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宇宙実験サクッと解説:LOH編


宇宙実験調査団のピカルが宇宙放射線実験を大調査!

実験提案者の谷田貝先生に疑問をぶつけてみました。

谷田貝先生

ピカル

ピカル:

すごく基本的なことからお聞きしますが、LOHって何のことですか?

谷田貝先生:

LOHとは、Loss of Heterozygosityという3つの単語の頭文字をとって略語にしたもので、染色体のヘテロ接合性(Heterozygosity)の喪失(Loss)を意味します。

ピカル:

染色体のヘテロ接合性? 喪失? ちんぷんかんぷんです。 わかりやすく教えてください。

谷田貝先生:

はい。 ヒトの細胞には46本の染色体があります。 23種類の染色体が2つずつあるんですよ。

ピカル:

へえ〜、そうなんですか。

谷田貝先生:

そして、1本1本の染色体には、いっぱい遺伝子が詰まっています。 ちょっと難しくいうと、遺伝子が「コード」されています。 ふつう、ひとつの遺伝子は対になっている2本の染色体にそれぞれ入っています。 これを対立遺伝子と言って、片方の遺伝子が正常に機能しなくなっても、もう一方で補う仕組みになっています。

ピカル:

ひとつがだめになっても、もうひとつ同じのがあるから大丈夫ってことですね。 それで、染色体のヘテロ接合性ってなんなんですか?

谷田貝先生:

はい。 今、お話ししたように、ある特定の遺伝子が片方の染色体では正常で、もう一方では異常になっている場合に、細胞が特定の遺伝子で「ヘテロ接合性を示す」(略してヘテロ、「異なる」という意味)という言い方をします。 今回の実験には、17番目の染色体にあるチミジンキナーゼ(TK)という酵素の遺伝子がヘテロになっている、ヒトのリンパ球由来の細胞を使うことにしました。 この細胞では、下の図のように、片方のTK遺伝子がだめになっているわけです。(変異型TK-)


染色体17番上のチミジンキナーゼ(TK)遺伝子

ピカル:

片方がだめなものを「ヘテロ」というわけですね。 で、今回はTK遺伝子がヘテロになっている細胞を使って実験する・・・と。(メモを取る)
それではヘテロ(接合性)の喪失(LOH)とはいったい何なんですか? だめじゃなくなるってことですか?

谷田貝先生:

そういうこともありますが、両方ともだめになることもあります。 わたしはこの「両方ともだめになる」ことに注目したのです。 さて、たくさんのヘテロな状態の細胞を培養して増やしていくとしましょう。 たくさんの細胞、そうですね、百万個と大ざっぱに考えてみましょうか。 これほどたくさんの細胞を扱う場合、ふつうに培養していても、自然にヘテロな状態ではなくなった細胞(両方ともだめになった細胞)がほんの数個、現れてきます。つまり、ヘテロ(接合性)の喪失(LOH)というわけですね。 実はこのわずかな現れがとても大事で意味のあることをあとで説明します。

ピカル:

先生、どうして両方ともだめになった、つまりヘテロではなくなったとわかるのですか。

谷田貝先生:

両方ともだめになった細胞だけ生き残れるような特別な試薬を使っているからなんです。 下の図のように、生きている細胞だけが黄色くなって検出できるんです。


ピカル:

へえ〜、面白そうですね。 ところで先生、LOHが検出できるということに、どんな意味があるんでしょうか?

谷田貝先生:

いよいよ問題の核心にせまってきましたね。 少しもったいぶってしまいましたが、LOHをわかってもらわないと話が先に進まなかったんです。 LOHが検出できると、遺伝子がだめになったということがわかります。 だめになる理由についてはいろいろ調べることができますし、その証拠を押さえることで、「どんなときにだめになるか」を調べることができ、病気の予防なんかにもとても役立つわけです。

ピカル:

なるほど、そういうことですか! でも、どうしてわざわざ宇宙で実験するんですか?

谷田貝先生:

宇宙ではご存知のように、放射線がたくさん降り注いでいます。 この放射線が遺伝子にどのような影響を及ぼすかを調べたいのです。

ピカル:

え〜っ、本当に宇宙放射線の影響を検出できるんですか?

谷田貝先生:

そうなんです。 さっき言ったように、百万個といったたくさんの細胞を培養する場合であっても、自然にLOHになる細胞は非常に少ない。 だから、ごくわずかの放射線にさらされても、放射線の影響でLOHを起こす細胞が現われてきたら、先ほどの図の方法ですぐに検出できるんですよ。 私たちの実験室で、それを証明したんです。

ピカル:

すごいですね〜! でも、百万個なんて、そんなにたくさんの細胞を宇宙に持っていけるのですか?

谷田貝先生:

細胞の大きさは数十ミクロンなので、細胞を増やして培養液1ml中百万個くらいの濃度にすることは簡単にできるんです。 でも、サンプルを持っていってから持って帰るまでの期間が、何ヶ月もあるんですよ。スペースシャトルでないと運べないからですけどね。 培養液中で何ヶ月も細胞が生きたままにすることは無理ですよね。 そこで、今回はヒトの血液の細胞で、人工的に培養できるようになったリンパ球を凍結して持っていくことにしました。

ピカル:

実験のときまで凍らせておいて、帰ってくる直前に実験するわけですね。

谷田貝先生:

そのとおりです。 もうひとつ実験のポイントがあります。 ここが世界で初めてというところです。 国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の中に設置した細胞培養装置を利用して、地上と類似の重力環境下(〜1g)と微小重力環境下の両方で1週間程度培養してから、再び凍結して地上にもって帰ってくる計画です。

ピカル:

放射線だけではなく、重力の影響もあるかどうか調べるわけですね。 なるほど、それはすごいですね。 なんだかわくわくしてきました。

谷田貝先生:

ありがとうございます! でも、計画通り培養できるかどうか、とても心配です。 凍結した細胞は日本時間の2008年11月15日にエンデバー号で打ち上げられましたが、およそ3か月間国際宇宙ステーションに凍った状態で保管されます。 細胞を溶かしてからの1週間の培養実験は、今のところ2009年2月初めの予定です。 皆さんも、予定通りに細胞の培養実験が進むことを祈っていてください。

ピカル:

期待しています! ところで、この宇宙でのLOH実験の成果は、私たちの生活に何か関係があるのでしょうか?

谷田貝先生:

一番、肝心な質問ですね。 宇宙放射線の生物影響を調べることは、宇宙飛行士の皆さんはもとより、私たち人間が宇宙で生活するようになった時の健康への影響を推測できるだけでなく、生物の放射線に対する応答の仕組みを解明して、そこから放射線防護や予防につなげていく上でとても大事なデータになります。 ただし、この実験ですべてがわかるわけではありません。 放射線の被ばく線量を正確に測定することから始まって、いろいろな細胞や小動物を使って、さまざまな実験条件で生物実験をするなどの工夫が必要になってきます。

ピカル:

なるほど〜。他にも何かありますか?

谷田貝先生:

はい。 宇宙放射線の影響を調べるための実験であることを強調しましたが、今回は微小重力の状態と1gの状態で培養することから、微小重力下での放射線の影響だけでなく、重力と放射線には相乗効果があるのかどうかを浮き彫りにできるのではと期待しています。 お話ししたいことはもっとたくさんあるのですが、今日はこれくらいにしておきましょうか。


ピカル:

はい。 お話をうかがって宇宙実験の大切さがわかったような気がします。 先生、今日はどうもありがとうございました!


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