JAXA宇宙飛行士活動レポート 2011年9月
最終更新日:2011年10月27日
JAXA宇宙飛行士の2011年9月の活動状況についてご紹介します。
ISS長期滞在中の古川宇宙飛行士の活動については、JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在ページをご覧ください。
金井宇宙飛行士がESAのCAVES訓練に参加
CAVES訓練に参加する金井宇宙飛行士(左端)(出典:JAXA/ESA)
金井宇宙飛行士は、欧州宇宙機関(ESA)、NASA、ロシアの宇宙飛行士とともに、ESAが実施するCAVES訓練に参加しました。
CAVES訓練とは、洞窟の中での生活を通して、宇宙での長期滞在に必要な協調性や自己管理能力などの向上を目的とした訓練です。
金井宇宙飛行士ら5名は、極限の衛生状態であり、太陽の光もささず自然の時間の流れがわからない洞窟の中で、6日間生活をともにしました。訓練期間中は1日2回、洞窟の外に待機した訓練チームと連絡を取り、作業状況や作業予定を確認し、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士と同じように、タイムラインに沿って洞窟の地図作成や写真撮影、地質学や微生物学のサンプリングなどのタスクを実施しました。
- Mission accomplished: cave crew returns to Earth(英語)
- ESAのウェブサイトに掲載されているCAVES訓練の報告ページです。
星出宇宙飛行士のISS長期滞在に向けた訓練
国際宇宙ステーション(ISS)の第32次/第33次長期滞在クルーである星出宇宙飛行士は、ISS長期滞在に向けた訓練を継続しています。
SSATAでEMUのフィットチェックを行う星出宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)
NASAジョンソン宇宙センター(JSC)では、無重量環境訓練施設(Neutral Buoyancy Laboratory: NBL)のプールを使用して、ISSに一緒に長期滞在するNASAのサニータ・ウィリアムズ宇宙飛行士とともに、船外活動ユニット(Extravehicular Mobility Unit: EMU)を着用した船外活動訓練や、SSATA(Space Station Airlock Test Article)と呼ばれる真空チャンバを使用したEMUのフィットチェックや操作訓練を行いました。
また、NASAがISSで実施する有人研究(Human Research Facility: HRF)に関わる訓練として、少ない運動時間かつ高負荷で骨量減少や筋萎縮、心臓血管機能の低下を最小限に抑えるための運動処方の研究に関する訓練や、宇宙での長期滞在による心筋の萎縮について調べるための訓練を行いました。これらは、宇宙飛行士の長期滞在時における健康維持や、心臓血管系への影響を軽減するために必要な対策を発展させることに繋がります。
その他に、シミュレータを使用したISSのロボットアーム(Space Station Remote Manipulator System: SSRMS)の操作訓練なども実施しました。
エアロックの操作訓練を行う星出(中央)、ペティット(右)両宇宙飛行士(出典:JAXA)
Hicari実験に使用するカートリッジを確認する星出(手前)、ペティット(奥)両宇宙飛行士(出典:JAXA)
第31次長期滞在クルーのバックアップクルーでもある星出宇宙飛行士は、9月下旬に第31次長期滞在クルーであるNASAのドナルド・ペティット宇宙飛行士とともに、筑波宇宙センター(TKSC)にて「きぼう」日本実験棟のシステムや「きぼう」で実施する実験に関わる訓練を行いました。
「きぼう」のシステムについては、モックアップ(実物大の訓練施設)を使用したエアロックの操作訓練や、シミュレータを使用した「きぼう」ロボットアームの操作訓練を行いました。実験に関わる訓練では、温度勾配炉(Gradient Heating Furnace: GHF)で実施する「微小重力下におけるTLZ法による均一組成SiGe結晶育成の研究(Hicari)」実験と、流体物理実験装置(Fluid Physics Experiment Facility: FPEF)で実施する「マランゴニ対流におけるカオス・乱流とその遷移過程(Marangoni Exp/MEIS)」実験の概要やクルーの軌道上作業について確認しました。その他、多目的実験ラック(Multi-purpose Small Payload Rack: MSPR)の燃焼実験チャンバーの周辺機器の扱いに関わる訓練も行いました。
- 星出彰彦宇宙飛行士
- JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在
若田、野口両宇宙飛行士のロシアでの訓練
オーラン宇宙服の説明を受ける若田(中央)、野口(右)両宇宙飛行士(出典:JAXA/GCTC)
国際宇宙ステーション(ISS)の第38次/第39次長期滞在クルーである若田宇宙飛行士は、ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)にて、ロシアの船外活動や、2010年10月に初飛行した新型のソユーズTMA-M宇宙船、ISSのロシアモジュールに関わる訓練を行いました。
ロシアの船外活動に関わる訓練には、野口宇宙飛行士も参加し、オーラン宇宙服の装備品やセットアップ方法を確認したほか、船外活動の出入り口となるエアロックのシステムについて訓練を行いました。また、船外活動の模擬訓練も行われ、訓練用のオーラン宇宙服を着用し、実際の船外活動と同様に宇宙服内を0.4気圧に調整した状態で、エアロックの基本的な操作などについて訓練を行いました。
若田宇宙飛行士はその他にも、ソユーズTMA-M宇宙船の制御システムや推進システム、ドッキングシステムなどについて、講義やシミュレータを使用した訓練を通して学びました。ロシアモジュールについては、熱制御システム、電力供給システム、環境制御システムなどに関わる知識の維持・向上訓練を行ったほか、生活にかかせない給水装置やフードウォーマーなどの調理設備、ロシアのトイレシステムの使い方を確認しました。
- 若田光一宇宙飛行士
- JAXA宇宙飛行士によるISS長期滞在
向井、若田、野口宇宙飛行士が第24回世界宇宙飛行士会議へ出席
向井、若田、野口宇宙飛行士は、ロシアのモスクワで9月5日から9日にかけて開催された「第24回世界宇宙飛行士会議」に出席しました。
第24回世界宇宙飛行士会議は、世界19カ国から73名の宇宙飛行士が参加し、ユーリ・ガガーリン宇宙飛行士による初の有人宇宙飛行から50周年を記念して“He Invited Us All to Space”をテーマに行われました。
“In the Footsteps of Gagarin”(ガガーリンの足跡)と題したセッションでは、ロシアの初期の宇宙計画やNASAのアポロ計画、後の国際協力に多大な影響を与えた1975年のアポロ-ソユーズのドッキングミッションなど、初期の有人宇宙計画を振り返りました。また、国際協力の下進めている国際宇宙ステーション(ISS)計画がこれまでにもたらした恩恵や、今年で引退したスペースシャトルの功績についても話題に上がりました。
宇宙からの観測により、天候による自然災害について考えるセッションにおいて、向井宇宙飛行士は、日本の人工衛星で取得したデータの有効性について紹介するとともに、日本の人工衛星の観測技術は、世界レベルにおいても地球観測や環境モニタリングに有効であることを述べました。
"International Space Programs Review"(国際宇宙開発プログラムのレビュー)をテーマにしたセッションにおいては、各国の宇宙機関の宇宙探査への貢献について発表が行われました。この場で若田宇宙飛行士は、ISSへの貢献や宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の活躍、回収機能付加型HTV(HTV-R)の構想などについて語りました。また、日本の人工衛星の技術にも触れ、日本のリモートセンシング技術は、東日本大震災で経験した津波被害のような自然災害が起きた際に、被害状況の把握や被害の拡大を防ぐために役立てることができることを述べました。
会議の最終日では、世界宇宙飛行士会議の理事も務める野口宇宙飛行士が、アジア地域における世界宇宙飛行士会議の活動の活発化を提案し、参加したメンバーに受け入れられました。
向井宇宙飛行士が健康増進イベントに出演
会場からの質問に答える向井宇宙飛行士(出典:JAXA)
9月14日に筑波宇宙センター(TKSC)で開催した古川宇宙飛行士との交信イベント、「【重力とともに生きる】~宇宙飛行士との対話を通して健康について考える~」に、向井宇宙飛行士が参加しました。
このイベントは、宇宙飛行士が行うトレーニングや食事管理など、国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在による医学的な知見を、高齢者の健康増進や転倒による寝たきりの予防に役立ててもらうことを目的に開催しました。
向井宇宙飛行士は、古川宇宙飛行士との交信において司会進行を務めたほか、交信イベント後には、参加した介護や健康増進に関わる各団体と質疑応答を行い、宇宙という特有の環境に影響されて起こる医学的な現象など、宇宙医学の研究を通して得られた知見を交えながら会場からの質問に答えました。
- 【重力とともに生きる】~宇宙飛行士との対話を通して健康について考える~古川宇宙飛行士との交信イベント開催レポート
≫JAXA宇宙飛行士活動レポートの一覧へ戻る
イタリアのサルディニア島で行われた訓練に参加してきました。6日間の探査ミッションでは、人の踏み入れたことのない洞窟を探査して地図を作成するとともに、地質学サンプルの採取や、気温・湿度・風力や風向の計測など、さまざまな科学的データを入手することができました。
毎日の会話は、英語だけでなく、イタリア語やロシア語、そして日本語の単語が飛びかい、国際色豊かな訓練となりました。
訓練を終え暗黒の洞窟から出たときには、太陽のまぶしさと、樹木や空気の強い香りに圧倒され、まるで別世界から地上に戻ったような不思議な感覚がありました。