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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポートに連載している油井・大西・金井宇宙飛行士が綴るコラム記事“新米宇宙飛行士最前線!”のバックナンバーです。
最終更新日:2012年9月27日

今現在、学生時代に自分がした選択の中で激しく後悔していることが一つあります。

それは、第二外国語の選択です。

大学に入学するにあたり、最初の2年間で勉強する第二外国語を選ぶことになりました。それに応じて、最初のクラス分けなども決まってくるので、とても重要な選択なのですが、私は何の根拠もなく、何となくカッコよさそうだといういい加減極まりない理由で、ドイツ語を選択したのでした。

それから15年以上の月日が流れ・・・、なぜあの時ロシア語を選択しなかったのだろうと、当時ののん気な自分を恨めしく思う自分がいます。

まさに後悔先に立たず、ですね。

現在、国際宇宙ステーションの長期滞在を目指す宇宙飛行士にとって、避けては通れない関門、それがロシア語です。

アメリカのスペースシャトルが退役した今、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送は、ロシアのソユーズロケットが一手に引き受けています。そのソユーズロケットに関する訓練や、宇宙ステーションのロシア区画に関する訓練は、当然のことながらロシアで行われます。もちろん、そこで使用される言語は全てロシア語です。

通訳を介して訓練を受けることも可能ですが、やはり教官の言葉を直接理解できるのと、通訳の言葉を通して理解するのとでは大きな違いがあるでしょう。ですから、宇宙飛行士はみな一生懸命にロシア語を勉強するわけです。

ここヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターには、私たち宇宙飛行士にロシア語を教えてくれる先生が数多くいます。多くの先生はロシア語圏で育ったロシア人で、他にもアメリカ人の先生も数人います。

基本的に、授業は先生と一対一の形で行われ、一回のレッスンは1時間半もしくは2時間で、週2,3回のレッスンがあります。

授業の進め方は、先生によって異なっていて、私の先生の場合、文法のレッスン、会話の練習、ロシア語のドキュメンタリーの鑑賞、新聞ニュースの読解などを並行して進めています。

私がロシア語の勉強を始めて、かれこれ2年以上が経ちます。

全く新しいことを一から始めるというのは、どこの世界でも大変なことですが、ロシア語を勉強するにあたっても、最初は沢山の戸惑いがありました。もちろん、今でも四苦八苦していますが・・・

ひとつ、その例をご紹介しましょう。

ロシア語にあって日本語には全くない概念、名詞の性別というものがあります。これはドイツ語など他の言語にも見られる概念です。

本とかミルク、学校、教科書などなど、全ての名詞は男性名詞・中性名詞・女性名詞に分類されます。男の子という単語は男性名詞、女学生という単語は女性名詞というように、わかりやすく分類されている名詞も多くありますが、中には正直意味不明の分類もあります。例えば、雑誌という単語は男性名詞、新聞は女性名詞、砂糖は男性名詞で塩は女性名詞、といった具合です。

これらの性別によって、それを修飾する形容詞の形が変わってきたりもします。日本語では、「大きい」という形容詞は名詞によって形を変えたりしませんが、ロシア語では「その建物(中性名詞)は大きい」と言うときと、「その車(女性名詞)は大きい」と言うときで、「大きい」という形容詞の形が少し異なるのです。

この単語の形の変化、専門的には語形変化とでも言うのでしょうか。ロシア語はこの語形変化が複雑で、習いたての頃は辞書を引いても調べたい単語がなかなか見つからないほどです。

私たち日本人に馴染みの深い英語でも多少の語形変化はありますが、ロシア語と比べたら月とスッポン、そういうシンプルなところも英語が世界的な言語として普及していった要因の一つかも知れませんね。もしくはその逆で、普及していく過程でシンプルなものに変容していったのでしょうか??

先に、全く新しいことを一から始めるのは大変と書きました。その一方で、新しいことを知っていく喜びや楽しさというのもありますね。先日、初めてロシアを訪れる機会がありましたが、現地の人々とロシア語で簡単なコミュニケーションがとれた時は、とても嬉しかったです。

これからも、ロシア語というこの難しきものと、楽しく、上手く付き合っていけたらなと思っています。

余談ですが、同じようにロシア語と悪戦苦闘しているアメリカ人に以前、「ロシア語って本当に複雑で難しいよねえ」という話をしたら、返ってきた言葉は、「何言ってるんだ。日本語だってメチャクチャ難しいじゃないか。なんだ、あの漢字というやつは。一体いくつあるんだ!」というものでした。

・・・・・確かに。



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