宇宙飛行士候補者訓練に一緒に参加するようになってから、こんなことがありました。
当初、私は英語力がまだまだで、授業についていくのも必死という時期で、ある授業の後、油井さんはどれくらい理解できているのだろうと不安になって聞いてみたことがあります。その時の油井さんの回答は、「今の授業は、このへんとこのへん、それからここさえ理解しておけば多分大丈夫ですよ」というものでした。私は衝撃を受けました。油井さんと言えど授業の全てを聞き取れているというわけではないのでしょうが、その授業の中で、どこが大事なのか、逆に言えばそんなに重要でないところはどこか、ということをしっかりと整理出来ているのが驚きでした。何より、油井さんにそう言われると、本当にそこさえ理解出来ていれば大丈夫だというような、妙な安心感が沸いてくるから不思議です。
他にも油井さんがいかにすごい人かというエピソードは沢山ありますが、あまり褒めちぎっても面白くないので(笑)、そんな完璧超人・油井さんの人間くさい面もご紹介しましょう。
油井さんは自他共に認める野菜嫌いですが、食事には独自のこだわりがあるようで、行くお店によって注文するメニューが決まっています。アメリカに来た当初、お互い単身だったのでよく食事に一緒に行きましたが、行きつけの中華料理屋で油井さんはいつも蝦チャーハンを頼んでいました。私はどちらかと言うと、色々なメニューを試すのが好きなので、いつも同じメニューでよく飽きないなあと思って見ておりました。
ある日、私はこう言いました。
「油井さん、ここのお店はこのカレーチキンも美味しいですよ」
すると油井さんは、
「へえ、そうなんですか! 美味しそうですね」
と言って、ニッコリ笑いました。しばらくしてウエイターがやって来て、「注文は?」と聞くと、油井さんは何事もなかったかのように、
「蝦チャーハンで(真顔)」
これには思わず、「やっぱりいつものですか!」とツッコんでしまいました。
油井さん、食べるものに関してはかなり頑固なようです。野菜嫌いなのも、単なる好き嫌いではなく、何か深い事情があるのかも・・・
他にも、人の話を真剣に聞いているようで、実は聞き流しているという得意技も油井さんは持っていますが、あまり色々書くと今後の油井さんとの人間関係に支障が出かねないので、このへんにしておきましょう。
・・・最後にどうでもいい話を一つ。ここヒューストンで、油井さんと私に気に入られたお店は、しばらくすると潰れるという何ともはた迷惑なジンクスがあります(汗)
これまで、タイ料理屋に始まり、インド料理屋、サンドイッチ屋、中華料理屋、極めつけは行きつけのバッティングセンターまで潰れたのには本当に驚きました。ヒューストンでお店を経営している方々、私たち2人が足繁く通うようになったらご注意を。
※写真の出典はJAXA