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JAXA宇宙飛行士活動レポート

JAXA宇宙飛行士活動レポートに連載している油井・大西・金井宇宙飛行士が綴るコラム記事“新米宇宙飛行士最前線!”のバックナンバーです。
最終更新日:2013年5月22日

みなさん、こんにちは。宇宙飛行士の金井宣茂です。

これまで、約2年間にわたる宇宙飛行士候補者訓練と、それに引き続いて1年くらいかけてロシアを初めとした宇宙ステーション参加各国での特別訓練を受け、国際宇宙ステーションのシステムを学んできましたが、その後もまだまだ、宇宙飛行士“修行”は続いています。

教室でのレクチャーや、目の前の模型やシミュレーターあるいは実際の航空機を使った実技的な訓練ばかりでなく、NASA宇宙飛行士室の一員としてさまざまな会議に出席して情報を集めたり、軌道上のクルーが科学実験を行うための手順書を検証したり、管制官のシミュレーションに参加して支援をしたりと、それ自体は“訓練”とは言えませんが、将来のための貴重な経験の積み重ねとなるような活動も行っています。

今回は、管制官のシミュレーションをご紹介してみたいと思います。

国際宇宙ステーションは、24時間365日体制で、世界各国のミッション・コントロールセンターから管制を受けており、その主役が、フライトディレクターに率いられた各国選りすぐりの管制官チームです。

写真:運用中の「きぼう」の管制室です。彼らが24時間365日体制で「きぼう」を見守っています。

運用中の「きぼう」の管制室です。彼らが24時間365日体制で宇宙ステーションの「きぼう」を見守っています。(出典:JAXA)

1日3交代制のシフトをひいて常に宇宙ステーションをコントロールしている管制官ですが、実際の運用業務とは別に、常に訓練を行って不具合や緊急事態に対処するための能力を磨いたり、新しい人材を教育したりもしています。

ちなみに宇宙飛行士も、この管制官チームの一員として活動を行うことがあります。大西飛行士がやっているようなキャプコム(宇宙船コミュニケーター)という役割がそれで、ミッション・コントロール・センターを代表して、軌道上の宇宙飛行士と交信を行います。

いろいろな役割に分かれている管制官たちが、自分の仕事に関して、それぞれ勝手に宇宙飛行士と交信を始めてしまうと収拾がつかなくなってしまうので、“交信(コミュニケーション)”を専門とする管制官が1人おかれているのです。歴史的には、コミュニケーションの担当は、同じような訓練・経験を積んでいる宇宙飛行士が担当するのが慣例となっていたそうですが、宇宙ステーションの時代では、宇宙飛行士以外のキャプコムも多く活躍しています。

ちなみにわたし自身は、キャプコムとしての訓練を受けていませんので、実際の宇宙ステーションの運用には直接タッチはしていません。もっぱら、管制官の訓練のためのシミュレーションへ“クルー役”での出演をしています。

さて、そのシミュレーションですが、訓練を受ける側の管制官チームは、訓練用の管制室で、実際のミッションで使われるものとほとんど変わらないシステムで、“仮想の”宇宙ステーションを安全に運行します。

一方、訓練をする側のインストラクター・チームは、別の建物にあるシミュレーターを操作して、訓練の上での“仮想”宇宙ステーションに実にさまざまな不具合を発生させていきます。

クルーを演じるわたしはというと、インストラクターたちのいる部屋のすぐ隣のモックアップ(実物大模型)にこもって、宇宙ステーションで活動する宇宙飛行士を演じます。

管制官のための訓練ですので、宇宙飛行士も(わざと)さまざまな失敗をやらかします。

「ヒューストン、こちら宇宙ステーション。問題が発生した」

映画で聞いたことがあるようなフレーズで、マイクを使って管制室のキャプコムに声をかけます。

「トイレを使っていたら、急に赤ランプがついて止まってしまったんだけど、どうしたらいい?」

「実験の途中で手順を抜かしてしまったのに気づいたのだけれど、どうしよう?」

「ゴメン、作業の途中でネジが曲がってしまってパネルが締まらなくなっちゃった」

インストラクターからの指示に従って、さまざまな不具合や失敗を、次々に報告します。

そのたびに、キャプコムから、

「状況は理解した。こちらで相談して次の処置を指示するから、待機していてくれ」

と返事が返ってきます。

管制室内部のやり取りを宇宙ステーションにいるクルーは聞くことはできないのですが、担当の管制官が宇宙ステーションから送られてくる信号をコンピュータでチェックして状況を確認したり、技術資料のページをめくってデータを調べたり、フライトディレクターに指示を仰いだりしているはずです。

クルーからの報告だけでなく、同時並行で、宇宙飛行士の見えない(普通に生活している分には気づかない)ところでも、コンピュータの通信が止まったり、電気を配電する機械が壊れたり、ポンプが止まったりと、いろいろな不具合がどんどん起こりますので、管制室からいろんなコマンドを打って対処します。

現実世界で、故障や不具合がそんなに続けざまに起こることはありえませんが、シミュレーションの現場は、戦場のような慌しさのはずです。

宇宙飛行士も実際の宇宙ステーションの中では、いろいろな作業に追われて大忙しですが、シミュレーションでは、不具合を報告した後は待機状態。

「今ごろ、管制室は大忙しだろうな」

などと、のん気なものです。

しばらくすると、

「こちらヒューストン。それでは故障した部分を写真に撮って、復旧手順のステップ4と5を進めてくれ」

などと、キャプコムからの交信が返ってきます。

ときには、

「実は電気系の故障が見つかったので、アラームが鳴るかもしれないけれど、管制室から復旧コマンドを打って対処するから気にしないで大丈夫」

「どうやら冷却用の水が漏れているようだ。このままだとシステムがダウンしてしまうので、科学実験のほうは途中で中断して、どこが水漏れしているか、すぐに確認してくれ。場所は・・・」

などと、優先順位に従って、まったく別の状況説明や指示が飛んでくることもあります。

管制センターの対応や指示が妥当かどうかを判定するのはインストラクター・チームの仕事です。

管制官の発信したコマンドに応じて、宇宙ステーションの状況をシミュレーターに反映させたり、「じゃあ、10分たったら水漏れが○○で見つかったって報告してくれ。もし量を聞かれたら××ccくらいって答えて欲しいけれど、聞かれなかったら、わざと黙ってて」などと、クルー役のわたしに、こっそり耳打ちしたりしてきます。

毎回シミュレーションに参加するたびごとに、新しいシナリオを経験するのですが、その内容がとても練られているのには感心してしまいます。

例えば、シミュレーションが始まる際の前提条件で、2つある姿勢制御コンピュータのうち1つがメンテナンスのため動いていないというところからスタートしたとします。管制官もいざというときのことを考えて、1つしか動いていないコンピュータが故障した際に、メンテナンス中のコンピュータをすぐ使えるようにする準備を整えておくのですが、別の電気系の異常でメンテナンス中のコンピュータのスイッチをオンすることができなくなるとか、通信系の異常でバックアップコンピュータに最新のデータを送ることができなくなるとか、とにかく二重三重にも罠が張られているのです。

自分が試されるわけではないのですが、「うわ、えげつない~」と、ちょっと同情したくなります。

宇宙飛行士の立場としては、管制官を少しでもサポートして宇宙ステーションを安全に運行する手伝いをしたいところですが、複雑なシステムのほとんどは管制センターからのコマンド通信によって制御されているので、①現場の状況を報告し(シミュレーションでは、インストラクターの説明の通りにしゃべる)、②キャプコムの指示に忠実に行動する(シミュレーションでは、インストラクターがシミュレーターに情報を入力する)ことくらいしかできません。

管制官のための訓練ですから、まあ、仕方ありません。

逆に宇宙飛行士の訓練だと、「今、なんらかの状況で管制センターからコマンドが打てない状況にある」という前提で、宇宙飛行士と宇宙ステーションの安全を確保するための最小限の手順を、独力で実施する練習を繰り返します。

宇宙ステーションの安全な運行が、いかに地上の管制センターに依存しているか実感させられます。

このような、管制官の厳しい訓練を受けているのを間近に見ていますので、実際のミッションに際しても、「この人たちの指示の通りに行動すれば大丈夫」「こういう情報を伝えれば、うまく状況を処理してくれるばず」「全然返事が返ってこないけれど、たぶん先の細かいところまで想定して対策を練っているんだろう」と、全幅の信頼を持って一緒に仕事をすることができます。

「想定外を想定する」と、管制官の仕事っぷりを言葉で言ってしまうのは簡単ですが、実際に行動で示すためには、たゆまない研鑽と、プロフェッショナリズムに裏打ちされた自信がなくてはなりません。

『アポロ13号』で有名な伝説のフライト・ディレクターであるジーン・クランツの10カ条は、管制官だけでなく、宇宙飛行士にも、またはビジネスや他の仕事の現場にも役立つ含蓄ある教えだと思います。

写真:この人がジーン・クランツです。

この人がジーン・クランツです。(出典:NASA)

  1. Be proactive(積極的に行動せよ)
  2. Take responsibility(自ら責任を持て)
  3. Play flat-out(目標に向かって脇目を振らず、速やかに遂行せよ)
  4. Ask questions(分からないことは質問せよ)
  5. Test and validate all assumption(考えられることはすべて試し、確認せよ)
  6. Write it down(メモをとれ)
  7. Don't hide mistakes(ミスを隠すな)
  8. Know your system thoroughly(自分の仕事を熟知せよ)
  9. Think ahead(常に先のことを考えよ)
  10. Respect your teammates(仲間を尊重し、信頼せよ)

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