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非平衡熱力学の創始者としてよく知られているI.Prigogineは、
非平衡において分子論的なゆらぎが一定のスケールに時間的、空間的に発展していく過程で
重力の重大な影響をこうむり得ることを指摘し「非平衡系は、外場に敏感である」という法則を定式化しました。
基礎物理研究において宇宙空間での微小重力環境を利用するメリットは、
このような微視的なゆらぎが巨視的なスケールにまで拡大することによって現れる特異な物理現象を、
重力の影響をこうむることなしにその本質を探究できることです。
具体的には、つぎのようなことがらが、基礎物理研究の方向性となります。
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ミクロな法則に支配されるマクロな量子現象を直截的に探求する |
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ミクロとマクロを媒介するメゾスケール構造を解明し、物質の凝集形態(固相、液相、気相)の形成機構を探求する |
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自然界における複雑な形態・構造(環境、気象、生命等)を決定する
非線形・非平衡現象(散逸構造、自己組織化、カオス等)の普遍的法則を探求する |
また重力の存在によって決定づけられている空間の非一様性が、
微小重力によって緩和されることに注目すると、
次のような研究対象も宇宙実験を行うメリットとして考えられます。
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観測対象を特定の空間領域に浮遊させることが必要な実験系 |
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力学的擾乱が微弱であっても存在すると高精度な観測が不可能となる実験系 |
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実験試料の圧力、密度を試料全体で一様に保つ必要がある実験系 |
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平衡から遠く離れた非平衡の状態で生起する時空間構造を、対流を排除して維持することが必要な実験系 |



上で述べたような方向性から、基礎物理研究について次の3つの研究領域を設定しました。



巨視的なスケールで現れるコヒーレンシーの高い量子現象を直截的に高精度で観測することにより、
巨視的量子現象の本質を探究する


気体と液体の区別がなくなる気−液臨界点に注目し、異常を示す熱物性値を系全体にわたって一様に保持しつつ
詳細に観測することで、物質が凝集する普遍的法則や相変化のメカニズムを探求する


生命現象や地球環境など、自然界で見出される一見複雑でランダムな現象が、
統一的な数理科学モデルによって記述されることを見出し、複雑性を支配する普遍的な物理法則を探求する
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