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2.9 SFU搭載実験機器部(EFFU)の成果概要

 SFU搭載実験機器部(EFFU)は、日本が参加する国際宇宙ステーション計画の中の「きぼう」日本実験棟の構成要素である船外実験プラットフォームの部分モデルである。図2.9-1に主要構成を示す。


図2.9-1 EFFU主要構成

 EFFUでは以下の4テーマについて実験を行い、きぼう船外実験プラットフォーム開発のための先行技術確認を行うことができた。

 また、フライト前後での特性に大きな変化はなく、EFFUとして打ち上げ〜回収までの耐環境性があることが確認された。

(1)流体ループ熱制御系実験

 流体ループ熱制御システムは、ポンプにより循環させた冷媒に実験機器等から発生した熱をコールドプレートを介して吸熱させ、ラジエータから放熱することで熱制御を行う方式である。

 軌道上実測温度は、熱数学モデルによる予測温度とよく一致したことにより、流体ループ熱制御系の設計、解析手法の妥当性が確認されるとともに、コールドプレート、ポンプ等の搭載コンポーネントの設計が妥当であることが確認された。

 同様に熱制御系の設計を行うJEMに対して、EFFUの設計・解析手法が適用可能であることが確認された。

(2)装置交換機構実験

 きぼう船外実験プラットフォームでは、実験ペイロードを結合するために装置交換機構(EEU)を有している。EEUは、船外実験プラットフォームの実験ペイロードと船外実験プラットフォームとの機械的結合/分離機能を有し、電気、流体等のインタフェースを受け持つ。その機構としてトグルリンク式ラッチ機構を採用している。実験用EEUの長期真空環境下における各摺動部の機能、耐久性を評価するため、結合荷重伝達メカニズム、精調芯機構、摺動部の固体潤滑方法等をきぼうEEUとほぼ等価としたEEUを用い、きぼうEEUの軌道上運用の要求回数50回を越える55回の分離/結合を繰り返し、機能性能データおよび潤滑性能等のデータを取得した。その結果EEUの設計手法が妥当であり、きぼうに適用できることが確認された。

(3)微小重力(μ−g)環境特性実験

 きぼう船外実験プラットフォームにおいて実験装置作動時等のμ−g環境の設計データを取得すること等を目的とし、実験装置近傍、SFUとのインタフェース部、EFFUの加振源であるポンプ近傍、の3カ所にμ−gセンサを取付け、微小重力計測を実施した。計測された加速度は、今回搭載したダイアモンド気相成長基礎実験を行う要求条件に対して十分に小さかった。また、今回実施した微小重力環境を予測する解析方法は、きぼう船外実験プラットフォームでの微小重力環境の予測に活用していく。

(4)材料曝露実験

 きぼう等で使用予定の材料の軌道上環境による変化、劣化データを取得し、きぼう等への適用評価を行った。材料サンプルは、紫外線による変化を評価するために常に太陽光が照射するラジエータ上面(SFU座標の−X面)と、ほとんど照射しない側面(SFU座標の+Z面)とに取り付けられた。

 また、地球低軌道上で材料の変化、劣化に与える影響が大きいと考えられている原子状酸素、紫外線、放射線の累積照射量の計測も併せて実施した。

 材料サンプルの評価の結果、きぼうでの使用を予定している材料について熱制御材の劣化特性、潤滑剤の寿命特性などの有用なデータを取得した。図2.9-2にテフロン(βクロス)断面TEM観察写真を示すように、軌道上で原子状酸素の影響を受けテフロン層が浸食されガラス繊維の露出が観察された。


図2.9-2 テフロン(βクロス)断面TEM観察

 以上の結果から、EFFUの実験成果によりきぼう船外実験プラットフォームの設計および解析の手法の妥当性が確認され、きぼう船外実験プラットフォームの先行モデルとしての役割を十分に果たしたとの評価ができる。


2.10 EFFU−気相成長基礎実験(GDEF)

1. 実験概要

 将来の高機能電子材料として期待されているダイヤモンド薄膜の化学気相成長(Chemical Vapor Deposition; CVD)を実験テーマとして、宇宙での気相成長に関する実験技術の修得や、熱対流の抑制による結晶成長条件の安定化等、CVD実験に対する微小重力環境の有効性の評価を目的に、気相成長基礎実験装置(Gas Dynamics Experiment Facility;GDEF)を開発し、同装置により、プラズマ観察実験およびダイヤモンド薄膜の成長実験の2種類の実験を行った。

2. 結果の概要

 GDEFは所定の軌道上実験を正常に実施し、プラズマ分光スペクトル、プラズマ発光画像、ダイヤモンド薄膜試料、各種温度データ等、実験の評価に必要な実験データおよび実験試料の取得を行うことができた。これにより、低電力プラズマCVD技術、ガス流量制御、プラズマのその場観察など、宇宙での気相成長に関する基礎的な技術の修得が行われたものと考えられる。

 現在までの実験の評価解析について、生成したダイヤモンド薄膜の一次評価として電子顕微鏡観察やラマン分光計測等を行い、ダイヤモンドの生成を確認した。また、プラズマの観察実験については、発光画像やスペクトルの解析を行っており、地上と軌道上でのプラズマの状態の変化が観察されている。現時点における実験成果の概要は次の通りである。

(1)プラズマ観察実験

 微小重力環境では、温度差に起因する熱対流が抑制され、熱および物質輸送条件などが地上のそれとは異なり、プラズマの状態が変化することが予想される。本実験では、種々の実験条件において水素・メタン混合ガスのプラズマからの発光スペクトルを計測し、直流放電プラズマCVDにおけるプラズマの状態を比較した。

 水素原子のスペクトルの測定結果から、微小重力実験では地上実験と比較して、化学気相成長の反応に関与する励起状態にある原子状水素の絶対数が増加しているものと思われるが、プラズマの温度自体は微小重力下では低下する傾向にあると考えられることが分かった。

図2.10-1 軌道上実験におけるプラズマの発光画像


(2)ダイヤモンド成長実験

 ダイヤモンド薄膜の成長が確認され、その観察の結果、地上とは成長条件が大きく変化していることが分かった。6枚の基板の全てにダイヤモンドが形成できたことから、地上に比べて安定して合成が進んだ可能性がある。

 ダイヤモンド単結晶上のエピタキシャル成長では、双晶が成長しており、不完全ながらエピタキシャル成長も一部行われたものと考えられる。


図2.10-2 タンタル基板上に生成したダイヤモンドの走査電子顕微鏡写真

3. 今後の予定

 今後、ダイヤモンド薄膜の破壊検査などの詳細解析を行い、プラズマ観察実験の結果と合わせ、宇宙の微小重力環境がダイヤモンドの気相成長にどのような影響を及ぼしたかについて、詳細に解析する予定である。

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