JAXA宇宙飛行士活動レポート 2010年10月
最終更新日:2010年11月30日
JAXA宇宙飛行士の2010年10月の活動状況についてご紹介します。
宇宙飛行士候補者訓練
油井、大西、金井宇宙飛行士候補者は、NASAジョンソン宇宙センター(JSC)を拠点として、国際宇宙ステーション(ISS)のシステムに関わる訓練や、T-38ジェット練習機での飛行訓練、語学訓練を継続しています。
10月下旬には、施設現地研修の一環で、他の宇宙飛行士候補者(AStronaut CANdidate: ASCAN)メンバーとともに、筑波宇宙センター(TKSC)を訪れました。
TKSCでは、「きぼう」日本実験棟や宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)に関わる講義が中心に行われ、ASCANメンバーは「きぼう」のシステム機器や実験装置、「こうのとり」の構成などについて理解を深めました。
講義の他に、シミュレータを用いて、「きぼう」ロボットアームを操作して船外実験プラットフォームの実験装置を移設する作業や、船内実験室からエアロックを通して実験装置を船外に搬出する作業の実技も行いました。
また、油井、大西、金井宇宙飛行士候補者以外のASCANメンバーは、初めてJAXAを訪れたということもあり、ASCANメンバーに対してJAXAの事業や今後の計画が紹介され、ISSにおける将来のJAXAの有人宇宙活動や、回収機能付宇宙ステーション補給機(H-II Transfer Vehicle-R: HTV-R)について活発に質問が寄せられました。また、ASCANメンバーは、「きぼう」運用管制室や、「きぼう」に関わる船外活動の手順開発および船外活動訓練に使用された直径16m、深さ10mの無重量環境試験棟のプール、宇宙飛行士の選抜試験にも使用された閉鎖環境施設などを見学して回りました。
船内実験室のモックアップ(実物大の訓練施設)内で、機器の位置を確認する油井宇宙飛行士候補者ら(出典:JAXA)
シミュレータを使用したロボットアーム操作訓練を行う大西宇宙飛行士候補者ら(出典:JAXA)
エアロックトレーナを使用して運用方法を確認する金井宇宙飛行士候補者ら(出典:JAXA)
古川宇宙飛行士のESAでのISS長期滞在に向けた訓練
実験ラックの操作について訓練を行う古川宇宙飛行士(出典:JAXA/ESA)
国際宇宙ステーション(ISS)の第28次/第29次長期滞在クルーである古川宇宙飛行士は、ドイツのケルンにある欧州宇宙機関(ESA)の欧州宇宙飛行士センター(European Astronaut Centre: EAC)にて、「コロンバス」(欧州実験棟)と欧州補給機(Automated Transfer Vehicle: ATV)の運用に関わる訓練を行いました。
コロンバスでの実験に関わる訓練では、流体科学実験ラック(Fluid Science Laboratory: FSL)の実験コンテナの交換方法や、さまざまな分野の科学実験装置をフレキシブルに収容する実験装置収納設備である欧州引出しラック(European Drawer Rack: EDR)のシステム概要や運用方法について学んだほか、地球の液体コアの熱対流をシミュレーションするGeoflow実験に関わる訓練などを行いました。
ATVについては、緊急事態発生時の対応手順や物資の移送作業の概要を確認し、モックアップ(実物大の訓練施設)を使用して実際の運用を模擬した訓練を行いました。
そのほか、ISS内の機器の精密な配置図を作成するためにESAが開発した3Dカメラの操作方法について、訓練を行いました。
星出宇宙飛行士のロシアでのISS長期滞在に向けた訓練
生命維持システムの一部である火災検知・消火システムの実技訓練の様子(出典:JAXA/GCTC)
国際宇宙ステーションの第32次/第33次長期滞在クルーである星出宇宙飛行士は、9月下旬から10月中旬にかけて、ロシアのガガーリン宇宙飛行士訓練センター(Gagarin Cosmonaut Training Center: GCTC)にて、ISS長期滞在に向けて、ISSのロシアモジュールとソユーズ宇宙船に関わる訓練を行いました。
ロシアモジュールに関わる訓練では、「ズヴェズダ」(ロシアのサービスモジュール)のシステム設計や構成、ロシアモジュール全体の制御を行うデータ制御システム、ISSの姿勢制御および軌道制御を行うシステム、クルーが滞在するための環境を提供する生命維持システムのほか、熱制御システム、電力システムなどについて、講義やシミュレータを使用した訓練を通して学びました。
第23回世界宇宙飛行士会議
向井宇宙飛行士と野口宇宙飛行士は、10月5日から10日までマレーシアのクアラルンプールで開催された「第23回世界宇宙飛行士会議」に出席しました。
“1 Planet(惑星), 1 Hope(希望), 1 Future(未来)”をテーマに、世界18カ国58人の宇宙飛行士が参加したこの会議で、向井宇宙飛行士は、会議テーマセッションにおいて「グローバルアイデンティティへの道としての宇宙・探査」に関するパネルディスカッションにパネリストとして参加し、技術セッションの「気候の変動と、人間福祉への影響」に関するパネルディスカッションでは自ら議長を務めました。また、このパネルディスカッションの結果を、マレーシア会議の飛行士決議文としてまとめました。
- マレーシア会議の飛行士決議文(英語)
ベスト・プレゼンテーション・アワードを受賞する野口宇宙飛行士(出典:JAXA)
一方、野口宇宙飛行士は、「きぼう」日本実験棟と宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の運用に焦点を当てて、2009年から2010年のJAXAの活動概要を報告するとともに、日本の将来の有人宇宙活動に関するプレゼンテーションを行いました。野口宇宙飛行士によるこのプレゼンテーションは高く評価され、日本人として初めて、“ベスト・プレゼンテーション・アワード”を受賞しました。また、野口宇宙飛行士は、新たに、宇宙探検家協会(Association of Space Explorers: ASE)の常任理事に就任し、会議期間中に開催された授与式にて、記章のピンを受領しました。
平成22年度「宇宙の日」 筑波宇宙センター特別公開
講演の様子(出典:JAXA)
「宇宙の日」を記念して10月16日に開催された筑波宇宙センター特別公開に、ヒューストンから古川宇宙飛行士が生中継で参加し、「宇宙ステーション長期滞在に向けて」と題した講演を行いました。
講演では、国際宇宙ステーション(ISS)長期滞在や、打上げ・帰還時に搭乗するソユーズ宇宙船の概要のほか、滞在中に行う実験や、現在滞在に向けて実施している訓練について紹介しました。
また、医師の視点から、ISSで行われている健康管理について紹介し、他のクルーが怪我などをした場合には、古川宇宙飛行士が手当てすることもあり、そういった場合に備えて他のクルーとともに医学訓練を実施していることも紹介しました。
講演の最後に、会場からの質問コーナーが設けられ、長期滞在が人の身体にあたえる影響や、宇宙と地上での植物の育ち方の違いなど、さまざまな質問が寄せられました。
ベトナムでの公式飛行記念品返還
VASTでの公式飛行記念品返還の様子(出典:JAXA)
野口宇宙飛行士は、ベトナム科学技術院(VAST)を訪れ、VASTから公式飛行記念品として提供されていた“ベトナムと日本の国旗およびVASTとJAXAのロゴをあしらった旗”を返還しました。公式飛行記念品は、宇宙飛行士に関係する機関の記念品で、野口宇宙飛行士の滞在期間中、国際宇宙ステーション(ISS)に持ち込まれて宇宙を飛行したものです。
また、ベトナムハノイ国家大学を訪れ、航空宇宙技術学科においてISS長期滞在ミッションを紹介する講演を行ったほか、日本語学科において、日本語を学ぶ大学生との交流も行いました。
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