JAXA宇宙飛行士活動レポート 2012年8月
最終更新日:2012年9月27日
JAXA宇宙飛行士の2012年8月の活動状況についてご紹介します。
若田宇宙飛行士、ESAで「コロンバス」の訓練を実施
EPMの運用方法について訓練を受ける若田宇宙飛行士(出典:JAXA/ESA)
第38次/第39次長期滞在クルーである若田宇宙飛行士は、8月27日から31日にかけて、ドイツのケルンにある、欧州宇宙機関(ESA)の欧州宇宙飛行士センター(European Astronaut Centre: EAC)で、国際宇宙ステーション(ISS)で同時期に滞在する予定のNASAのマイケル・ホプキンス(第37次/第38次長期滞在クルー)、リチャード・マストラキオ(第38次/第39次長期滞在クルー)両宇宙飛行士とともに、ESAが開発したISSのモジュールである「コロンバス」(欧州実験棟)に関わる訓練を行いました。
3人は、それぞれのスケジュールで訓練を進め、若田宇宙飛行士は、実験に関わる訓練として、欧州引出しラック(European Drawer Rack: EDR)および欧州生理学実験ラック(European Physiology Modules: EPM)の習熟訓練や、無重量環境での空間認識に関する医学研究などの具体的な実験テーマについても訓練を行いました。
また、システム機器のメンテナンス方法についても訓練を行い、コロンバスのD1ラックに搭載されている生命維持システムや、水を循環させて排熱を行う熱制御システムの保守作業について確認しました。
この他に、システムの異常や、コロンバスで緊急事態が発生した際の対応方法についても訓練を行いました。
金井宇宙飛行士、「きぼう」日本実験棟に関わる訓練を実施
近傍通信システムの運用について訓練を行う金井(奥)、クリストフォレティ(中央)両宇宙飛行士(出典:JAXA)
金井宇宙飛行士は、7月末から8月上旬にかけて、筑波宇宙センター(TKSC)にて、「きぼう」日本実験棟に関わる訓練を行いました。訓練には、ほぼ同じ日程で、欧州宇宙機関(ESA)のサマンサ・クリストフォレティ宇宙飛行士も参加しました。
金井宇宙飛行士は、「きぼう」のシステム機器や「きぼう」に搭載されている実験装置について、講義を受けたほか、モックアップ(実物大の訓練施設)やシミュレータを使用した訓練を行いました。
「きぼう」のシステムに関しては、「きぼう」のシステム全体および実験装置の状態を監視・制御する監視制御系、国際宇宙ステーション(ISS)から供給される電力を「きぼう」内の機器に分配する電力系、各サブシステム間のデータ通信を行う通信制御系、「きぼう」の機器の温度を制御する熱制御系、宇宙飛行士が快適に活動できる温度・湿度の調整を行う環境制御系などのシステムの運用方法について学び、各システムに関わる技術・知識に加えて、システムの異常に対して適切に対処する技能を身に付け、オペレータとしての訓練を修了しました。
エアロックの操作方法について訓練を受ける金井(中央)、クリストフォレティ(左)両宇宙飛行士(出典:JAXA)
また、金井宇宙飛行士は、「きぼう」ロボットアームについての訓練も行いました。ロボットアームのシステムや操作卓の機能、カメラ操作、ロボットアーム先端のエンドエフェクタ(把持手)の把持/開放操作、冗長システムの運用方法、船外実験プラットフォームにロボットアームで船外装置を取り付ける運用など、ロボットアームの運用に必要となる一通りの知識や技術を習得しました。その他にも、「きぼう」のエアロックについて、構成する機器の機能や配置、船外機器を搬出する操作方法などについて訓練で学び、エアロックの運用に関する知識を深めました。
訓練の最後には、「きぼう」で行われている様々な科学実験について、画像データの取得や地上へダウンリンクするための接続、実験試料の交換方法など、実験装置を構成する機器についても訓練を通して学びました。
野口宇宙飛行士、CAPCOMとして星出宇宙飛行士を支援
MCCにて、若田(左)、野口(右)両宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)
8月1日に、野口宇宙飛行士はNASAジョンソン宇宙センター(JSC)のミッション・コントロール・センター(Mission Control Center: MCC)で、国際宇宙ステーション(ISS)との通信役となるCAPCOM(Capsule Communicator)の任務を担当し、星出宇宙飛行士を始めとする第32次長期滞在クルーと交信しました。
野口宇宙飛行士は、平成23年度にNASAからCAPCOM資格認定を受けており、今回は資格維持のための任務であると同時に星出宇宙飛行士の長期滞在ミッションの支援として、星出宇宙飛行士が担当する科学実験や船外活動の準備作業に関する業務通信を約8時間にわたり行いました。また当日は、来年ISSでコマンダーを務める若田宇宙飛行士がISS訓練の一環としてMCCを訪問し、JAXA宇宙飛行士が公式業務でMCCにふたり揃うという珍しい光景が見られました。
油井宇宙飛行士、一時帰国し、講演活動などを実施
油井宇宙飛行士は、8月上旬に帰国し、筑波宇宙センター(TKSC)で米国での訓練状況の報告などを行ったほか、日本の各地を回り講演を行いました。
「創造性の育成塾」で講師をする油井宇宙飛行士(出典:JAXA)
8月9日には、山梨県富士吉田市で毎年行われている「創造性の育成塾」の授業に、講師として参加し、前職の話から、宇宙飛行士認定、そして現在に至るまでの経験をスライドと動画を使って説明し「具体的な夢を持ち、それを実現させるために現実をしっかり捉える事が必要」、「夢と現実の差が見えてこそ、どの様にその差を埋めていけばよいかわかる」と語り、考える力を養う事が夢への近道であることを述べました。
8月11日には、埼玉県の川越市で開催された第80回JAXAタウンミーティングに参加し、「国際宇宙ステーション・利用活動について」を話題として、参加者との意見交換を行いました。また、8月12日には、長野県佐久市を訪れて講演を行いました。
油井・大西・金井宇宙飛行士による活動報告「新米宇宙飛行士最前線!」
8月は、広報活動を行うために帰国させて頂きました。ヒューストンにいると、皆様方とお会いする機会が少なく、とても残念に思っていましたが、今回は多くの方々と直接お話をする事が出来ました。今回の帰国では、私も多くの事を学びました。今回、特に重要だと思ったのは、「夢の重要性」を皆さんにお伝えすることでした。
話は宇宙飛行士候補者に選抜された直後にさかのぼります。私は、宇宙飛行士になる機会を与えられた時、多くの方から「夢のある話ですね!」といったコメントを頂きました。ただ、私はその時、自分自身で何が「夢のある話」なのかよく分からずに、相槌をうっていました。私にとって宇宙飛行士は、とても「夢」という一言で終わらせることができない様な厳しい現実を含んでいたからです。JAXAの選抜試験の中でも、その厳しさを受験者に知ってもらうような内容が多く含まれていました。(例えば、宇宙放射線の身体への影響の話を聞いたり、ヒューストンで飛行士の方々の訓練を見学したりした事です。)
生まれて初めての記者会見で、緊張の様子。様々な想いが心の中に…私の人生の大きな転機である事に間違いはありません。
正直、宇宙飛行士に与えられる任務の厳しさを知り、驚愕したのを覚えています。私はそれまで自衛隊の中でも非常に厳しいと言われている職業である「テストパイロット」を経験していましたが、それでも宇宙飛行士の仕事をしっかりやる能力を自分が備えることが出来るか自信がありませんでした。それゆえに、合格の連絡を頂いた時は、嬉しくもありましたが、それよりも「大変な事になったな…」という気持ちが強かったのです。そして、こんなに大変な事が「夢」の一言で言い表されて良いのか?と素直に疑問に思いました。
私がこれが皆さんのいう夢だったのかと納得できたのは、「夢」=「人生の目標」という整理をした時からです。(すいません!こんな簡単な事もわからずにいたのです。さすがに国語が大の苦手だっただけありますね(笑)。)
そういう意味では、他の多くの職業も夢のある職業です。また、その職業に就いた時は、全ての人にその仕事の重要性を認識して、誇りを持って仕事をして頂きたいと思っています。さらには、受験生の皆さんが高校・大学に合格した時は、「夢」に近づいた喜びを感じるとともに、その夢の持つ責任をしっかりと実感した上で、勉学に打ち込んで欲しいのです。その様な方は、きっと就職活動でも有利だと思いますよ。私が人事担当者であれば、その仕事の重要性を理解した上で、情熱を持って努力してきた方に将来性を感じ、採用したいと思いますので…
もう一つ、夢に対する考え方について話します。私が防衛大学校に入った動機は、崇高なものではありませんでしたが、仕事を続けるにつれて自分の仕事に誇りを持つようになりました。正直、一生職業を変えるつもりは無かったですし、今も一つの事に打ち込む人生の価値を高く評価しています。それゆえ、自衛隊での役割を他の方にお任せして、他の道に進むことに非常に大きな葛藤がありました。更には、選抜された後、世論の動向をしっかりと見極め、もしも反対意見が多ければ、辞退する事も考えていました。ただ、私が確認する限り、強い反対意見もなかったようですので、宇宙飛行士候補者としてJAXAに就職する事が出来ました。その時私は、「宇宙開発も自衛隊も、国民の皆様の為の仕事である。今まで、私に投資してくださった国民の皆様に、違った形で奉仕するだけである。」と考え、自分を納得させました。これが、正しいと胸を張っていうためには、少なくとも私は、自衛隊で仕事を続けていた場合に勝る成果を、宇宙飛行士の分野で挙げ、皆様に貢献しなければなりません!長く書いてしまいましたが、結論としては、夢を追求して転職する際は、転職前に比して、より多く社会に貢献できなければならないと考えています。
いずれにしても、今後、私が、「夢」という言葉を講演やインタビューで使った時は、「人生の目標」という意味で使用していますので、今後もそのつもりで聞いてくださいね。
さて、結論です。私が皆様に伝えたいことは、「夢の重要性」=「人生の目標の重要性」です。さらにいうと、人が何故生きるのかということを真剣に考えて欲しいということです。私のような人生経験が浅いものがいうのもなんですが、多くの方がこれについて真剣に考えることで、日本或いは世界はもっと多くの人達にとって住みやすい場所となるはずです!夢について考えるのに遅すぎると言ったことは無いと思います!皆さんも時間を見つけて、一度自分の「夢」=「人生の目標」=「生き方」について考えてみてください。皆で明るい未来を築くために…
宇宙飛行士としての責任を自覚し、一生懸命「夢」=「人生の目標」の大切さを説いています。妻からは、言うことが宣教師さんみたいになってるよ!と言われることも(笑)。
※写真の出典はJAXA
今現在、学生時代に自分がした選択の中で激しく後悔していることが一つあります。
それは、第二外国語の選択です。
大学に入学するにあたり、最初の2年間で勉強する第二外国語を選ぶことになりました。それに応じて、最初のクラス分けなども決まってくるので、とても重要な選択なのですが、私は何の根拠もなく、何となくカッコよさそうだといういい加減極まりない理由で、ドイツ語を選択したのでした。
それから15年以上の月日が流れ・・・、なぜあの時ロシア語を選択しなかったのだろうと、当時ののん気な自分を恨めしく思う自分がいます。
まさに後悔先に立たず、ですね。
現在、国際宇宙ステーションの長期滞在を目指す宇宙飛行士にとって、避けては通れない関門、それがロシア語です。
アメリカのスペースシャトルが退役した今、国際宇宙ステーションへの宇宙飛行士の輸送は、ロシアのソユーズロケットが一手に引き受けています。そのソユーズロケットに関する訓練や、宇宙ステーションのロシア区画に関する訓練は、当然のことながらロシアで行われます。もちろん、そこで使用される言語は全てロシア語です。
通訳を介して訓練を受けることも可能ですが、やはり教官の言葉を直接理解できるのと、通訳の言葉を通して理解するのとでは大きな違いがあるでしょう。ですから、宇宙飛行士はみな一生懸命にロシア語を勉強するわけです。
ここヒューストンのNASAジョンソン宇宙センターには、私たち宇宙飛行士にロシア語を教えてくれる先生が数多くいます。多くの先生はロシア語圏で育ったロシア人で、他にもアメリカ人の先生も数人います。
基本的に、授業は先生と一対一の形で行われ、一回のレッスンは1時間半もしくは2時間で、週2,3回のレッスンがあります。
授業の進め方は、先生によって異なっていて、私の先生の場合、文法のレッスン、会話の練習、ロシア語のドキュメンタリーの鑑賞、新聞ニュースの読解などを並行して進めています。
私がロシア語の勉強を始めて、かれこれ2年以上が経ちます。
全く新しいことを一から始めるというのは、どこの世界でも大変なことですが、ロシア語を勉強するにあたっても、最初は沢山の戸惑いがありました。もちろん、今でも四苦八苦していますが・・・
ひとつ、その例をご紹介しましょう。
ロシア語にあって日本語には全くない概念、名詞の性別というものがあります。これはドイツ語など他の言語にも見られる概念です。
本とかミルク、学校、教科書などなど、全ての名詞は男性名詞・中性名詞・女性名詞に分類されます。男の子という単語は男性名詞、女学生という単語は女性名詞というように、わかりやすく分類されている名詞も多くありますが、中には正直意味不明の分類もあります。例えば、雑誌という単語は男性名詞、新聞は女性名詞、砂糖は男性名詞で塩は女性名詞、といった具合です。
これらの性別によって、それを修飾する形容詞の形が変わってきたりもします。日本語では、「大きい」という形容詞は名詞によって形を変えたりしませんが、ロシア語では「その建物(中性名詞)は大きい」と言うときと、「その車(女性名詞)は大きい」と言うときで、「大きい」という形容詞の形が少し異なるのです。
この単語の形の変化、専門的には語形変化とでも言うのでしょうか。ロシア語はこの語形変化が複雑で、習いたての頃は辞書を引いても調べたい単語がなかなか見つからないほどです。
私たち日本人に馴染みの深い英語でも多少の語形変化はありますが、ロシア語と比べたら月とスッポン、そういうシンプルなところも英語が世界的な言語として普及していった要因の一つかも知れませんね。もしくはその逆で、普及していく過程でシンプルなものに変容していったのでしょうか??
先に、全く新しいことを一から始めるのは大変と書きました。その一方で、新しいことを知っていく喜びや楽しさというのもありますね。先日、初めてロシアを訪れる機会がありましたが、現地の人々とロシア語で簡単なコミュニケーションがとれた時は、とても嬉しかったです。
これからも、ロシア語というこの難しきものと、楽しく、上手く付き合っていけたらなと思っています。
余談ですが、同じようにロシア語と悪戦苦闘しているアメリカ人に以前、「ロシア語って本当に複雑で難しいよねえ」という話をしたら、返ってきた言葉は、「何言ってるんだ。日本語だってメチャクチャ難しいじゃないか。なんだ、あの漢字というやつは。一体いくつあるんだ!」というものでした。
・・・・・確かに。
みなさん、こんにちは。新米宇宙飛行士の金井宣茂(かないのりしげ)です。
先日、このコラムの担当者を通して、読者の皆さまから頂いたコメントをまとめたものをいただきました。温かい励ましの声ばかりで、あらためて、「毎日の訓練をがんばろう!」、「このコラムも書き続けよう」と元気をいただきました。ご感想をお寄せいただいた皆さま、そしてつたない記事に目を通してくださっている皆さまに、この場をお借りしてお礼申し上げます。
これからも、こんなことを書いて欲しいというリクエストや、宇宙飛行士の訓練や業務に関する質問、あるいは「もっとしっかりせい!」というお叱りなど、どんどんご意見やご感想をいただければと思います。必ずしも一つ一つの質問やリクエストすべてにお応えすることはできないかもしれませんが、本コラムだけでなく、今後の講演活動など様々な機会を通して、JAXAの活動や宇宙飛行士の仕事について、より興味深い情報発信ができるように活用させていただきたいと考えています。
さて、今月の記事では、8月に日本で行った訓練のご報告をしたいと思います。
今回の訓練は、茨城県つくば市にある、筑波宇宙センターで行われました。国際宇宙ステーションの一部である日本実験棟「きぼう」の訓練は、世界で、ここでしか受けることができません。日本人宇宙飛行士だけでなく、宇宙ステーションでのミッションが予定されている宇宙飛行士は、かならず来日して訓練を受けなくてはいけません。
出典:JAXA
短期間で、たくさんの授業と実習、そして試験を受けなくてはいけないので、忙しくて大変なのですが、「訓練でニッポンに行く」というのは、海外の宇宙飛行士にとっては楽しみな機会でもあるようです。
今回は、訓練パートナーとして、イタリア出身のサマンサ・クリストフォレティ宇宙飛行士とともに訓練を受けましたが、彼女は、訓練の合間の週末を利用して、京都に旅行に行ったり、富士山を登ったりと、日本滞在を最大限に満喫していたようです。
ところで、日本実験棟「きぼう」は、日本が運用する宇宙ステーションの一部(“モジュール”と呼ばれます)で、アメリカの運用するモジュールから電力や空気などの供給を受けつつ、筑波宇宙センターの内部にある管制センターから24時間体制でコントロールを受けています。
「きぼう」は、大きく「実験室」「保管室」「船外実験プラットフォーム」の3つの部分から構成されており、独自のロボットアームや、宇宙に物品の出し入れを行うエアロックなど、宇宙ステーションの中でもユニークな機能を兼ね備えています。
宇宙飛行士候補者に選ばれた直後は、まだまだそのすごさを十分には分かっていませんでしたが、宇宙ステーション全体の勉強を終えてから、あらためて「きぼう」について勉強すると、日本独自のアイデアや、新しい技術的挑戦などを理解することができ、「きぼう」を作り上げた技術者の情熱や工夫のすごさに、ただ驚かされるばかりでした。
「技術大国・ニッポン」とは使い古された言葉で、ご近所の中国や韓国などが技術力をつける中、ともすれば「それも過去の話」などと言われてしまうこともあるかもしれません。しかし、日本を離れて仕事をしていると、プロジェクトパートナーである日本の技術に対する厚い信頼感を、日々、肌身を通して実感することができます。
出典:JAXA/NASA
「きぼう」は、宇宙ステーションで一番大きいモジュールです。一番新しいモジュールでもあり、きれいで騒音も一番少ないことから(余談ですが、このあたりにも日本の“こだわり”を感じます)、宇宙ステーションに日本人が滞在していないときでも、記者会見や、教育イベントの場として使われていることが多いように思われます。NASAが独自に放映しているNASA TVや、ときには全米放送のニュースで「きぼう」の内部が使われているのを見ると、日本人としてとても誇らしい気持ちになります。
ところで、2008年に、土井隆雄宇宙飛行士のスペースシャトルミッションで「保管庫」の部分が最初に取り付けられて以来、すでに4年以上が経過していますが、その間、地上から休むことなく「きぼう」を守り続けてきた、日本の管制官の活躍も忘れてはいけません。
宇宙飛行士が常時滞在していますので、人間を危険にされすような故障や不具合は絶対に許されません。日本が初めて独自に作り上げ、初めて運用する宇宙船(正しくは宇宙ステーションの一部ですが、宇宙ステーションもシステムの上では巨大な一つの宇宙船と考えることができます。また日本の「きぼう」やヨーロッパの「コロンバス」は、それ自体が小さな宇宙ステーションとしての機能を備えています)ですので、想定していなかったような事象や、装置の故障なども起こります。しかしこれまで大きな問題なく運用を続けてきているというのは、開発段階からの「きぼう」の設計・製造の品質の高さとともに、厳しい訓練に裏付けされた管制官のみなさんのプロフェッショナリズムによるものが大きいと考えています。
そして、そんな日本が誇る管制官たちや、世界中から訓練にやってくる宇宙飛行士たちを、毎日厳しく鍛えているのが、つくばの訓練教官たちです。
わたし自身、NASAで宇宙飛行士候補者訓練を受け、全米各地から集まった優秀なエンジニアの教官たちに指導を受けて鍛えられましたが、今回は、日本の教官から、それに勝るとも劣らない知識と情熱で、熱血指導を受けることができました。いつでもニコニコ優しく、勉強のできない生徒を叱り飛ばすということはないのですが、生徒に対し、やるべきことをしっかりやらせるという点では、非常にきっちりしていて、日本人の真面目さ・几帳面さが非常に特徴的だと感じました。(念のために報告しますが、熱血教官の皆さんのおかげで、無事にすべての試験をパスして、「きぼう・オペレーター」という資格をいただくことができました)
ここまで記事を読んでくださった皆さんは、「いやいや、これはさすがに日本のことをほめ過ぎだろう」と思われるかもしれませんが、これが、普段はNASAの組織の中に入って仕事を行っている自分の、正直な感想です。
アメリカの人が、自国の宇宙開発に対して非常に高いプライドを抱いているのはもちろんなのですが、同時に、パートナーである日本やヨーロッパに対して、同じくらい厚い信頼感を持って一緒に仕事に取り組んでくれます。
20年前に、日本が初めてスペースシャトルで宇宙飛行士を宇宙に送った頃は、日本の宇宙開発など歯牙にもかけられなかったと聞き及びます。それが、今のような協力体制をとるようになったのも、これまでのJAXAのエンジニア、研究者、そして先輩宇宙飛行士の長年の努力によるものであると思います。
現在、自分たちが受けている信頼感や評価を、受けて当たり前のものと考えるのでなく、「これを継続するためには、今後、自分は何をしなければいけないのか?」と深く考えさせられる、今回の日本訓練でもありました。
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