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ISSと「きぼう」

セントリフュージ開発に向けての無重量実験


国際宇宙ステーション(ISS)では、各国が知恵を出し合って、人類の未来に役立ついろいろな研究が行われます。現在、各国でさまざまな実験施設が建設されていますが、その中でISSにおける生命科学実験の中核となるのが「セントリフュージ」(注1)と呼ばれる生命科学実験施設です。

「セントリフュージ」は、無重量環境が生物に与える影響を科学的に調べるために用いられ、生物実験用の生命科学グローブボックス(LSG:Life Sciences Glovebox)、遠心力を利用した重力発生装置(CR:Centrifuge Rotor)、そしてこれらを搭載する重力発生装置搭載モジュール(CAM:Centrifuge Accommodation Module)から構成され、NASAのスペースシャトルによる「きぼう」日本実験棟の打上げ費用の代替として、現在日本が開発を行っています。

* 2005年9月にNASAのISS計画見直しの一環としてセントリフュージは打ち上げないことになり、開発は中止しました。

セントリフュージ(生命科学実験施設)の概観図

画像:セントリフュージ(生命科学実験施設)の概観図

LSGの設計を実際の無重量状態で検証

写真1. 生命科学グローブボックス(LSG)のモックアップモデル

LSGとは、日本がNASAと共同で開発中の「セントリフュージ」に搭載される生物科学実験のための実験装置です(写真1)。LSGでは、生物の解剖並びに顕微鏡による観察、薬の投与、さらには実験が終了した後のLSG内部の清掃など、さまざまな作業が行われ、いったん軌道上での実験が始まると、宇宙飛行士はかなりの時間をこのLSGでの作業に費やすことになります。

これまで、スペースシャトル上でもさまざまな生物科学実験が行われてきましたが、実験に関わった宇宙飛行士の多くは、腕や肩などの疲労感を訴えています。これは、これまで使われてきたグローブボックスが、無重量状態での宇宙飛行士の作業姿勢にうまく合っていなかったためと考えられます。

水中で力を抜いて浮かんでいる状態と同じように、宇宙では、地上とは違った姿勢が宇宙飛行士にとっての自然な体位となります。そのため、グローブの位置や窓の傾きといったLSGの設計は、無重量での姿勢に合わせてデザインしないと、宇宙飛行士の身体に負担がかかることになるのです。

LSGは、コンピューターシミュレーションを駆使して、無重量環境での宇宙飛行士の自然姿勢に適合するようデザインしてきましたが、そのデザインを地上試験で完全に検証することは不可能です。そのため、今回、実際の微小重力下で宇宙飛行士がLSGをうまく使えるかどうかを確かめるため、航空機による微小重力実験を行いました。

120回もの微小重力実験を実施

ISSに搭載された「セントリフュージ」予想図

無重量を得るには落下塔のような方法がありますが、人間が参加できる微小重力実験は、スペースシャトルなどによる宇宙飛行を除けば、今回行った航空機による微小重力実験だけです。

日本では名古屋にあるダイヤモンドエアサービス社が航空機による微小重力実験を提供していますが、今回はNASAとの共同実験であったため、NASA所有のKC-135と呼ばれるジェット機(ボーイング707の同型機)を使い、それにLSGの実物大の模型を積み込んで実験が行われました。

期間は平成11年6月8日から10日までの3日間、NASAジョンソン宇宙センターに隣接するエリントン飛行場で実験を行いました。ここは宇宙飛行士がみずからT-38と呼ばれるジェット機を操って、離発着を行うところでもあります。

KC-135は、放物線軌道を描いて約70秒間の飛行を行い、その間20~30秒間の無重量環境を得ることができます。欠点は、時間が短いことと、無重量の前後に約1.8Gの過重力がかかる点です。

今回は、1日に40回ほどの放物線飛行を行い、それを3日間、計120回の無重量飛行を行いました。KC-135の離陸から着陸までの時間は、およそ2時間でした。

はじめて実験に参加する人の中には、この重力の変化だけでまいってしまう人もいて、KC-135は別名“Vomit Comet”(直訳すると「嘔吐彗星」)と呼ばれています。今回もカリフォルニア大学からわれわれの実験に参加したひとりが、あらかじめ与えられていたプラスチックバッグを口にあてる間もなく無重量のときに空中に嘔吐してしまい、嘔吐物が宙に浮くというハプニングが起こってしまいました。

「人に優しいデザイン」が認められました

写真 2.KC-135に組み込まれるLSG
写真 3. KC-135内の無重量環境下でのNASA宇宙飛行士による作業性試験

今回の実験では、合計4人のNASA宇宙飛行士が参加して、グローブの位置は適切か、体に負担のかかるデザインになっていないか、宇宙飛行士の身体支持装置( 注2)と適合しているかなどの項目について、LSGの操作性を検証しました(写真3)。

結果は大成功で、無重量下で実験を行うにあたり、LSGは宇宙飛行士に不必要な負担をかけない「人に優しいデザイン」に仕上がりつつあることが検証されました。

今回の実験は、NASDAをはじめ、石川島播磨重工業、カリフォルニア大学、NASAエイムズ研究センター、NASAジョンソン宇宙センターと、たくさんの組織の協力のもとで行われました。日本と米国の研究者が力をあわせて共同作業を行ったことは、これからの国際協力の時代に向けて、非常に貴重な経験となりました。

注1 ISSにおいて重力環境が生物に与える影響について研究を行うための実験施設

注2 無重量環境で宇宙飛行士の身体を安定させる器具

最終更新日:2006年5月11日

 
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