みなさん、こんにちは。宇宙飛行士の金井宣茂です。
先日、『こうのとり4号機』が無事に国際宇宙ステーションに到着しましたね。
見事な打上げと、ランデブー、そしてキャプチャー(エンジンを切ってフリードリフトに入った『こうのとり』を宇宙飛行士がロボットアームで捕まえることを、こう呼びます)でした。
見事にキャッチ!相対速度がゼロなので一見止まっているように見える「こうのとり」ですが、実際には同じ速度で並行して疾走する2両の電車の窓から、お互い手を伸ばして握手をするようなものなのだそうです。
当たり前のように打ち上がって、当たり前のように宇宙ステーションに到着したように見えますが、その舞台裏では、多くのエンジニアの入念な準備や、実際の運用にあたってのさまざまな苦労があったことは想像に難くありません。
「当たり前のように」と書きましたが、実際にミッションに携わる人たち以外は、わたし自身を含め、多くの人が、深く心配することもなく、打上げ・ドッキングの成功を期待していたのではないでしょうか。
「ああ、『こうのとり』が打ち上がったの?」「無事に、宇宙ステーションに到着したって?」
ニュースを読んだり聞いたりしても、「当たり前のこと」と読み流したり、聞き流す人が多いのではないかと想像します。
初めての成功というわけでもないから、大きなニュースとして扱ってもらえない・・・と、ちょっと残念な気もします。
考えてみれば、最初の成功ももちろん大変なことですが、2回目、3回目、4回目と、その成功を続けていくことは、最初の1回目と同じくらい大変な仕事のはずですから。
わたしが勤務している米国ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターでも、「今回の『こうのとり4号機』が失敗するかもしれない」と本気で心配していた人は、多分ひとりもいなかったと思います。
これも、初号機ミッションから毎回、入念な準備を重ね、成功を続けてきた結果としての信頼と期待なのでしょう。
人類を月まで送ったNASAに、ここまで信頼と期待をされているのを、普段の業務の中で肌身で感じることができるのは、日本人として、JAXAの職員として、とても誇らしく思いますし、そのような環境で過ごさせてもらえる幸せを感じない日はありません。
ただ、この素晴らしい環境は、決して自分が勝ち取ったものではないということも同時に強く感じます。
『こうのとり』や『H-IIBロケット』、日本実験棟『きぼう』の運用チーム、その開発のために長年NASAと仕事を進めてきた多くの先輩エンジニア、先輩日本人宇宙飛行士の方々、スペースシャトルの時代から宇宙実験に携わってきた研究者の皆さん・・・。
そういった人たちの実力と実績が、絶対的な信頼を受けているというだけで、自分自身は、何か実績を残したというわけでもなく、タダで居心地の良い環境だけを提供されて、好きなように勉強させていただいているっていうのは、ちょっとバツの悪い思いがよぎることもあります。
もちろん、将来、宇宙飛行ミッションに任命を受けたあかつきには、信頼や期待にこたえるべく一生懸命仕事をするつもりですが、なんだか今は、出世払いで借金を重ねているような気がしないでもありません。
「『こうのとり』は素晴らしいね」「JAXAはさすがに良い仕事をするね」と、NASAの同僚から声をかけられると嬉しい反面、「自分は日本人宇宙飛行士として、こんな大きな期待を裏切らない仕事ができるのか?」と心配になってしまいます。
ミッションの任命を受けるときに、胸を張って「お任せください!」と言えるよう、精一杯毎日を頑張るしかありません。
※写真の出典はJAXA/NASA