JAXA宇宙飛行士活動レポート 2012年5月
最終更新日:2012年6月21日
JAXA宇宙飛行士の2012年5月の活動状況についてご紹介します。
星出宇宙飛行士のISS長期滞在に向けた訓練
シミュレータでロボットアームの訓練を行う星出宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)
国際宇宙ステーション(ISS)の第32次/第33次長期滞在クルーである星出宇宙飛行士は、目前に迫るISS長期滞在に向けて、最終的な訓練を行っています。
5月上旬から中旬にかけて、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)で打上げ前最後となる米国での訓練を行い、5月末にはドイツへ移動し、欧州宇宙機関(ESA)の欧州宇宙飛行士センター(European Astronaut Centre: EAC)で、ESAの実験や装置に関する最終的な訓練を行いました。
JSCでは、無重量環境訓練施設のプールを使用した船外活動訓練や、シミュレータを使用したISSのロボットアーム(Space Station Remote Manipulator System: SSRMS)の操作訓練を行いました。その他に、ISSの電力系統に異常が発生した場合の対応方法や、空気中のガスや微生物・水質・音環境・放射線レベルなどを測定する環境衛生システム、クルーに飲料水を提供する水供給装置などの使用方法やメンテナンス方法について再確認しました。訓練以外にも、ISS長期滞在中に実施する実験に関わる打ち合わせや、医学実験の一環で、軌道上で身体に起こる医学的な変化を調べるために、比較用のデータ取得なども行いました。
EACでは、ESAが実施する実験の手順確認や、医学実験用のデータ取得を行いました。星出宇宙飛行士は、ESAの「コロンバス」(欧州実験棟)に搭載されている機器のメンテナンス作業についても訓練を行ったほか、軌道上での作業をスムーズに行うために、コロンバスの管制官とミーティングを行い、コミュニケーションを深めました。また、星出宇宙飛行士滞在時に欧州補給機(Automated Transfer Vehicle: ATV)の分離が予定されていることから、ATV分離時のクルー作業についても確認しました。
金井宇宙飛行士、ロシアでソユーズ宇宙船に関わる訓練を実施
金井宇宙飛行士は、5月中旬からロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)にて、ソユーズ宇宙船に関わる訓練を行いました。
ソユーズ宇宙船の帰還モジュールのシミュレータを使用して、運動・航法制御システムのパネルに表示される情報を見ながら、自動でISSとのランデブからドッキングに至るまでの過程と、ISSから分離して再突入するまでの過程を確認しました。
金井宇宙飛行士は、ソユーズ宇宙船の生命維持システムや通信システム、TVシステムについても訓練を受けました。
若田宇宙飛行士、九州の各地を訪れ講演を実施
九州大学での講演の様子(出典:JAXA)
若田宇宙飛行士は5月中旬に一時帰国し、福岡県の九州大学、熊本県の崇城大学、大分県の日田高等学校などを訪れて講演を行いました。
母校である九州大学では、九州大学創立100周年を記念して行われた百周年記念行事に参加するとともに、「夢と宇宙 母校への期待」をテーマに自らも講演を行いました。
講演において若田宇宙飛行士は、九州大学の歴史と世界の宇宙開発の年表を照らし合わせながら、宇宙開発の歴史を紹介しました。また、大学生活を振り返り、在学中の出会いや学び得たものが、今の宇宙飛行士という職業に大きく影響していることを述べ、講演の最後には、これからの九州大学への期待と自身の抱負、将来の宇宙開発の展望について熱く語りました。
油井・大西・金井宇宙飛行士による活動報告「新米宇宙飛行士最前線!」
※ 油井宇宙飛行士はNEEMO訓練のため、執筆をお休みさせていただきました。NEEMO訓練中の宙亀日記~今は海亀編~は、こちらのページをご覧ください。
みなさん、こんにちは。
いつのまにか、前回のレポートから一ヶ月。時が経つのは早いものです。年をとるにつれて、月日が経つのが早くなっていくような気がしますが、気のせいでしょうか。以前、友人がその理由についてこう語っていました。
「例えば5歳の子供にとって、1年というとそれまでの自分の人生の5分の1になるだろう?そりゃ長くも感じるだろうさ」
彼の理論が正しければ、この先時間の進み方は早くなる一方ということになりますが・・・
いずれにしても、1日1日を大切に過ごさなければいけないなと感じる今日この頃です。
前回のレポートでは、T-38ジェット練習機による操縦訓練について書きました。文量が多くなりすぎて、まさかの「次回に続く」という形で終わってしまっていたので、今月はその続き、飛行中のことについて書こうと思います。
T-38はその気になれば音速を超えることも可能ですが、さすがにいつもそんなことをしていては燃料がいくらあっても足りないので、通常の訓練飛行では大体音速の8割くらいの速度で飛行します。具体的な数字では、高度によって変化しますがおおよそ時速850Kmくらいです。
燃料はいつもタンクを満タンにして出発しますが、それでも不測の事態に備えた予備燃料を除くと、せいぜい1時間半くらいしか飛べません。余分な燃料はそれほど多くないので、飛んでいる間は目的地の天気を頻繁にチェックします。万が一、予報より悪くなっても、早めに気付けばそれだけ多くの選択肢があるからです。
現在、油井宇宙飛行士が参加しているNEEMO訓練に、以前私が参加したときにも、天気図を読めることが役立ちました(写真は、NEEMO15ミッション中の2011年10月26日時点の米国東部の天気図)
普段の訓練フライトでは、1時間から1時間半で行ける距離の空港に飛んでいって、そこで燃料が残っていれば離着陸の練習をするというのが一般的です。
その後燃料を給油して、もう一度離陸するまでには大体1時間弱かかります。
実際この日の訓練では、4区間を飛んだので飛行時間は合計5時間を超えて、エリントン飛行場に帰ってくる頃には夕方になっていました。
私は宇宙飛行士になる前、旅客機のパイロットをしていたのですが、その頃操縦していた旅客機とT-38を比較した場合、いくつか大きな違いがあります。
その1つがT-38には自分たちパイロット以外、誰も乗っていないという点です。そんなの当たり前だろう、と言われればそうなのですが、これは大きな違いです。飛行機が多少揺れても、操縦が荒くなっても全く問題ないからです。旅客機では自分たちの後ろに何百人というお客様が乗っています。機内では、熱い飲み物が配られていたり、トイレに立つお客様もいらっしゃいます。そんな時に飛行機が急に揺れたりしたら、大きな怪我や火傷につながりかねません。なので、飛行中は飛行機がなるべく揺れないよう、パイロットはかなり気を遣って飛んでいます。T-38の場合は、揺れるのをそんなに気にしなくて良いので、その点はとても楽だと感じます。
反対に、T-38の方が難しいと感じるところももちろんあります。その最たるものが、自動操縦装置の有無です。一般的な旅客機には自動操縦装置がついていて、離陸以外の操縦は機械に任せることも可能です。その分、パイロットは操縦以外のことにより気を配れるわけです。その自動操縦装置が、T-38にはついていません。従って、1時間半近い飛行中、パイロットは常に操縦桿を握って、飛行機のわずかな姿勢の変化も逃さず、針路と高度を維持しなければならないのです。
それに加えて飛行中、パイロットは操縦以外にもやらなければいけないことが沢山あります。先述の天気の確認もそうですが、他に自分の位置の確認、色々な機器の操作、地図の読み取り、管制機関との交信などがそうです。
離陸直後や着陸前などは、それはもう目の回る忙しさです。
これらを全て1人でこなすのは、宇宙飛行士にとってとても大事な訓練になります。私たちの世界では、この同時に複数の仕事をこなすことをマルチタスキングと呼んで、宇宙飛行士に求められる資質の1つとして重視しているからです。実際の国際宇宙ステーションでの仕事でも、ロボットアームの操縦などに活かされてきます。
もちろん、せっかくパイロットが2人乗っているわけですから、作業を2人で分担することも可能です。例えば、1人が操縦を担当して、もう1人がそれ以外の仕事を担当するといった具合にです。この場合、マルチタスキングの訓練という観点からは、効果が薄くなるでしょう。ただ、その代わり2人で協調して仕事をする、言わばチームワークを身につけられるという利点が出てきます。何より、作業を分担することによって、疲労が軽減できます。
私の場合、2区間のフライトまでは離陸と着陸の操縦以外の全てを自分1人でやるようにして、3区間以上になる場合は、前席のパイロットと作業を分担するようにしています。経験上、そのくらいが集中力を維持して、安全に飛行機を飛ばせる限界かなと思っています。
話が随分と一般的になってしまいました。というのも、その4月の飛行訓練では、特に変わったこともなく、平穏に訓練を終えることが出来たからです。またこの先の飛行訓練で、例えば飛行中に装置が1つ故障するなどの経験をすることがあれば、この場でご紹介したいとは思いますが、今日のところはひとまずこのへんで、T-38の飛行訓練についての話を終わりたいと思います。
ご愛読、どうもありがとうございました!
※写真の出典
上:JAXA/NASA
下:NASA Goddard MODIS Rapid Response Team
連載二回目となります、新米宇宙飛行士の金井宣茂(かないのりしげ)です。
旅から旅へ、スーツケースを片手に世界各国を回って訓練をしている新米が、今月は、ロシアの星の街に行ってきました。
モスクワ近郊に位置する星の街の中には、ユーリ・ガガーリン宇宙飛行士訓練センターという訓練施設があり、ロシアの宇宙飛行士(コスモノート)はもちろんのこと、アメリカ・ヨーロッパ・カナダ・日本と、世界中から宇宙飛行士が集まって、日々訓練を受けています。
その名を冠したユーリ・ガガーリンによる人類初の宇宙飛行から51年。一見するとひなびた田舎の街なのですが、世界の有人宇宙開発の一端をリードしてきた訓練センターには、ソビエト連邦時代からの歴史を知る名物教官がそろっており、若い世代の宇宙飛行士に対して、変わらぬ情熱をもって授業や訓練を行ってくれています。
今回の訓練は、ソユーズ宇宙船のシステムについての勉強です。アメリカのスペースシャトル・プログラムが終わってしまいましたので、国際宇宙ステーションへの行き帰りは、現在のところ、ロシアの宇宙船しか手段がありません。ソユーズ訓練は、国際宇宙ステーションに搭乗する宇宙飛行士には、避けて通れない訓練となります。
また、スペースシャトルの訓練を受けたことのない若い宇宙飛行士にとっては、訓練とはいえ、「宇宙船を操縦する」貴重な経験となります。
宇宙を、もっと人類にとって身近な活動の場とすることを考えると、ロシアのソユーズ宇宙船だけでなく、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの各国が、それぞれ独自の有人宇宙船を持つのが良いのではないか思うこともあります。実際、つい先日、アメリカの民間会社が宇宙ステーションへの宇宙船(人ではなく、貨物の運搬のみですが)のドッキングを成功させましたので、数年後には、ソユーズ宇宙船以外の有人宇宙船が宇宙ステーションを発着して、ますます多くの宇宙飛行士が行き来することになるかもしれません。
さて、そうは言っても、今はソユーズ宇宙船の勉強です。
ここ星の街での授業は、すべてロシア語で行われます。ロシア語の勉強を始めて、1年とちょっと。ようやく挨拶と自己紹介くらいはできるようになりましたが、まだまだ専門的な内容について授業を受けるには語学力が不十分なため、英語の通訳を介して訓練を受けています。
「ロシア語と英語と日本語と、3ヶ国語を頭の中でどうやって処理してるんだ?」と、アメリカの宇宙飛行士から、よくネタにされますが、専門用語ばかりの授業では、無理に日本語に翻訳するよりも、英語やロシア語のままのほうが理解がしやすかったりします。
すでに2年間に渡るアメリカでの宇宙ステーション訓練で、専門的な内容を、英語で理解する素地ができているから、そう感じるのかもしれません。
「各システムには冗長性が備わっており、電力供給システムの片系が遮断された際には、・・・」とか、「軌道力学に従い、毎秒○○m/sの主エンジン噴射を2回行うことにより・・・」などと、アメリカに渡った直後は、もともと医者をしていた自分には畑違いの勉強内容に、ずいぶん苦しめられたものした。
もうひとつ、星の街での生活で特に印象深いのは、宇宙に飛び立つ直前の“現役バリバリ”の宇宙飛行士たちと、生活をともにしながら訓練を受けることです。
ヒューストンで勤務しているときは、みんな自宅を構えていて、家族もおり、仕事や訓練の場でしか会うことがありません。一方、星の街では、一ヶ所の宿泊施設にみんなで滞在していて、家族とも離れて、勉強や訓練を行い、時には協力して自炊生活を送るので、まるで学生時代の合宿をしているように感じます。
7月から宇宙ステーションに長期滞在を始める星出彰彦飛行士は、クルーメイトのサニー・ウィリアムズ飛行士とともに、つい先日星の街入りをして、打ち上げ直前の最終訓練を開始しています。偶然なのですが、来年に飛行予定の若田光一飛行士も、同時期に星の街での訓練中で、今、星の街はとてもにぎやかです。
ロシアというと、日本人にはあまり馴染みがない国かもしれませんが、古くから東ヨーロッパなど、海外からの宇宙飛行士を受け入れてきた歴史があるせいなのか、外国人にも親切に丁寧に指導をしてくれるように感じています。
考えてみれば、日本人として初めて宇宙飛行を行ないミール宇宙ステーションに滞在した秋山豊寛さん以来、野口聡一飛行士、古川聡飛行士と、星の街で訓練を重ねて宇宙飛行を行う日本人飛行士もどんどん増えています。
世界の国々を大きな『宇宙家族』としてとらえると、ロシアとアメリカが、ずっと年かさのお兄さん・お姉さんというイメージでしょうか。
日本は、年の離れた弟(妹?)ですが、今年は毛利衛宇宙飛行士のスペースシャトル初飛行から20周年となり、もはやお兄ちゃんお姉ちゃんに助けてもらっているだけの子どもではなくなりました。
いつの日か、自分が宇宙飛行を行う際に、ソユーズ宇宙船に搭乗するかわかりませんが、星の街での貴重な経験を、何でも吸収してきたいと思います。
将来の日本の有人宇宙活動に役立てることはもちろんですが、新しく宇宙に挑戦しようとする国や組織に、あるいは国際社会全体としての宇宙開発に、兄弟に対するように、あるいは家族に対するように、貢献することができれば良いと考えています。
※写真の出典はJAXA/GCTC
≫「新米宇宙飛行士最前線!」のバックナンバーはこちら
≫JAXA宇宙飛行士活動レポートの一覧へ戻る