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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポートに連載している油井・大西・金井宇宙飛行士が綴るコラム記事“新米宇宙飛行士最前線!”のバックナンバーです。
最終更新日:2012年10月22日

みなさん、こんにちは。新米宇宙飛行士の金井宣茂(かないのりしげ)です。

旅から旅を重ねながらの宇宙飛行士“修業”は、まだまだ続いています。

早いもので、宇宙飛行士候補者として選ばれてから、約3年が経ちました。その後、アメリカのヒューストンを拠点にしながらも、さまざまな国に行って訓練を継続しています。

国際宇宙ステーションという一つのプロジェクトに関わっているのは同じなのですが、訓練に行く場所ごとで、訓練のやり方や現場の雰囲気に、それぞれのお国柄が感じられるのは興味をひかれます。

たとえば、ロシアに行くと、古くからの有人宇宙開発の歴史があり、「宇宙ステーションの運営はロシアがリーダーシップをとっているんだ!」という強いプライドを感じます。かといって外国人に対して冷たいようなところは全然なく、むしろ外国から技術や知識を学びに来る者を温かく迎え入れる、“度量の大きさ”や“対応慣れ”のようなものさえ感じます。旧ソ連時代に、社会主義の国々から宇宙飛行士を募って宇宙飛行を行ったり、民間人から宇宙旅行者を募ったりしてきた歴史的な背景によるのでしょうか?

写真:ロシアでのソユーズ宇宙船の訓練の様子

ロシアでのソユーズ宇宙船の訓練の様子(出典:JAXA/GCTC)

ガガーリンの時代を知っているような古株の名物教官の指導は人間味があって、実際に訓練を受けてみると、日本で言うところの「師匠と弟子」の関係のような心の絆を感じさせられました。ロシア語も満足にできない自分にも、温かく親身に、有人宇宙活動のイロハを手ほどきしてくれたのには、本当に感謝でいっぱいです。

これに対して、アメリカのインストラクターは、若くて優秀なエンジニアが多く、効率的に短時間で、必要十分な知識と技能が身につくような訓練体系が練られています。

また、飛行訓練を行うために、T-38というNASA独自のジェット練習機をたくさん保有していたり、宇宙遊泳の訓練を行うために超巨大なプールに実物大の宇宙ステーションの模型(モックアップと言います)を沈めて、水中用に改造した宇宙服を使って訓練したり、宇宙センター中に、内部まで模擬した実物大モックアップ(プールに沈んでいるものとは別物)を用意して、故障した装置の交換修理や緊急事態対応の訓練を実施したりと、とことんまでリアリティーを追及した訓練を提供してくれます。これだけの設備を維持管理するだけでも、どれだけ予算がかかっているんだろう?と他人事ながら心配になってしまいますが、これには「さすが、大国アメリカ」と脱帽するしかありません。

単に国力の大きさというだけでなく、宇宙開発に対する国民の理解と期待、月に人類を送ったという“誇り”が、NASAにそれだけ大きな活動の余地を与えているのだと思います。



写真:NASAでのプールを使用した船外活動訓練の様子

NASAでのプールを使用した船外活動訓練の様子(出典:JAXA/NASA)

一方、欧州宇宙機関は、ヨーロッパの国々が予算を出し合って運営する比較的小さな組織です。宇宙飛行士も職員も、異なる言語、異なる歴史、異なる文化を背景に持つ人々が一つの目的に向かって協力して仕事をしているのが印象的でした。日本から見れば一つの欧州のようにも思えるのですが、現地に行ってみると、国ごとの宇宙政策の違いがあり、計画や予算をまとめるのが非常に難しいところもあるようです。

宇宙ステーションの管制センターも、実験棟「コロンバス」はドイツ、宇宙輸送機「ATV」はフランス、「コロンバス」内に設置された実験装置ごとに、別々の国や地域に特別の施設を持っており、全ヨーロッパに散らばった管制センターを、通信ネットワークを使って、巧みにまとめあげているのも、大きな特色だと思われました。

言葉や考え方だけでなく、ときには目指すゴールさえ微妙に異なる国々で、辛抱強く調整を重ねて、一つ一つの実績を積み上げて行く様子には、古い歴史に裏打ちされた、成熟した国際人としてのありかたを感じることができ、島国で外国との交流が限られている日本人として、学ぶことが大いにあります。

新しく知り合った人と一緒に仕事をするにあたって、国籍をもとに、ステレオタイプに判断するのは良くないという考えもあるでしょうが、特にわたしのような新人にとっては、対話を始めるにあたって、ひとつの材料になるような気がします。

宇宙ステーションに限らず、現代の宇宙開発は多国間の国際協力なしでは考えられません。このような国際協力活動では、自分の主張をしっかり述べることが大切ですが、同時に、互いの異なる立場や考え方を理解して、双方が利を得ることができるような関係が必要であると思います。

そんな相互理解にあたって特に大切なのは、何よりもまず、お互いの顔と顔を突き合わせて実際に話してみることであると思います。

仕事のやり方、訓練のしかた、はたまたお酒の飲み方など、小さなことから始まる他文化への理解こそが、大きな仕事を達成するための、最初の一歩であると考えています。

その点では、宇宙ステーションへ参加している各極に、直接、訓練に行かせていただき、現地のインストラクターやエンジニア、宇宙飛行士たちと知り合いになれたのは、非常に良い経験となりました。

まだまだ宇宙飛行士として、JAXAの職員として力不足ですが、訓練や勉強を通して専門技術や知識を高めるだけでなく、さまざまな現場で色々な人に出会い、経験や知見を積み重ねていくこともまた、宇宙飛行士“修業”なのかと考えています。



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