みなさん、こんにちは。宇宙飛行士の金井宣茂です。
こちらヒューストンでは、過ごし易い季節が終わり、灼熱の長い夏が始まりつつあります。アスファルトが溶けそうな外気温と、冷房の利きすぎの室温と(特に巨大なコンピューターを使うシミュレーション・ルーム)の温度差が大きく、こちらで生活を始めた頃には体調を崩しがちでしたが、今では、真夏日には厚手の上着を持参するようにして、“夏の防寒対策”はばっちりです。
宇宙飛行士候補者の選抜試験の一環としてヒューストンを訪れたのが4年前(そのときは冬でしたが)。そのときに比べると、われながら、だいぶ馴染んできたなぁと感じます。
宇宙飛行士候補者として選ばれ、約2年間の候補者訓練をくぐり抜けた後、宇宙飛行士の認定を受け、今では3人のJAXA新人飛行士のトップバッターとして、油井宇宙飛行士が初めての長期滞在ミッションに向けて着々と訓練を続けています。
われわれが選抜を受けた2009年は、実は日本だけでなく、アメリカ、カナダ、ヨーロッパでも同時に、新しい世代の宇宙飛行士の選抜を行われました。
出身国は違っても、みんな、同じ時期に訓練を受けた、いわば同期の新人飛行士です。
その中でも一番手として、5月末より、イタリア出身のパルミターノ飛行士が宇宙ステーションに到着してミッションを開始しています。間を置かず、9月にホプキンス飛行士(米)、2014年にワイズマン(米)・ガースト(独)両飛行士とクリストフォレッティー(伊)飛行士、2015年には油井(日)・リングレン(米)両飛行士とピーク(英)飛行士・・・と、他の「同期生」も続々と宇宙に飛び立つことになっており、自分のことのようにドキドキわくわくしています。
一緒に訓練をしてきた2009年アスキャン(宇宙飛行士候補者)クラスのみんな。これから次々と宇宙に打ち上がっていきます。(出典:JAXA/NASA)
日本人以外の宇宙飛行士というと、日本の皆さんには、なかなか馴染みが薄いかもしれませんが、宇宙飛行士の中でも、一緒に訓練を行って同じ釜の飯を食べてきた仲間というのは、特別なものがあります。ニュースやJAXAの発信するさまざまな情報で名前を聞いたら、ぜひ(特別に)応援してください!
さて、“宇宙飛行士の仲間”というと、一緒に訓練を受けた仲間はもちろんそうなのですが、一緒に宇宙飛行士を目指した仲間も、実はもっとたくさんいます。
油井飛行士・大西飛行士・わたしが選抜されたJAXAの選抜試験では、合計で963人の応募者があり、受験者同士の顔がお互いに見えてくる二次試験には48人が参加し、一週間の閉鎖環境試験やヒューストンにあるNASAでの面接を含む最終試験には10人が残りました。
「宇宙飛行士になりたい!」という強い希望を持って試験に参加した受験者は、おたがいライバルであると同時に、同じ夢を共有する仲間であるという意識を強く感じたものでした。
詳しく調査したわけではありませんが、他国と比べると、日本だけは、この選抜試験を経験した受験者同士の交流が、試験が終わって何年も経っても継続しているというユニークな特徴があるようです。
日本に帰国する機会に、声をかけて受験者仲間で集まることが今でもありますが、何年も前のことなのに、当時の気持ちの高揚感や緊張感を、ありありと思い出します。
一緒に筑波宇宙センターの閉鎖環境施設に閉じ込められたときの話、二次試験で病院に集まり集中的な医学検査を受けたときの話、一番最初の一次試験でドキドキしながら筆記試験を受けたときの話などなど・・・時間を忘れて盛り上がってしまいます。
驚くのは、こういう受験生同士の交流は、なにもわれわれ「2008年受験組」だけのことではないということです。
日本人宇宙飛行士を始めて募集した第1回目の毛利・向井・土井飛行士の選抜時の受験生から、第2回目の若田飛行士、第3回目の野口飛行士、第4回目の古川・星出・山崎飛行士の選抜時の受験生まで、世代ごとに選抜経験者同士がいまだに交流を続けているのです。
初めての日本人宇宙飛行士が選ばれたのが1985年ですから、その後、30年近い交流が続いているということになります!
宇宙飛行士への夢をあきらめず、何度も選抜試験に挑戦を続けておられる方もおりますので、そういった方を通して、輪が広がり、世代間を超えて集まることもあります。
すでに会社の重役やマネージメント、あるいは大学の教授などになられている第一期の受験者の方から、職場の主戦力としてバリバリ現場で働く最近の受験者、さらには将来の受験を目指す大学を出たての気鋭のエンジニアや研究者など、年齢も職業も関係なく、選抜試験の思い出話や、宇宙飛行への夢を語り合うというのは、ちょっと奇妙な光景でもありますが、同時に、お互い励まし励まされたり、「よーし、頑張ろう!」というエネルギーをもらえる場でもあります。
世間一般の全体からすると、宇宙開発に興味を持つ人の数は決して多くはないのかもしれません。でも、この“宇宙飛行士の仲間たち”とともに語らっていると、夢に向かって情熱を燃やしたり、自分が思っている以上の実力を発揮したりすることのできる、素晴らしい挑戦分野であると改めて確信します。
そんな仲間たちを代表して、日々、珍しい体験・貴重な経験を積ませていただいているということに感謝するとともに、ひとりでも多くの人に、宇宙開発の魅力・面白さを知っていただくようにするのも宇宙飛行士の仕事ではないかと思っています。
月1回だけですが、このコラムを通して、少しでも興味を引くような宇宙開発のこぼれ話をご紹介できれば良いと考えています。「こんな話すると面白いんじゃないか?」「みんな、こういうことを知りたいと思っている」そんなアイデアがありましたら、下の『ご意見・ご感想』フォームで送っていただけますと、大変助かります。