今月から月1で訓練のこと、その他の仕事のこと、近況などについて、書いていくことになりました。普段、私たち宇宙飛行士がどんなことを考え、どんな生活を送っているのか、皆様にご紹介していきたいと思います。
今月は、T-38ジェット練習機による操縦訓練の模様についてです。
どうして宇宙飛行士に飛行機を操縦する訓練が必要なのか、その疑問はひとまず置いておいて・・・
写真がそのT-38です。T-38は50年以上前から使用されている、多くのアメリカ空軍パイロットを育ててきた練習機です。50年というと私が生まれるずっと前ですし、まだ世の中はようやくカラーテレビ放送が始まった頃です。そんな古い機体が・・・、と思われるかもしれませんが、実際にはその後何度も改修を重ねて現在に至っています。NASAで使用されているT-38は独自モデルで、コックピット内はハイテク化されていて、速度計や高度計は1つのディスプレイに集約されていますし、GPSも搭載されています。
エンジンは胴体の両脇に左右1つずつついていて、写真を観てお分かりになる通り2人乗りの仕様になっています。私たちの訓練では、前席にアメリカ人のパイロット宇宙飛行士かフライト教官が乗り、パイロットでない宇宙飛行士や私のようにアメリカ人でない宇宙飛行士は、後席に乗ります。後席からは前方の視界が悪いので、離着陸の操作は行えませんが、それ以外の部分では飛行機の姿勢を示す計器を使って飛行機を操縦することも可能です。
4月のある日。この日は他の訓練が何も入っておらず、ちょうど私の同期のScott Tingle宇宙飛行士が飛ぶT-38の後席が空いていたので、終日T-38の飛行訓練を行うことに決めていました。最近はパイロット宇宙飛行士が少なくなってきていて、人数バランス的には後席要員の方がずっと多いので、飛行訓練の機会は熾烈な早い者勝ちです。こまめに自分のスケジュールとT-38のスケジュールをチェックして、後席が空いていれば迷わず取りにいかないと、すぐに埋まってしまいます。
出発予定時刻の1時間前、朝の7時にエリントン飛行場に到着しました。天気は良好。これならどこに行っても、天気の心配はなさそうです。Scottと話し合って、今日の飛行ルートを決めました。
エリントンから出発してエルパソを経由し、フェニックスまで行って昼食。帰りはミッドランド経由で戻ることにしました。ルートが決まると、あとは各空港の情報や、緊急時の対処などについてお互いで確認します。例えば、閉鎖されている滑走路は無いか、2つあるエンジンの内1つが止まってしまったらどうするか、無線機が故障してしまったらどうするか、などです。
必要な情報が揃って、準備が整ったところで、いざ出発です。Scottが前席でエンジンを始動する間、私は後席で出発許可を管制塔からもらったり、コックピット内の装置をセットアップしたりと大忙しです。
ところが、エンジンを始動したところで、トラブルが。
それぞれのエンジンに1つずつ付いている発電機のうち、右側の発電機が作動していないことを示す警告灯が点灯しています。整備員の指示に従って、Scottがトラブルシュートを試みますが、残念ながら復旧しません。このままの状態では出発できないので、仕方がありませんがエンジンを止めます。
実際には発電機が1つ使えなくても、残りの1つから電力を全てのシステムに供給することは可能です。さらには、両方の発電機が壊れても、最後の砦として飛行機には大きな電池が搭載されているので、その電池から飛行に最低限必要な計器や機器に電力が供給されるようになっています(ただし20分ももちません)。
要するに、重要なシステムには何重ものバックアップがあるわけで、だからこそ飛行機は安全な乗り物なのです。
今回の場合、そのうちの1系統が作動していない状態なので、そのままの状態では出発できないのです。こういった安全性を第一に考えるという点は、まさに宇宙飛行に共通する点で、私たち宇宙飛行士が訓練で飛行機を使用する理由の1つとなっています。
幸い、この日は予備の機体をすぐに用意してもらえたので、その機体に乗り換えて再出発することになりました。運が悪ければ、貴重な飛行訓練の機会を丸1日棒に振るところでした・・・
と、ここまで書いたところで、なんと当初予定していた分量を使い果たしてしまったので、飛行中の様子は来月のレポートでお伝えしたいと思います。
To be continued...
(写真の出典はJAXA/NASA)