JAXA宇宙飛行士活動レポート 2012年12月
最終更新日:2013年1月25日
JAXA宇宙飛行士の2012年12月の活動状況についてご紹介します。
若田宇宙飛行士、ISS長期滞在に向けてロシアで訓練を実施
ソユーズ宇宙船のシミュレータ内で訓練を行う若田宇宙飛行士(出典:JAXA/GCTC)
国際宇宙ステーション(ISS)の第38次/第39次長期滞在クルーである若田宇宙飛行士は、ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)にて、ソユーズ宇宙船の打上げおよび帰還時の運用を中心に訓練を行いました。
ソユーズ宇宙船を構成するシステムのひとつである生命維持システムに重点を置いた訓練では、船内の空気を管理する機器の操作方法や、機器の異常への対処方法について、シミュレータを使用して打上げ時に行う操作の実技を行い、システムに対する理解を深めました。より実際に近い操作感覚を得るために、シミュレータにソコル与圧服を着用した状態で入り、機器を操作する訓練も行いました。生命維持システムには、軌道投入後からISSへドッキングするまでの間にソユーズ宇宙船内で宇宙飛行士が生活するために必要な空調、トイレ、食事関連機器、水供給システムなどといった機器が含まれますが、若田宇宙飛行士は、これらの機器の操作についてもシミュレータを使用して確認しました。
今回のGCTCでの訓練期間中には、ソユーズ宇宙船で実際に一緒に飛行する予定のロシアのミハイル・チューリン宇宙飛行士、NASAのリチャード・マストラキオ宇宙飛行士と合同で訓練を実施する機会もありました。3人は、ソユーズ宇宙船のシミュレータを使用し、手動でソユーズ宇宙船を操作してISSとのドッキングに向けて飛行させるシミュレーションを行いました。この訓練は、ソユーズ宇宙船の自動ドッキングシステムが作動しない状態を想定したもので、3人がそれぞれの担当任務を確実に実施しながら協調し、精度良くアプローチできるよう、接近する条件を変えながら繰り返し手順を訓練しました。
帰還の運用を模擬した訓練では、通常のISSからの帰還運用に加えて、ISSで火災の緊急事態が発生した場合を想定した緊急対処・緊急帰還運用などをシミュレーションし、若田宇宙飛行士はISSコマンダーに必要な知識を身につけました。
これらの訓練の他に、若田宇宙飛行士は、人工的に模擬重力を発生させる大型のセントリフュージに乗り込み、打上げ・帰還、それぞれの各フェーズにおける加重の推移をセントリフュージで再現し、打上げ・帰還の加重を実体験する訓練も実施しました。
若田宇宙飛行士ら3名のクルーは、2013年末頃にソユーズ宇宙船でISSへ向かい、約6ヶ月間、ISSに滞在する予定です。
星出宇宙飛行士、ロシアと米国にてデブリーフィングやセレモニーに参加
星出宇宙飛行士は、12月中旬にロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)を訪れ、国際宇宙ステーション(ISS)第32次/第33次長期滞在ミッションを関係者と振り返る技術報告会(デブリーフィング)や帰還を祝うセレモニーに参加しました。
記者会見にて報道関係者からの質問に答える星出宇宙飛行士(出典:JAXA/GCTC)
ガガーリン宇宙飛行士の像に献花する星出宇宙飛行士らクルー(出典:JAXA/GCTC)
星出宇宙飛行士は、ISS長期滞在をともにしたNASAのサニータ・ウィリアムズ宇宙飛行士、ロシアのユーリ・マレンチェンコ宇宙飛行士と一緒に、訓練に携わった訓練インストラクタなどの関係者と、ミッション中の活動に基づいて訓練の改善点などを洗い出す技術報告会の場に参加しました。
また、期間中に行った記者会見では、集まった報道関係者からの質問に答える中で、ソユーズ宇宙船の飛行体験やISSで実施した科学実験などについて語りました。星出宇宙飛行士らクルーは、帰還時に大気圏へ再突入する際に、船外に見えたプラズマの光が花火のようにとても綺麗だったといったエピソードや、GCTCで受けた訓練が非常に良かったため、安心して飛行できたことなど、実体験を多く述べました。星出宇宙飛行士自身は、「帰還はもっと緊張すると思っていたが、最後の瞬間まで楽しめた」と、帰還時を振り返りました。
会見後には、伝統的なセレモニーの一環として、人類初の有人宇宙飛行を成し遂げたユーリ・ガガーリン宇宙飛行士の像を訪れて献花し、無事の帰還を報告しました。また、その後行われた関係者に囲まれての帰還歓迎セレモニーでは、「3人は素晴らしい仕事をした。彼らの任務はひとつの誤りも許されなかった。今後飛行するクルーの良い手本となるだろう」と、関係者からその功績が称えられました。
ギルルースセンターでの式典の様子(出典:JAXA)
ロシアでの一連のイベントを終えた後、星出宇宙飛行士ら第32次長期滞在クルー6名は、米国ヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターでの歓迎式典に臨みました。無事の帰還を報告するクルーの姿に、集まった聴衆は温かな歓迎の意を示しました。
古川宇宙飛行士、CAPCOMの支援業務を実施
CAPCOM支援業務中の古川宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)
古川宇宙飛行士は、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)で、宇宙飛行士として国際宇宙ステーション(ISS)の運用に関わる知識・技術の維持・向上訓練を実施する傍らで、地上でのISSの運用業務にも携わっています。
古川宇宙飛行士は、ソユーズTMA-07M宇宙船(33S)が12月21日にISSへドッキングする際に、JSCのミッション・コントロール・センター内にある飛行管制室にて、ソユーズ宇宙船との交信を担当するCAPCOM(Capsule Communicator)を支援する業務にあたりました。
軌道上のクルーとの交信において、地上側はCAPCOMが窓口となります。また、自身の経験から軌道上のクルーの立場が理解し易いという考えで、CAPCOMのポジションに宇宙飛行士が就くことは多くあります。CAPCOMは、クルーとの音声での交信のほか、他の地上局と軌道上のクルーの交信を支援・調整する役割も務めます。
油井・大西・金井宇宙飛行士による活動報告「新米宇宙飛行士最前線!」
今月は、いよいよISSの訓練が本格的に始まりました。とは言っても、まだ新しい訓練はわずかで、殆どは私の知識確認でした。ご存知の方も居られるかもしれませんが、私はNASAの宇宙飛行士候補者(ASCAN)訓練を受けて宇宙飛行士になり、ISSの訓練はその際に受けていた為です。そうは言っても、私がASCAN訓練でISSの事を学んだのは、約2年前の事… 正直言って、どれだけ覚えているか不安でしたが、思ったよりも沢山覚えていました!訓練は無駄にはなっていないという事ですね。
ISSの訓練は大変ですが、楽しい訓練も多いですよ!その一例が、PWD(Portable Water Dispenser)の使用法に関する訓練です。宇宙食にお湯を加えて、料理?します。楽しく、美味しい訓練でした!
話は変わりますが、以前私が防衛大学校で訓練教官をやっている時に先輩から、「10年経っても被教育者に残っている知識・経験が本物の教育・訓練の成果である!本物の教育・訓練が出来る様に頑張れ!」と言われました。確かにそのとおりだと思い、自分なりに教え方を工夫したり、朝礼で学生さん達に話す事を一生懸命考えていたりしたのを懐かしく思い出します。私は、勉強するのも大好きでしたが、実は人に何か教えるのも大好きでしたから、どうしたら本物の教育・訓練が出来るか頭を悩ませる事も本当に楽しかったです!
私自身がこれまでの人生で受けてきた教育・訓練は数多いのですが、10年以上経った今もその多くが私の知識や経験として役に立っています。私は、素晴らしい教育・訓練を受けることが出来て、本当に幸せ者です。
皆さんも、教育・訓練の重要性については、きっと認識しておられると思います。次の世代を担う人材の育成ですから、大切に決まっています!実は、先生・教官に一番優秀な人を充てるのが、国や組織の明るい未来の為には、必須です!
一方で、教育を受ける方々も、自分自身の為だけでなく、他の皆さんの期待に応える為に、一生懸命勉強しなければなりません。日本国民の皆様方が、税金を支払って、最高の教育を施し、皆様方の将来の活躍に期待しているのです!以前の日記やツイッターでも述べましたが、将来使わない知識や技能はありません!使わないのは、使う気が無いからです!教育者と被教育者が相互に全力を尽くして向き合う先に、明るい未来が待っています。
私が、大人になるまで知らなかった事…それは、国旗に対する礼儀作法です!これを知らずに海外にいくと、自分が恥をかくだけでなく、日本人の品位を疑われます!海外に行くお子さんがいたら、しっかり教育してあげましょう。他国の国旗を自国の国旗と同様に敬う。そんなところが、相互理解につながります。
ここで、ISSの訓練の話に戻ります。JAXA、NASAをはじめ、世界各国の教官の知識や熱意は世界最高レベルです。そして、自分で言うのも何ですが、被教育者の士気も高いです。この本物の教育のおかげで、私は2年前に学んだ事を多く覚えていたわけです。更に言うと、宇宙開発を取り巻く環境は厳しいですが、その将来は明るいのです。みんな心を一つにして、人類の未来の為に誇りを持って仕事をしていますよ!
私は防衛大学校で教官になった経験がありますが、やる気だけで優秀とは言えませんでした… でも、日本で「きぼう」や「こうのとり」のトレーニングをしている教官は優秀ですよ!飛行士の仲間たちも絶賛でした。
日本の将来に不安を感じている方々!我々を取り巻く環境がとても厳しく、悲観的になるのもわかりますが、今育っている若い方々を見てください!そして、不安を感じて何もしないのではなく、色々な場面で積極的に教育に携わって下さい!私が出会う後輩は、私が若い頃よりも優秀な方ばかりです!そのような優秀な方々を皆で大切に育てれば、日本の未来も明るいです!(何と言っても、教育と宇宙開発は未来への投資です!すぐに効果が出ないからと言って軽視すると、我々の子孫に顔向けできなくなります!)
※写真の出典はJAXA
皆さんは「宇宙飛行士」という職業を聞いて、どのような仕事を頭に思い浮かべるでしょうか?
宇宙服に身を包んで船外活動を行っている姿、宇宙ステーションで実験装置を操作している姿、宇宙船のコックピットで打ち上げの瞬間を待っている姿などなど。恐らくほとんどの方が、宇宙空間で仕事をしている姿を思い浮かべるのではないでしょうか?
かくいう私も、幼い頃から持っていた宇宙飛行士のイメージというと、真っ先にアポロの宇宙飛行士が月面に立っている姿を頭に描くような、まさにそんなイメージなのでした。
「宇宙飛行士」という仕事の奇妙さは、その本来の目的である宇宙で仕事をする期間が、キャリア全体の長さと比べたとき、著しく短い時間であるということでしょう。
例えば、10年以上宇宙飛行士として働いていても、実際に宇宙に滞在した期間は1ヶ月にも満たなかったりするわけです。
必然的に、宇宙飛行士はそのキャリアの大部分の時間を「待つ」ことに使うことになります。
私は、この「待ち」時間をどう過ごすかが、自分が宇宙飛行士として成長する上で、非常に重要だと思っています。そういう意味では、この「待つ」という言葉は受け身的な意味合いが強いので、相応しくないかもしれませんね。「備える」とか、「鍛える」とか、「磨く」といった言葉を使う方が適切でしょう。
では、どう過ごすか?
もちろん、多くの時間を訓練に費やすことになります。将来、実際に宇宙飛行する際に必要な知識・技術を身につけるために、日々訓練に励みます。それらは、英語・ロシア語という語学訓練や、船外活動訓練、ロボットアーム訓練、飛行機操縦訓練、体力訓練などなど多岐にわたります。
そしてそれ以外にも、NASAの宇宙飛行士室にはジョブアサインというものがあります。これはその名の通り仕事の割り当てで、具体的な将来の宇宙飛行が決まっていない宇宙飛行士は、必ず何らかの仕事を訓練以外に割り当てられることになっています。そうやって、訓練以外の業務を自ら経験することによって、より広い視野を身につけられるというわけです。
すっかり前置きが長くなってしまいましたが・・・、今月のコラムはこのジョブアサインについてです。
現在の私のジョブアサインは、宇宙ステーションに輸送される物資のマニフェストのチェックになります。ソユーズやプログレス補給機、日本の補給機「こうのとり」などによって宇宙ステーションに運ばれる荷物のリストをチェックして、実際にそれらを受け取る宇宙飛行士側の視点から不具合はないか、改善の余地はないかを確認するのが仕事です。
※写真の出典はJAXA/NASA
ソユーズは本来宇宙飛行士を運ぶ為の宇宙船なので、搭載されている物資の量も多くはありませんが、これが「こうのとり」などの大型の補給機となるとなかなか大変です。何せペン1本にいたるまで事細かくリストアップされるので、項目数が500を超えることも珍しくありません。それらに目を通して、ラベルは仕分けを担当する宇宙飛行士が理解しやすいように記載されているか、打ち上げられる前に実際に実物を見ておいた方が良いものはないか、などをチェックしていきます。
宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)
それだけの量の荷物が一度に宇宙ステーションに到着するわけですから、その荷物の仕分け作業は、宇宙飛行士にとっても地上のスタッフにとっても、非常に大きな作業になります。
特に、現在の宇宙ステーションは物で溢れかえっていて、収納スペースをいかにして確保するかがスタッフの大きな悩みの種になっています。それらは生活に必要な物だったり、実験に使う器具だったり、酸素マスクなどの非常用装備だったりと、どれもそう簡単に捨てることのできないものばかりです。
引越しを経験された方なら、それをスムーズに遂行することがいかに難しいか、ご存知のことと思います。それが宇宙ステーションの場合、既に物が入った状態の家に、さらに荷物を満載したトラックが1台到着するようなものです。その荷物を上手に仕分けるには、あらかじめ家の中で不要になった物を1箇所に集めておいて、それによって空いたスペースに新しい荷物を収納し、最後にトラックに不要な物を詰め込んで捨てに行ってもらう、といった工夫が必要になってきます。
それらのプランを検討する会議に出席することもありますが、そこで実際にどのような話し合いがなされているかを知ることは、別の視点で物事をみる良い経験になります。
宇宙ステーションの運用には、宇宙飛行士と地上チームの連携が不可欠ですから、その双方の視点を養うという意味で、ジョブアサインは将来の宇宙飛行に向けたれっきとした訓練の1つと言えるでしょう。
ちなみに私は子供の頃から部屋の片づけが苦手で、特に机の上などはプリント類が散乱していて表面が見えなくなってしまっていることがよくありました。そのくせ、学校のテスト期間などに限って、勉強中におもむろに部屋を片付け始めるタイプです。
将来の宇宙飛行に向けて、こういったところも訓練していかなければいけませんね(^^;)
みなさま、こんにちは。JAXA宇宙飛行士の金井宣茂です。このお正月は、いかがお過ごしだったでしょうか?
宇宙飛行士も、年末年始はしっかりお休みをいただきます。むしろ、飛行機操縦訓練や船外活動訓練など、危険をともなう作業を行うことも多いので、しっかりと休みを取って、体調や気力を整えておくというのも大切な心得です。
このお休み中に、1日時間を取って、救急救命処置の講習会に参加してきました。
わたしは元々自衛隊の医者として勤めていました。でも、宇宙飛行士の候補者として選抜されて以来、実際に患者さんを診察したり治療をすることはなくなってしまいましたので、このような講習会で、実技を練習したり、最新の医学知識を勉強するのは非常に貴重な機会です。
宇宙ステーションには常時6人の宇宙飛行士が滞在しています。しかし、常に医師出身の宇宙飛行士がメンバーに入っているというわけではありませんので、元々の職業に関わらず全員が、宇宙飛行の前には、救急救命処置の訓練も受けなくてはいけません。
効果的な心臓マッサージのやり方、マスクを使った人工呼吸の方法、AED(自動式除細動器)の使い方など、その内容は、一般の救急救命講習とほぼ同じ内容です・・・無重力の影響を除けば、ですが。
仮に仲間の一人が心肺停止となったとして、すぐに心臓マッサージに取りかからないといけない状況を想像してみてください。人の命を助けるための“しっかりした”心臓マッサージを行うには、かなり強い力で患者さんの胸を圧迫しないといけません。しかし、無重力の環境でそれをやろうとすると、相手を押した分、反作用で自分がすっ飛んで行ってしまいます。
このため、宇宙ステーションの中で救急救命処置を行わないといけない場合は、まず、床に固定された台の上に患者さんを、文字通り“くくりつけて”固定します。
その一方で、救助者自身も、手すりや、補助ベルトを使って体をしっかり固定しながら、心臓マッサージを行わなくてはいけません(写真1)。または、無重力を利用して、天井に足をつけて逆さまの態勢となり、床に向かって手を伸ばして心臓マッサージを行う方法もあります(写真2)。
写真1
写真2
わたしは医学が専門ですので、救急救命処置に限らず、宇宙ステーションでの医療行為に興味があるのですが、これも無重力という環境を考えると、なかなか難しい問題もあるようです。
例えば、病院で良く見かける点滴です。ビニール製の袋に入っている薬液が、“重力の力で”、ポタポタとゆっくり患者さんの体内に入って行くのを、ドラマでも目にしたことがあろうかと思います。しかし無重力環境では、“勝手に”薬液が“落ちていく”ことはありません。このため、ポンプなど、薬を持続的に送り込むための人工的な機材が必要になります。
別の例として、手術の現場を想像してみてください。滅菌された手術着を着た医師が、滅菌手袋をはめて、手を腰より高く上げたまま、「・・・メス」と言う、あのシーンです。手術を行う部分は消毒して、それ以外の患者さんの体は滅菌されたシートをかぶせて、すべて覆います。手術中に体の中にバイ菌が入りこむと大変なことになりますから、手術に使う器具も全部消毒・殺菌されたものを使用しますし、手を腰から下げないというのも、間違って殺菌されていない部分を触ったりしないようにという理由があります。
無重力環境で手術を行うことを検討してみると、このバイ菌のない完ぺきにクリーンな場を作り出すのが、非常に難しいと思われます。患者さんに関しては、(もちろん麻酔をかけた後に)心臓マッサージの場合と同じように台にくくりつけて固定するとしても、手術をするドクターは、どうにかして体を固定して安定な態勢を作り出さなくてはいけません。
でも、ドクター自身は、滅菌された手術着を身につけて、両手もやはり滅菌手袋をはめた状態です。何かの拍子にバランスを崩して、消毒していない壁に、ちょっとでも手や体の一部をつけたら、即アウト。バイ菌が混入して手術は失敗です。そもそも、メスやピンセットなど、手術に使う(でも常に手で持っているわけではない)器具が、どこへ飛んで行ってしまうかもわかりません。
グロテスクな話で恐縮ですが、手術の際に“出血”はつきものですが、体から出た血液が、フワフワと宇宙ステーションのどこかに飛んで行ってしまったら、致命的な機械の故障につながるかもしれません。
このように現状では宇宙で病院を開業するには困難が大きいのですが、何とかうまい具合に工夫できないかと、世界中の研究者が色々なアイデアを出し合って、宇宙ステーションで実際に試せるような(本当に人体にメスを入れるわけではありませんが)システムが検討されています。
一見難しそうに思える重力の問題も、思いもかけない発想の転換で簡単に解決したり、逆に地上ではできないメリットになったりする可能性もたくさんあり、ワクワクするような、有人宇宙開発の現場でもとっておきの研究分野です。
医学に限ったことではありませんが、固定観念に縛られない柔軟な発想を持っていたり、難しい問題を、他人が考えつかない方法で解くのを楽しいと感じるような人が、宇宙を舞台にした研究や開発には向いていると思います。
さて、話は最初に戻りますが、宇宙飛行士の日ごろの訓練では、飛行機操縦や、船外活動(EVA)、ときには野外活動訓練など、危険を伴う活動があることをお話しました。
そんなときに、宇宙ステーションのミッションに向けて救急救命訓練を受けた宇宙飛行士が一緒だと、何か不慮の事故が自分に起こった場合でも、仲間が何とか助けてくれるのではないかという安心感があります。
あまりそんな現場に出くわしたくないですが、オフィスや、家庭でも、いつ何どき、救命処置の知識や技術が必要になるかもしれません。最近は、AEDもいたるところで設置されるようになりましたが、自信を持って使用できる人はどのくらいおられるでしょうか?
専門家向けの講習会だけでなく、一般向けの講習会の機会も数多くありますから、みなさんも宇宙飛行士訓練のつもりで、一回くらい、いかがでしょうか?
※写真の出典はJAXA/NASA
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