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Q29 スペースシャトル内には、シャワーがない。無重力でシャワーをあびるのは、危険だからだ。なぜ危険なのだろうか? A29 水が体中をおおってしまい、顔に多量につくと呼吸できず、おぼれてしまうおそれがあるから。 下の写真は、毛利宇宙飛行士が、シャトル内で自分の手を水でぬらしたところだ。無重力だから、水はしたたり落ちない。皮膚に付着したまま、手全体に広がってくる。
このことは、人間の皮膚がいかに水でぬれやすいかを示している。無重力で汗をかくと、汗は皮膚についたままで流れ落ちない。出血しても、血は皮膚についたまま。涙が出ても目についたままなのである。 もし、水が顔にかかると、水は簡単には顔から離れないから、窒息するおそれがある。 宇宙を長期間飛行したスカイラブ宇宙船には、シャワーがあった。このときは、水泳用ゴーグルをかけ、鼻をクリップでつまみ、シャワーをあびている。それでもおぼれかかった宇宙飛行士がいたとか…!? なお、国際宇宙ステーションでは、宇宙飛行士が長期間(3ヵ月~6ヵ月)にわたって滞在するので、シャワーが用意される予定だ。
A30 飲んでしまう。はき出すときは、タオルやティッシュなどに向かってはき出す。タオルやティッシュを口に入れて水を吸い取ってもよい。 無重力でも、歯ブラシと練り歯みがきを使い、ふつうに歯をみがくことができる。問題は口をゆすいだあとの水の始末だ。 地上なら、洗面台に向かってはき出すところだが、スペースシャトル内に洗面台はない。単純にはき出すこともできない。はき出した水は、球になって空中を漂(ただよ)う。この水が機械の中に入ると、回路がショートして機械がこわれる可能性がある。 では、どうするか? そのまま飲み込んでしまう宇宙飛行士もいる。NASAでは、泡がたたず水でゆすがなくてもよい(そのまま食べられる)練り歯みがきも開発している。 向井宇宙飛行士は、練り歯みがきを食べたり、口をゆすいだあとの水を飲むことに抵抗があった。そこで、最初は、ゆすいだ水をタオルに向かってはき出していた。ただ、これはかなり難しいらしい。勢いが強ければ水は飛び散ってしまうし、勢いが弱ければタオルが吸い取ってくれない。どちらの場合も水は空中に漂ってしまう。 何度か繰り返すうちに、タオルを口に入れて水を吸い取ったほうが良いことに気がついた。口の中は水でぬれやすいから、水は簡単には口から出ないのである。 Q31 「宙がえり何度もできる無重力」。向井宇宙飛行士は2度目の飛行で短歌の上の句を詠み、下の句を募集した。これに対して14万通以上の応募があり、小中学生の部で最優秀賞となった作品は、「水のまりつきできたらいいな」。 さて、宇宙船内で「水のまりつき」はできるのだろうか? A31 できそうもない。 宇宙船内で「水のまりつき」をするのは難しそうだ。少なくとも「水のまり」を手でつくのはむり。「水のまり」と手が接触すると、水は手にくっつき広がってしまう(→Q29)。 では、もっとぬれにくいもので「水のまり」をついたら、どうなるだろう。たとえば金属ならどうか。 下の写真は、宇宙船内で「水球」に「金属球」を衝突させたときのようすだ。水は金属球にくっついてしまう。このことからも、「水のまり」がはねかえるとは考えにくい。
最優秀賞に輝いた小学校4年生は、担任の先生から「無重力では水がボールのように丸くなってフワフワ浮く」ことを聞き、この句を詠んだという。担任の先生は、「理屈で考えず、夢のような表現ができたのがよかったのでしょう」といっている。「できたらいいな」と夢を追うのも大切なことだ。 なお、最優秀賞一般の部は、68歳の方の「湯船でくるりわが子の宇宙」。愛情が感じられる一句だ。 向井宇宙飛行士自身も、「着地できないこのもどかしさ」という句を披露した。無重力での体験がにじみ出ている。 Q32 下の写真は、無重力で作られたプラスチックの粒である。この粒は、地上で作られた粒に比べて、どこがすぐれているのだろうか? A32 球の形に歪み(ゆがみ)がなく、大きさがそろっている。 歪みのない球をつくる実験は、昔から行われていた。イギリスのワッツは、鉛の弾丸をつくるために、高いところから溶けた鉛を落とす方法を考案し、1972年、特許を取った。落下している最中は無重力なので、溶けた鉛は「表面張力」の影響で球状になり、そのまま冷えて固まる。ただし、地上では空気抵抗があるため、落下している最中に形が歪む。また、大きさもそろわない。特に直径が数ミクロン以上の大きな球になると、作るのは難しくなる。 宇宙船内は無重力だから、落下させる必要がなく、歪みのない球ができる。このことを利用して、1982年から1984年にかけてスペースシャトル内でプラスチックの球を作る実験が行われた。このときは、溶けたプラスチックを空中に浮かせて固めるのではなく、水溶液中でプラスチックの球を成長させる方法がとられた。 1980年代に、NBS(National Bureau of Standards、アメリカ規格標準局)は、直径が10ミクロンのプラスチックの粒を売り出した。宇宙で作られた商品が、はじめて市場に出たのである。売り出された球は、顕微鏡でしか見えない小さなものをはかる「ミクロのものさし」として利用されている。 Q33 光通信や各種レーザー機器に必要な純度の高いガラスを、無重力を利用してつくる実験がすすめられている。不純物が入るのを防ぐためだが、なぜ無重力を利用するのだろうか? A33 空中に浮かして溶かせば、容器が不必要で、容器から不純物が混ざらないから。 地上でガラスをつくるには、材料の物質を混ぜた後、それをルツボと呼ばれる容器に入れ、ルツボごと加熱して溶かし、冷やして固める。 地上でのガラスの作り方 高温でガラスの材料を溶かしているとき、ルツボをつくっている物質が、ごくわずかだがガラスの材料に混ざってしまう。容器から不純物が入るのだ。 容器のルツボから不純物が入るなら、容器を使わなければよい。つまり、材料を空中に浮かせたまま、周囲から加熱して溶かせばよい。まさに無重力ならではの製造方法だ。 1992年、毛利宇宙飛行士が乗った「エンデバー号」における、日本の宇宙材料実験「ふわっと '92」では、容器なしで材料を直接溶かす方法に世界で初めて挑戦し、無色透明なガラスをつくることに成功した(右下の写真)。
最終更新日:2000年 3月 9日
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