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宇宙実験サクッと解説:フリーズドライ細胞実験編
〜宇宙でも人類は種を保存できるか〜


宇宙実験調査団のピカルがSpace Pup実験を大調査!
実験提案者の若山先生とも仲良しの物知りハカセに聞きました。

物知りハカセ

ピカル

ピカル:

最近、また次々に生物系の実験が行われているみたいですね。大阪市立大学の森田先生のStem Cells実験のES細胞は、無事に国際宇宙ステーションに運ばれて「きぼう」日本実験棟の冷凍庫に収納されたと聞きました。

ハカセ:

うむ。2013年3月から実験が開始されておる。今度は森田先生の実験とよく似ている保存実験の、Space Pup実験じゃ。Space Pupはネズミの生殖細胞、精子を使った実験じゃ。しかもフリーズドライの精子がいよいよ宇宙へと運ばれようとしておる。

ピカル:

フリーズドライというと、乾燥スープみたいなもの?

ハカセ:

さよう。凍らせてから真空にして、さらに乾燥させるから長持ちするのじゃ。若山先生はこの方法で凍結乾燥させた精子をネズミの卵細胞に注入して、ネズミの子供を産ませることに成功したのじゃ。

ピカル:

えっ、いちど乾燥させた精子からネズミの子供ができるんですか?

ハカセ:

いかにも。ところでピカルは昨日焼肉を食べたと言っておったが、牛肉なども有名な産地の肉牛ではおいしい親の遺伝子を受け継ぐように、精子が大切に保管されているのじゃ。精子を冷凍保存して、卵細胞と人工受精させ、家畜のおなかに戻してやると、計画的に品質のよい家畜の子孫が得られるというわけじゃ。

ピカル:

なるほど、冷凍保存の精子って世の中の役に立っているわけですね。でも、それとフリーズドライとどういう関係があるんですか?

ハカセ:

通常、家畜の精子は液体窒素の中に保存しておく。液体窒素は-196℃で、低温で液体になっているが、どんどん蒸発していくので精子を凍結状態に保つにために、いつも注ぎ足してやる必要がある。それは手間がかかるし大変気を使うのじゃ。電気で冷やす冷凍庫を使えば液体窒素を補給する必要はなくなるから手軽に保存できるが、普通の冷凍庫で達成できるくらいの温度で長く置いておくのは難しいのじゃ。

ピカル:

確かStem Cellsでも冷凍には苦労したって勉強しました。

ハカセ:

うむ、Space Pup実験では、精子をフリーズドライすることで、温度が上がってもダメにならない方法を確立したのじゃ。1か月くらいなら、普通の温度においても大丈夫だし、もっと長い期間ならマイナス80℃以下の冷凍庫に入れておけば理論的には半永久的に大丈夫じゃ。
精子は、父親由来のDNA(デオキシリボ核酸)で出来ていて、母親由来の卵細胞と同じく遺伝情報を子供に伝えるためのひとそろえのセットを持っておることは知っておるな?

ピカル:

はい、精子と卵細胞が受精して、受精卵になるんですよね。

ハカセ:

そうじゃな。で、今回の実験では、フリーズドライ精子を宇宙ステーションに最大で2年間保管して、地上に戻ってきたらネズミの卵細胞に注入してやる。マイクロインジェクションという難しい技術を使って、人工授精してやるのじゃよ。受精卵をネズミのおなかに戻してやると、宇宙を経験した精子から子供のネズミが生まれる、というわけじゃ。

ピカル:

えーっ!宇宙を2年体験した精子で子ネズミ!


宇宙実験で使用する機材。<写真1>凍結乾燥精子を入れるガラスのアンプル、<写真2>ガラスのアンプルを保護テープで覆った様子、<写真3>収納ケース、<写真4>収納ケースの中身。1ケースにアンプルが48本入っています。収納ケースの大きさは8cm立方。コンパクトに収納しました。

ハカセ:

実は、若山先生は、16年間凍結状態にしておいたネズミの細胞から取り出したDNAを使って、そのネズミの遺伝情報を受け継ぐ子ネズミを誕生させることに成功したのじゃ。だから、今回の実験もうまくいくはずじゃよ。

ピカル:

でもハカセ、なんで宇宙にフリーズドライ精子を持っていくんですか? 放射線の影響を調べるためですか?

ハカセ:

もちろん、精子や受精・発生への宇宙放射線の影響も調べる予定じゃ。しかし、もう一つの目的は、ノアの方舟(はこぶね)計画なんじゃよ。

ピカル:

ノアの方舟?大洪水のときに、たくさんの種類の動物を乗せたっていう方舟の伝説のこと?

ハカセ:

長期間保存できる状態の精子を、宇宙に保存することができたら、万が一、地球に大災害があって種(しゅ)が滅びるようなことがあっても遺伝情報だけは生き延びることが可能かもしれないじゃろう。

ピカル:

なんか急にSFチックになってきましたが・・・。

ハカセ:

今回は宇宙ステーションでの保存だが、将来的には月や火星に保管場所を作って、安定的に保管しておく場所にすることも夢ではないかもしれんのう。

ピカル:

ほんとに夢みたいな話ですね。

ハカセ:

うむ。すべての科学は夢から始まり、実現につながる。そんな無茶なという発想が、常識をくつがえすような発見へとつながるのじゃ。このSpace Pup実験は、遺伝子の保存場所を宇宙へ、というとても面白い側面をもつ研究なのじゃ。もちろん、保管中に浴びるであろう宇宙放射線の影響もきっちり調べるがね。

ピカル:

これで、ネズミの精子への宇宙の影響がわかると、僕たちが宇宙に行って、そこで子孫を残すことができるかどうかの研究にもつながりそうですね。万が一に備えて、いろいろな生物の遺伝子を宇宙で保存しておくっていうのも、僕たち人類が考えておくべきことなのかもしれませんね。
ところでPupというのはどういう意味なんですか?

ハカセ:

Pupとは子の意味じゃ。Space Pupで宇宙の子、じゃな。将来を見据えた実験的な研究じゃ。

ピカル:

かっこいいです! ハカセ、今日はどうもありがとうございました。


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