はじめまして、新米宇宙飛行士の金井宣茂です。今月から、定期的に、日々の業務や訓練のことなどについて、JAXAホームページの紙面を使って、自分で報告させていただくこととなりました。今回は記念すべき、第一回となります。
題名を「旅日誌」とつけさせていただきましたが、これは、国際宇宙ステーション搭乗のために訓練を受けている宇宙飛行士が(これまでのスペースシャトル時代の宇宙飛行士と異なり)、宇宙ステーション計画に参加しているアメリカ・ロシア・日本・ヨーロッパ・カナダの各国を頻繁に移動して訓練を受ける機会が多いためです。
普通の人がなかなか経験できない、宇宙飛行士訓練という珍しい体験をご紹介するとともに、JAXAについてはもちろんですが、NASAをはじめとする世界各国の有人宇宙プログラムの現場の雰囲気もお伝えすることができればと考えております。
さて、今月(4月)は、アメリカ・テキサス州のヒューストン(NASA)で訓練を受けました。宇宙ステーションは、大まかに、アメリカ側モジュール(日本・ヨーロッパを含む)とロシア側モジュールとに二分されますが、今月のわたしの訓練は、この「アメリカ側モジュール」のシステムの勉強です。
ここで「システム」と書きました。この場合、宇宙ステーションを、超巨大な宇宙船と考えてください。宇宙ステーション計画の大きな目的は、『宇宙の実験室』として、さまざまな科学実験を行うことにありますが、これを一つの『宇宙船』として考えた場合、人間が生きるための空気や水・室温などの環境を整えたり、地上の管制官とやり取りをするための通信機能を維持したり、そもそも、きちんと地球の周りを一定の高度や姿勢を保ちながら飛行し続けたりする必要があります。
これらの機能はそれぞれ、「生命維持」、「通信」、「ナビゲーション」など、宇宙船として絶対に必要な機能として、いくつかのシステムに分類されており、宇宙飛行士は、それぞれのシステムについて、別々に訓練を受けていきます。学校で、国語、数学、英語、物理、日本史と、科目別に勉強をするのに、ちょっと似ているかもしれません。
学校の勉強と同じ、という点では、最後にテストを受けて試験に合格しないといけないところも一緒です。
わたしの場合、このアメリカ側モジュールの勉強をするのは、宇宙飛行士候補者訓練(NASAでは、アストロノート・キャンディデート、略してアスキャンと呼びます)に引き続いて2回目になります。宇宙ステーションも、アスキャン時代と比べると、新しいモジュール(部屋)が追加されたり、より便利なデータ処理の方法が導入されたりと、どんどん新しくなっていますので、常に勉強を続けなくてはなりません。
今月は、宇宙ステーションが、さまざまな機械をいっぺんに動かすことでオーバーヒートしないように冷却をする「外部冷却システム」の試験と、毎日の生活を管理するための「デイリーオペレーション」というシステムの試験を受けて、見事に合格することができました!
とくに、デーリーオペレーションの訓練では、食料が余ったり、逆に足りなくなったりしないように、どうやって管理したら良いのか、ゴミはどうやって捨てたら良いのか、メモ用紙や鉛筆、毎日着るTシャツ、タオルやトイレットペーパーなど、生活にはなくてはならない品物が、一体どうやって宇宙ステーションに運ばれ、保管されているのかという勉強をしました。
なんだかひどく生活感を感じる訓練科目で、映画に出てくるような宇宙飛行士の格好良さは感じませんが、「宇宙で生活をする」ということを現実感を持って、あらためて考えさせられる内容でした。
「宇宙飛行士の仕事」、というと、どうしても宇宙飛行を行っている場面を想像しがちですが、その仕事人生の大半は、地球上で訓練をしたり、さまざまな開発業務に携わったりして過ごしています。そして、それらの地上での訓練や業務は、(厳しいことも多いですが)見たことも聞いたこともないような興味深い体験ばかりです。
せっかく、このように直接自分でご報告をするチャンスをいただきましたので、珍しい宇宙飛行士訓練の経験の一部を、引き続きご紹介できたらと思います。