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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポート 2013年5月

最終更新日:2013年6月24日

JAXA宇宙飛行士の2013年5月の活動状況についてご紹介します。

若田宇宙飛行士、35Sクルーのバックアップクルーとしてプライムクルーに同行

ソユーズTMA-09M宇宙船(35S)搭乗クルーのバックアップクルー(交代要員)に任命されていた若田宇宙飛行士は、ソユーズTMA-09M宇宙船が5月29日に打ち上がる直前まで、プライムクルーと行動を共にしました。

5月上旬にロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)での訓練を終えた35Sのプライムクルーと若田宇宙飛行士らバックアップクルーは、ロシアのモスクワで打上げ前の伝統的なセレモニーに参加した後、5月16日にソユーズ宇宙船の射場があるカザフスタン共和国のバイコヌールへ移動しました。


写真:ソユーズ宇宙船の実機を背に記念撮影する若田宇宙飛行士らバックアップクルー

ソユーズ宇宙船の実機を背に記念撮影する若田宇宙飛行士らバックアップクルー(出典:S.P.Korolev RSC Energia)

バイコヌール宇宙基地では、GCTCの教官やモスクワの運用管制局の管制官らとソユーズ宇宙船の打上げ、ランデブ、緊急着陸時の運用手順の確認を行うと共に、ISS各システムの最新状態の報告を受けたほか、組立て工場内で艤装作業中のソユーズ宇宙船の実機のシステムや搭載品の確認を行いました。加えて、医学検査、無重量適応訓練なども行いました。なお、若田宇宙飛行士をサポートするために、JAXAを代表して油井宇宙飛行士が5月下旬に現地入りし、日本との情報連絡作業にあたりました。

5月29日に35Sクルーを乗せたソユーズTMA-09M宇宙船が無事に打ち上がり、若田宇宙飛行士は、バックアップクルーの任務を解かれました。

油井宇宙飛行士、ISS長期滞在に向けた訓練を実施

国際宇宙ステーション(ISS)の第44次/第45次長期滞在クルーである油井宇宙飛行士は、ISS長期滞在に向けた訓練を継続しています。

5月上旬から中旬にかけて、油井宇宙飛行士は、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)で、ISSの環境制御・生命維持システム(Environment Control and Life Support System: ECLSS)に関わる訓練を中心に、ISSの運用に関わる訓練を行いました。

ECLSSは、ISS船内の温度・湿度の管理のほか、空気の制御や水のリサイクルなどを担うシステムで、宇宙飛行士がISSで生活するためには欠かすことのできないシステムです。

油井宇宙飛行士は、講義を通してシステムについて習熟し、実際にISSで使用されている手順書に従ってECLSSの機器をメンテナンスをする方法などを実習しました。

ECLSS以外にも、ISSの監視制御システム、通信・追跡システム、温度制御システムに関わる訓練を行いました。英語とロシア語の語学訓練も継続して実施しました。

大西宇宙飛行士、ESAでコロンバス訓練を実施

大西宇宙飛行士は、5月13日から17日にかけて、ドイツのケルンにある欧州宇宙機関(ESA)の欧州宇宙飛行士センター(European Astronaut Centre: EAC)で、「コロンバス」(欧州実験棟)に関わる訓練を行いました。

大西宇宙飛行士は、講義やモックアップ(実物大の訓練施設)を使用した訓練を行い、コロンバスのシステムと実験装置についての知識を深めました。

コロンバスのシステムについては、システム全体の概要について講義を受けた後、システムを監視・制御するためのインタフェースを提供するラップトップの基本操作を学び、その後はシステムを利用するレベル(ユーザレベル)の知識を得るためにシステム毎に訓練を行い、訓練の後半では緊急事態の発生を想定した対応訓練も実施しました。

実験装置の訓練では、生物学実験ラック(Biolab)、欧州生理学実験ラック(European Physiology Modules: EPM)、流体科学実験ラック(Fluid Science Laboratory: FSL)、欧州引出しラック(European Drawer Rack: EDR)の概要や機器の構成、操作方法などを学びました。

大西宇宙飛行士、米国でリーダシップ訓練を体験


写真:訓練に参加する大西宇宙飛行士

訓練に参加する大西宇宙飛行士(出典:U.S. Air Force photo/Donna Burnett)

大西宇宙飛行士は、NASAの宇宙飛行士らとともに、米国アラバマ州にあるマクスウェル空軍基地にて、5月22日から2日間にわたって、米国空軍大学が実施するリーダシップ訓練を体験しました。

今回の訓練への参加は、宇宙飛行士に求められるリーダシップスキルの向上を目指すとともに、NASAの宇宙飛行士訓練において、今後この訓練が宇宙飛行士のリーダシップ開発において有用な訓練になり得るかどうかをNASAが評価する目的で行われました。

訓練に参加した大西宇宙飛行士は、「リーダシップやフォロワーシップ、そしてチームをまとめるスキルの向上にとても良いと思う。最初のいくつかの課題を通して、チームメイトとの強い信頼を築くことができた」と、訓練の手応えを語りました。

野口宇宙飛行士が日伊協力イベント「日本とイタリア、宇宙協力最前線」に登壇

5月15日に、東京都千代田区のイタリア文化会館アニェッリホールにて、日伊協力イベント「日本とイタリア、宇宙協力最前線」が行われ、JAXA宇宙飛行士を代表して野口宇宙飛行士がこのイベントに参加しました。

本イベントは、在日イタリア大使館が主催する「日本におけるイタリア2013」事業のうち、科学・技術分野における催しのひとつとして開催されたものです。

イベントの前半では、宇宙開発における両国の協力関係について紹介があり、その中で、日伊協力のもと現在開発が進められている宇宙線観測装置「高エネルギー電子・ガンマ線観測装置(CALorimetric Electron Telescope: CALET)」について、この装置を用いた実験の代表研究者である早稲田大学理工学術院の鳥居祥二教授から、日伊協力の最新情報について報告がありました。


写真:トークセッションの様子

トークセッションの様子(出典:JAXA)

野口宇宙飛行士は、イベント後半の「宇宙飛行士が見る有人宇宙活動」~ISSでの活動体験、今後の有人宇宙活動の展望を踏まえて~をテーマにしたトークセッションに、イタリアのロベルト・ヴィットーリ宇宙飛行士と登壇しました。

野口宇宙飛行士はイタリアとの関係を紹介する中で、イタリアが多くの宇宙飛行士を輩出していることや、自身が参加したイタリアでの訓練の実体験などを会場に集まった参加者に語りました。また、東日本大震災の際には、ISSに滞在していたイタリア人宇宙飛行士を含むクルーが、日本の被災状況把握のためにISSから被災地を撮影したことなど、日本に協力するために取った行動にも触れました。

イベントは、日本では良く知られていないイタリアの宇宙開発事情や、日本が宇宙開発において行っている国際協力を紹介する貴重な場となりました。

星出宇宙飛行士、米国でのT-38ジェット練習機による飛行訓練を再開

星出宇宙飛行士は、国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在後、米国や日本でのミッション報告会や講演活動、関係各所への訪問などに多くの時間を割いてきましたが、5月より、米国で宇宙飛行準備訓練の一環でT-38ジェット練習機による飛行訓練を再開しました。

この飛行訓練は、T-38ジェット練習機にふたりで搭乗し、飛行中に地上との通信や機器の操作を行うと同時に、状況に応じた判断能力やチームワークが問われるもので、宇宙飛行士に求められる資質を培うためにNASAでは長年にわたり行われてきています。

NASAでは継続的な飛行訓練の実施が定められており、星出宇宙飛行士は今後もこの飛行訓練を継続していきます。


油井・大西・金井宇宙飛行士による活動報告「新米宇宙飛行士最前線!」


今月は、若田飛行士がバックアップクルーとして任命されていたソユーズの打ち上げを見学する事が出来ました。今回の私の主任務は、バイコヌールでの必要な会議に参加し、その結果を日本に連絡する事でした。ただ、私にとってバイコヌールに行くのは今回が初めてでしたし、次に私がバイコヌールへ行く際には、自分自身がバックアップクルーになっている予定ですから、先輩飛行士の行動を見学しながら、将来の自分をイメージアップする事にも努めました。

写真:ソユーズは、発射台まで列車で運ばれて来るんですよ。初めて見たので、感動でした!

ソユーズは、発射台まで列車で運ばれて来るんですよ。初めて見たので、感動でした!

写真:バイコヌールには、ロシアの宇宙開発の歴史がぎっしり詰まっていて、見学すべきところが沢山あります!ロシアでは飛行の際に、植樹を行う伝統があるのですが、こちらがガガーリンさんの木です。大きくて、歴史を感じます!

バイコヌールには、ロシアの宇宙開発の歴史がぎっしり詰まっていて、見学すべきところが沢山あります!ロシアでは飛行の際に、植樹を行う伝統があるのですが、こちらがガガーリンさんの木です。大きくて、歴史を感じます!

ところで、皆さんは、これまでにバックアップクルーという言葉を聞いた事がありましたか?これは、名前のとおり予備のクルーで、プライムクルーと呼ばれる本来飛ぶ予定の飛行士が、何らかの理由で飛行出来なくなってしまった場合に、代わりに飛行する飛行士です。ですから、打上げまでのトレーニングや試験もプライムクルーと同様に行いますし、病気などにならないように、バイコヌールでも私達とは別のホテルに滞在し、一般人からは隔離されています。予備とはいえ、実際に飛行する可能性があるのですから当然といえば当然ですが、バックアップクルーは、万が一の場合に備えて気持ちの準備を含め、万全の準備が整っていないといけません。一方で、記者会見などでは、もちろんプライムクルーに注目が集まりますから、まさに目立たない所で働いている重要な役目の人達なのです。

私は、前職が自衛官で、しかもパイロットでしたから、この「バックアップ(予備)」という考え方が、心の奥底までに染み付いてしまっています。どんな行動をする時も、予備がないと不安になってしまうようになりました(笑)。

例えば、出張に行く際にも、実際に使用する予定のお金の他に、予備のお金を用意し、その予備のお金も幾つかの国際通貨で持って行きます。飛行機の操縦系統には、メインの他に予備の系統がありますし、作戦を立てる時は、予備兵力を準備するのが通常です。更に、身近な所では、待ち合わせの為の移動にも、予備の時間を計算に入れるので、いつも約束の時間より早く到着してしまいます(笑)。家族と一緒に家を出発する際は、みんなの準備が遅くて自分が考えた時間に出発できない事が多いので、出発時間を伝える際に、30分の予備時間を設定して、家族に伝えたりしています。(例えば、朝七時に出発したいと思っているなら、家族の皆には「六時半に出発するよ。」と伝えておくのです。)そうすると、妻から「準備に手間取って出発が遅れてごめんね。」と言われた時も、心の中では「計算通りだな…」と考えながら「良いんだよ。準備も色々大変だからね。」なんて優しい言葉をかける事が出来ます(笑)。

実は宇宙開発の世界でも予備の考え方の重要性は同様で、重要な機能や装置には必ず予備が存在し、起こって欲しくない事態が起こったとしても、安全が保たれるように事前に準備がされています。ただ、予備を用意するといっても、お金や労力がかかりますから、何でも沢山の予備があれば良いと言うものでもありません。予備にお金をかけすぎて、メインが疎かになってもいけませんしね。この辺のバランスはどの様に取るかと言いますと、その事態が起こる可能性とその事態の深刻さの双方を考えて、準備をするのが普通です。発生する可能性が低くても、命に関わるような事態には十分な備えが必要ですし、頻度が高くても、安全や任務の遂行に大きな影響がなければ、わざわざ予備を用意することもありません。(例えば、時々発生する事がある「自動車の燃料切れ」と言う事態を考えた時に、普通に街中を走るだけであれば、わざわざ予備の燃料タンクなどは必要ありません。しかし、砂漠や山岳地帯等を走る場合には、予備の燃料の有無が生死を分けることにもなり得ますよね。)

実は、予備をいつ、どのくらい用意すれば良いのかという事を具体的に考えるには、予想される事態を詳細に分析する必要があり、結構大変なのです。きっと、皆さんも地震の際の予備の食糧、生活用品の準備を進めるように自治体などから助言を受けていると思いますが、その基準を作る際には前提の条件があって、それを分析するのも大変な仕事なのです。

色々と話が逸れてしまいましたが、私がこれまで経験してきた自衛隊及び宇宙開発の分野では、この「予備」という考え方が当たり前でした。この考え方は、日々の生活や会社で仕事をする場合などにも役に立つと思います。残念ながら、近年ヒューストンでも多くの宇宙開発関係者が職を失いました。しかし、現在それらの方々は、油田開発等の新しい分野でこのような考え方を生かしながら活躍していると伺っています。

皆さんも、日々の生活や仕事の中で、この「予備」という考え方を適用する練習をしてみたら如何ですか? 仕事の失敗が減って信頼性が増すかもしれませんし、心の余裕も生まれるかもしれませんよ。

※写真の出典はJAXA




既に猛暑ともいえる暑さの続いている6月のある日、私は過去の記事を参照しながら今月の『新米宇宙飛行士最前線』は何について書こうかなと思案しておりました。ちなみにこちらからバックナンバーをご覧いただけるのはご存知でしょうか?最近このコラムを読み始めたという方、是非過去の記事もご覧いただければ幸いです。

先月の私たち3人の記事を読んでいて、はたと私は考えました。

油井さんが人生における幸せの意味について熱く語り、かたや金井さんがジーン・クランツの10ヵ条を引用して地上の管制官のプロフェッショナリズムについて紹介するなか、私のコラムのメイントピックが「宇宙でのおなら」って。

・・・これではいけない。このままでは、私のキャラが完全に誤解されてしまう。

というわけで、今月は少しシリアスな内容について書いてみたいと思います。

それは、国際宇宙ステーションにおける緊急事態についてです。

国際宇宙ステーションは1つの巨大な宇宙船であり、いくつもの区画、機械、装置、コンピューターなどから構成されています。宇宙飛行士の居住空間と隔壁1枚を隔てたすぐ外は、人間が生身では生きていけない宇宙空間が広がっています。またその高度は地上約400kmで、私たちの生活している地上と国際宇宙ステーションの間には分厚い大気の壁が横たわっており、宇宙飛行士が地上に帰還する際には特殊な技術・宇宙船が必要になります。

人間の作り上げたこの巨大なシステム。もちろん、この地上の他の多くのシステムと同様、故障や不具合と完全に無縁というわけにはいきません。実際、小さい不具合を含めれば国際宇宙ステーションではこれまで何度も問題が発生しており、その都度、地上のチームと宇宙飛行士が協力してその解決にあたってきました。記憶に新しいところでは、昨年ステーションに4つある電気系統の1つの配電装置が故障した際には、星出宇宙飛行士が船外活動を行ってその装置を交換するといったことがありました。

不具合・故障といってもその種類は様々です。先ほどのステーションの運用に大きな影響を及ぼすような配電盤の故障もあれば、居住空間の電灯のランプ切れなど軽微なものもあります。そこで、ステーションでは緊急度に応じてそれらを4つにランク分けして、そのランクによって対処方法を変えています。専門用語になりますが、緊急度の高い方からEmergency⇒Warning⇒Caution⇒Advisoryという4つのランクがあります。

最も緊急度の高い『Emergency』は、日本語にするなら緊急事態・非常事態とでも言うべき事態なのですが、「すぐに適切に対処しなければ宇宙飛行士の生命の危機に繋がるような事態」と定義されています。

それでは、実際どのようなケースが『Emergency』に相当するのでしょうか?

国際宇宙ステーションでは3つのケースがこれに該当します。それぞれ簡単にご説明したいと思います。

①火災

外への逃げ場のない宇宙ステーションでは、火災は地上と同様、もしくはそれ以上に危険な事態になります。万が一発生した場合、宇宙飛行士が主体的に速やかに消火活動にあたることになります。その為、ステーション内の各所に消火器が設置され、また火災を検知するセンサーも至るところに設置されており、発生次第システムが警報を発するようなシステムになっています。

また根本的な対策として、基本的に宇宙ステーションで用いられるものは不燃性もしくは難燃性のものになっています。

②急減圧(空気漏れ)

急減圧というのは専門的な用語ですが、要するにステーション内の空気が宇宙空間に漏れてしまうような事態です。そのまま放置すれば居住空間も真空になってしまうので、これも非常に危険な事態です。
対処方法はケースバイケースです。空気の抜けていくスピード、漏れの原因となっている穴の場所などによって、その都度最適な対処法を取ることになります。

例えば空気の漏れるスピードが速く、穴を塞いでいる時間がないようなケースでは、その区画自体を隔離してステーションの他の区画に被害が及ぶのを防ぎます。家で例えれば、空気漏れの発生した部屋に通じる扉を全て閉じ、その部屋にはもう入れなくなってしまいますが、その代わりに他の部屋まで空気が漏れるのを防ぐ、というやり方になります。

③有害物質の発生

地上のように、窓を開けて換気するという最も基本的で簡単な対処法が取れない宇宙では、これも非常に大きな問題です。すぐにその有害物質を容器に収納してやる必要がありますが、それが気体なら非常に困難です。また、液体も宇宙では四方八方に飛び散ってしまうので、そう簡単にはいきません。先の火災への対策と同様、ステーションの各所に防護マスクが設置されており、有害物質が発生した際にはそれを被ってひとまず安全なエリアまで避難する、というのが基本的な対処になります。

最悪の場合、汚染された区画全体を隔離しなければならないかも知れません。

以上の3つの事態が、現在国際宇宙ステーションで緊急事態とされているものになります。想像すると、怖くなって宇宙に行きたくなくなってしまいますか?でも、実は地上の私たちの周りにも大小様々な危険が潜んでいますよね。

大切なのはその危険性をしっかりと認識して、それへの対策を考えておくことだと私は思っています。だからこそ、私たち宇宙飛行士や地上の管制チームはこれらの緊急事態への対処に関する訓練に、非常に多くの労力と時間をかけています。NASAのジョンソン宇宙センターには実物大の宇宙ステーションの模型がありますが、私は以前、その中で行われた緊急事態の対処訓練に参加したことがあります。火災の発生を想定した訓練では、実際に煙を模型の中に充満させるなど、かなり大掛かり、かつリアルな訓練でした。

安全というこの形のないもの、それを支えるのは常日頃からの訓練に他ならないと私は信じています。

写真

※写真の出典はJAXA/NASA




みなさん、こんにちは。宇宙飛行士の金井宣茂です。

こちらヒューストンでは、過ごし易い季節が終わり、灼熱の長い夏が始まりつつあります。アスファルトが溶けそうな外気温と、冷房の利きすぎの室温と(特に巨大なコンピューターを使うシミュレーション・ルーム)の温度差が大きく、こちらで生活を始めた頃には体調を崩しがちでしたが、今では、真夏日には厚手の上着を持参するようにして、“夏の防寒対策”はばっちりです。

宇宙飛行士候補者の選抜試験の一環としてヒューストンを訪れたのが4年前(そのときは冬でしたが)。そのときに比べると、われながら、だいぶ馴染んできたなぁと感じます。

宇宙飛行士候補者として選ばれ、約2年間の候補者訓練をくぐり抜けた後、宇宙飛行士の認定を受け、今では3人のJAXA新人飛行士のトップバッターとして、油井宇宙飛行士が初めての長期滞在ミッションに向けて着々と訓練を続けています。

われわれが選抜を受けた2009年は、実は日本だけでなく、アメリカ、カナダ、ヨーロッパでも同時に、新しい世代の宇宙飛行士の選抜を行われました。

出身国は違っても、みんな、同じ時期に訓練を受けた、いわば同期の新人飛行士です。

その中でも一番手として、5月末より、イタリア出身のパルミターノ飛行士が宇宙ステーションに到着してミッションを開始しています。間を置かず、9月にホプキンス飛行士(米)、2014年にワイズマン(米)・ガースト(独)両飛行士とクリストフォレッティー(伊)飛行士、2015年には油井(日)・リングレン(米)両飛行士とピーク(英)飛行士・・・と、他の「同期生」も続々と宇宙に飛び立つことになっており、自分のことのようにドキドキわくわくしています。

写真:一緒に訓練をしてきた2009年アスキャン(宇宙飛行士候補者)クラスのみんな。これから次々と宇宙に打ち上がっていきます。

一緒に訓練をしてきた2009年アスキャン(宇宙飛行士候補者)クラスのみんな。これから次々と宇宙に打ち上がっていきます。(出典:JAXA/NASA)

日本人以外の宇宙飛行士というと、日本の皆さんには、なかなか馴染みが薄いかもしれませんが、宇宙飛行士の中でも、一緒に訓練を行って同じ釜の飯を食べてきた仲間というのは、特別なものがあります。ニュースやJAXAの発信するさまざまな情報で名前を聞いたら、ぜひ(特別に)応援してください!

さて、“宇宙飛行士の仲間”というと、一緒に訓練を受けた仲間はもちろんそうなのですが、一緒に宇宙飛行士を目指した仲間も、実はもっとたくさんいます。

油井飛行士・大西飛行士・わたしが選抜されたJAXAの選抜試験では、合計で963人の応募者があり、受験者同士の顔がお互いに見えてくる二次試験には48人が参加し、一週間の閉鎖環境試験やヒューストンにあるNASAでの面接を含む最終試験には10人が残りました。

「宇宙飛行士になりたい!」という強い希望を持って試験に参加した受験者は、おたがいライバルであると同時に、同じ夢を共有する仲間であるという意識を強く感じたものでした。

詳しく調査したわけではありませんが、他国と比べると、日本だけは、この選抜試験を経験した受験者同士の交流が、試験が終わって何年も経っても継続しているというユニークな特徴があるようです。

日本に帰国する機会に、声をかけて受験者仲間で集まることが今でもありますが、何年も前のことなのに、当時の気持ちの高揚感や緊張感を、ありありと思い出します。

一緒に筑波宇宙センターの閉鎖環境施設に閉じ込められたときの話、二次試験で病院に集まり集中的な医学検査を受けたときの話、一番最初の一次試験でドキドキしながら筆記試験を受けたときの話などなど・・・時間を忘れて盛り上がってしまいます。

驚くのは、こういう受験生同士の交流は、なにもわれわれ「2008年受験組」だけのことではないということです。

日本人宇宙飛行士を始めて募集した第1回目の毛利・向井・土井飛行士の選抜時の受験生から、第2回目の若田飛行士、第3回目の野口飛行士、第4回目の古川・星出・山崎飛行士の選抜時の受験生まで、世代ごとに選抜経験者同士がいまだに交流を続けているのです。

初めての日本人宇宙飛行士が選ばれたのが1985年ですから、その後、30年近い交流が続いているということになります!

宇宙飛行士への夢をあきらめず、何度も選抜試験に挑戦を続けておられる方もおりますので、そういった方を通して、輪が広がり、世代間を超えて集まることもあります。

すでに会社の重役やマネージメント、あるいは大学の教授などになられている第一期の受験者の方から、職場の主戦力としてバリバリ現場で働く最近の受験者、さらには将来の受験を目指す大学を出たての気鋭のエンジニアや研究者など、年齢も職業も関係なく、選抜試験の思い出話や、宇宙飛行への夢を語り合うというのは、ちょっと奇妙な光景でもありますが、同時に、お互い励まし励まされたり、「よーし、頑張ろう!」というエネルギーをもらえる場でもあります。

世間一般の全体からすると、宇宙開発に興味を持つ人の数は決して多くはないのかもしれません。でも、この“宇宙飛行士の仲間たち”とともに語らっていると、夢に向かって情熱を燃やしたり、自分が思っている以上の実力を発揮したりすることのできる、素晴らしい挑戦分野であると改めて確信します。

そんな仲間たちを代表して、日々、珍しい体験・貴重な経験を積ませていただいているということに感謝するとともに、ひとりでも多くの人に、宇宙開発の魅力・面白さを知っていただくようにするのも宇宙飛行士の仕事ではないかと思っています。

月1回だけですが、このコラムを通して、少しでも興味を引くような宇宙開発のこぼれ話をご紹介できれば良いと考えています。「こんな話すると面白いんじゃないか?」「みんな、こういうことを知りたいと思っている」そんなアイデアがありましたら、下の『ご意見・ご感想』フォームで送っていただけますと、大変助かります。



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