2.提案可能な宇宙実験
(1)ヒト以外の試料を対象とする実験テーマ





a) はじめに
  • 今回の公募では宇宙実験に使用される実験生物種、搭載実験装置、実験手順が決められています。各国の提案者にも同じ条件が適用されます。応募できるのはその範囲内で実施可能な宇宙実験提案に限定されます。
  • 生物種、装置には選択の余地がありません。制約の枠を越える提案固有の要求は審査時に不利に作用することにつながります。要求が受け入れられない場合に実験が成立しないような提案は望ましくありません。
  • 少ない試料を有効に利用するために、採択された後に他の提案者と共同研究チームを編成して宇宙実験に参加することが求められます。共同した試料搭載のための準備作業、回収試料の処理および分配等が想定されます。共同研究チーム内の調整により、場合によっては提案内容の全てが実施できないことも想定されます。
  • 選定された提案テーマの宇宙実験実施は2004年半ばから2006年後半を想定しています。
これから外れる応募は原則として受理いたしません。
提案書提出前にJAXAないしはJSFの担当者にご相談下さい。



b) 募集対象となる実験生物種
Arabidopsis thaliana、Brassica rapa、Caenorhabditis elegans、Saccharomysces cerevisiae に限定した宇宙実験提案のみを募集いたします。
それぞれの変異株の使用を提案することは可能です。しかし、搭載可能数量の制限が有ることから全ての要求が実現しないことも想定されます。
<背 景>
  • これまでは制限がなく、多様な生物種を用いる提案が採択されました。その結果、実施のために複数の実験装置の準備、あるいは装置の一部改修などが必要となっていました。その準備に要する時間と経費、ならびに多種の実験装置を打上げることは実施に向けた大きな負担になっていました。
  • ISS建設の遅れにより、軌道上実験環境の整備も遅れていることから、これまでの国際公募選定テーマは募集・選定から実験実施まで数年以上を要するのが現状です。研究の科学的意義の陳腐化、実施体制の維持等が問題になっています。
上記の問題への対応として、国際公募参加機関は募集・選定から3年以内に宇宙実験が実施できるテーマ募集のありかたを検討してきました。その結果、確実に使用可能な搭載装置、確保可能な実験操作時間などの実験リソース内で実施できる実験形態に基づく公募の実施に至りました。

宇宙実験試料と実験装置ならびに実験操作手順は世界のテーマ提案者に共通です。なお、次回以降の募集形態は今後検討予定です。

【注意事項】

S. cerevisiae、C. elegansを用いた実験についてのFEIPの記述について
FEIP2.2.1項にS. cerevisiae、2.2.2項にC. elegansを試料とする宇宙実験に関する記述がありますが、日本からの応募の場合には本募集要項に従った提案として下さい。詳細は各試料に関する項目に説明します。



c) 共通事項
打上げから回収までの各段階における制約条件を以下に示します。これは、原則として各生物種による実験に共通です。


1)打上げ時
  • 実験装置と生物試料はスペースシャトルのミッドデッキあるいはカーゴベイに搭載されるMPLM(Multi-Purpose Logistic Module)に収容されます。
  • ミッドデッキには打上げ17時間前までに実験用資材等を搭載する必要があります。MPLM本体は打上げ1, 2ヶ月前にシャトルに搭載されますが、これに実験資材を搭載するには打上げ4日前までに終了させる必要があります。
  • 生物試料輸送時は、保温剤利用などによる電力を要しない温度管理と打上げ時の振動からの防振は一定の範囲内で可能です。(したがって、植物を栽培状態で打上げることは、種子の場合よりも困難です。)
  • スペースシャトルの打上げ後からISSへのドッキングまでの期間(通常3日間)は、宇宙飛行士による実験操作はほとんどできません。この期間に実験操作を要求する場合には、その理由を明確にする必要があります。ただし、ミッドデッキ内のものに限ります。

2)ドッキング時
  • スペースシャトルのISSへのドッキング関連操作は、打上げ後3〜10日間に実施されます。
  • この間に実験試料、資材がスペースシャトルからISSへ移送されます。
  • この間の実験操作要求はほとんど実現しません。

3)ISS内実験期間
  • 宇宙飛行士はISSの組立や維持管理などに多くの時間を費やすことから、複雑な操作、訓練に長時間を要する操作などの要求を含めないことを推奨します。
  • 実験開始時期、終了時期、実験操作時期等が厳密でなく、幅のある実験提案を推奨します。
  • 軌道上で生物試料を保管することが必要な場合には、その方法(温度、期間など)を明確に示すことが必要です。
  • 化学固定も可能ですが、固定しない試料も含め、冷蔵あるいは冷凍できる容量に限界があります。今回の公募では、室温保管などの簡便な保管方法を推奨します。

4)帰還、試料回収時
  • 植物試料を栽培状態で地上へ回収することは困難です。また、帰還時の植物試料の採取、化学固定などの実験操作の実現は極めて困難です。
  • 回収用の冷蔵庫と冷凍庫の容量にも限界があります。このため、低温保管がどうしても必要な場合にはその理由を明確にする必要があります。それでも、このような要求は審査時に不利に作用します。
  • スペースシャトル着陸後、ミッドデッキ内の物品であれば最も早くて3時間、MPLM内の物品の場合は2〜3日後に入手可能です。


d) Arabidopsis thaliana、Brassica rapa を試料とする実験概要
【実験装置】

ESA提供のEMCS(European Modular Culture System)ないしはNASA提供のABRS(Advanced Biological Research System)が使用されます。
装置の詳細は下記ウェッブサイトに記載されています。
EMCS http://www.estec.esa.nl/spaceflight/emcs/emcs.htm
ABRS http://lsda.ksc.nasa.gov/Hardware/GetSpecificHardware.pl?hdw=abrs

【実験概要】
  1. どちらの装置も種子からの実験に適合しており、最大120日間までの実験が可能です。
  2. ABRSでは植物を培養状態で打上げること、軌道上でそのまま栽培することが可能です。途中でEMCS(人工重力発生器を備えるなど、ABRSとは性能が異なります)に移すことも可能です。
  3. 軌道上では宇宙飛行士による極めて簡単な実験操作であれば可能です。採取した試料を化学固定、冷凍保管することが出来ます。
  4. 地上対照実験は軌道上実験手順を模擬して実施される計画です。

表−dに培養条件等の詳細を示します。

表−d Arabidopsis thaliana、Brassica rapa による実験
試料種 Arabidopsis thaliana、Brassica rapa (mutantを含む)
実験装置 ABRS EMCS
培養面積 2容器 284cm2 8容器 36cm2
最大高 19.0cm 16.0cm
照明 最大 300 μmol/m2/s 最大 300 μmol/m2/s
明暗周期 選択可能 選択可能
温度制御 10-35℃ 18-40℃
給水・給肥 自動 自動
気相成分制御 各容器
フィルターしたキャビンエアーエチレンは除去
各容器
実験要求に応じた気相成分の供給
CO2制御 0.03%〜大気環境 0.03〜0.05% および1〜5%
エチレン除去 最大 25ppb 最大 10ppb
湿度制御 各容器 60〜80% 各容器 50〜85%
データダウンリンク データ、画像 データ、画像
画像取得 可視光 可視光、赤外線
重力環境 10-3 g 10-3 g 〜 2.0 g



e) Saccharomysces cerevisiae を試料とする実験概要:MYCOS

                          【注意事項】

  FEIP2.2.1項にはSaccharomysces cerevisiaeを用いた宇宙実験機会としてEMMYS-1、EMMYS-2、MYCOSの記述があります。MYCOSに先行して実施される宇宙実験EMMYS-1、-2に関しては、これらから得られる試料の分配のみを募集対象とします。このため、提案書はMYCOSを目標として作成して下さい。 分配を受けることを希望する場合には、その提案書に含めて下さい。 その場合、入手することによって達成可能な科学的意義、入手を希望する試料数量、解析方法、ならびに本提案との関係を明確に示す必要があります。
【実験装置】

NASA提供のSSBRP Incubatorが使用されます。装置の詳細は下記ウェッブサイトに記載されています。
http://brp.arc.nasa.gov/


【実験概要】
  1. 培養容器に播種し4℃で打上げ、ISS到着後は実験開始まで冷蔵庫(4℃)に保管されます。
  2. 回収用の宇宙船がISSにドッキングする2〜3週間前から培養容器に移して実験を開始します。
  3. 培養終了後は同Incubator内に4℃保管され、その後帰還用宇宙船の冷蔵庫で4℃保管され回収されます。
  4. 地上対照実験は軌道上実験手順を模擬して実施される計画です。

表−eに培養条件等の詳細を示します。

表−e Saccharomysces cerevisiae による実験概要
試料種 Saccharomysces cerevisiae (mutantを含む)
実験装置 SSBRP Incubator
ISS上設置期間 30から110日間(注1)
実験期間 実験要求に応じる(注1)
打上げ時温度制御 4℃
軌道上温度制御 培養開始前:4℃ 保管(およそ14〜80日間)、
培養期間 :20〜30℃、
培養終了後:4℃(およそ14〜21日間)
回収時温度制御 4℃
培養容器 OpticellTM (注2)
培養液 YPD(注3)
放射線モニタリング Passive Dosimeter System(PDS)(注4)
(注1) 装置は最大110日間軌道上で運転可能です。その期間内であれば任意の培養期間を設定することが出来ますが、選定後は他の提案との調整により変更が必要な場合が想定されます。厳密な培養期間の要求ではなく、一定の幅を持たせることが肝要です。
(注2) http://www.opticell.com/ に紹介されています。ガス交換可能な薄型容器です。
(注3) 使用株に応じて選択できます。
(注4) TLD(Pille Thermoluminescent Detector)と3層のPNTD(Plastic Nuclear Track Detector)から構成され、試料と共に回収されます。PNTDはPDS(Passive Dosimeter System)ホルダーに収納され打上げ時に輸送用コンテナに収納されます。ISS到着後にTLDが同ホルダーに収納されて培養容器近傍に設置されます。実験終了後にPNTDは再び輸送用コンテナに設置され、TLDは別なところに保管されます。計測結果は解析後に各研究者に提供されます。


                          【注意事項】

  FEIP2.2.2項にはCaenorhabditis elegansを用いた宇宙実験機会としてCEMMS-1、CEMMS-2、CEMMS-3、FIERCEの記述があります。FIERCEに先行して実施される宇宙実験CEMMS-1、-2、-3に関しては、これらから得られる試料の分配のみを募集対象とします。このため、提案書はFIERCEを目標に作成して下さい。 分配を受けることを希望する場合には、その提案書に含めて下さい。 その場合、入手することによって達成可能な科学的意義、入手を希望する試料数量、解析方法、ならびに本提案との関係を明確に示す必要があります。

f) Caenorhabditis elegans を試料とする実験概要:FIERCE
【実験装置】

NASA提供のSSBRP Incubatorが使用されます。装置の詳細は下記ウェッブサイトに記載されています。
http://brp.arc.nasa.gov/


【実験概要】
  1. Cenorhabditis elegansは無菌液体培地を満たした培養容器に播種され、20℃を維持してISSに輸送されます。
  2. ISS到着後、SSBRP Incubatorに収納し軌道上実験を開始します。
  3. 4容器はビデオ画像記録用に使用され、定期的に取得、記録された画像がダウンリンクされます。
  4. 残りの容器は分割され、それぞれ異なる期間(17〜28日間)培養されます。
  5. 培養終了後、各群の1容器内試料は-80℃でISS内に保管し帰還用宇宙船のGN2 Freezer(http://lsda.ksc.nasa.gov/Hardware/GetSpecificHardware.pl?hdw=kscgn2)内に保管して回収、1容器内試料はTrizol固定後に-20℃以下でISS内に保管し帰還用宇宙船内で4℃以下に保管し回収、残りの1容器内試料は培養状態を維持して回収します。
表−fに培養条件等の詳細を示します。
表−f Caenorhabditis elegansによる実験概要
試料種 Caenorhabditis elegans (mutantを含む)
実験装置 SSBRP Incubator
ISS上設置期間 30から110日間(注1)
実験期間 17〜28日間(注1)
打上げ時温度制御 20℃(培養状態)
軌道上温度制御 培養期間:20℃   培地保管:4℃Trizol
固定試料:-20℃  冷凍試料 :-80℃
回収時温度制御 培養状態:20℃  固定試料:4℃以下 冷凍試料:-80℃
培養容器 OpticellTM (注2)
培養液 無菌液体培地 CeMM(注3)
Subculture 培養期間が異なる3系列
試料処理 培養終了時
画像取得 7〜14日間隔(4容器のみ)
放射線モニタリング Passive Dosimeter System(注4)
(注1) 装置は最大110日間軌道上で運転可能です。その期間内であれば任意の培養期間を設定することが出来ます。
(注2) http://www.opticell.com/ に紹介されています。ガス交換可能な薄型容器です。
(注3) LU,N.C. and Goetsch,K.M. 1993, Nematologica 39(3):303-311
(注4) TLD(Pille Thermoluminescent Detector)と3層のPNTD(Plastic Nuclear Track Detector)から構成され、試料と共に回収されます。PNTDはPDS(Passive Dosimeter System)ホルダーに収納され、打上げ時には輸送用コンテナに収納されます。ISS到着後にTLDが同ホルダーに収納されて培養容器近傍に設置されます。実験終了後にPNTDは再び輸送用コンテナに収納され、TLDは別なところに保管されます。計測結果は解析後に各研究者に提供されます。

(2)ヒト(宇宙飛行士)を対象とする実験





a) はじめに
  • 2007年の実験開始時期には、ISSには1組で3名(半年滞在)の宇宙飛行士が搭乗する計画であることから、年間で2組6名が対象となります。しかし、実験に参加するのは、1組で2名の場合も想定されるため、6名を対象とした実験には3組のフライト(1.5年)を要する場合もあります。
  • 短期間の実験であればシャトルフライトの宇宙飛行士も対象となりますが、その場合は年間で6名程度が目安となります。
  • 宇宙飛行士を被験者とするには、実験の内容を説明し同意を得ることが前提になります。
  • 実験用資材、宇宙飛行士が実験に参加できる時間の制限等から、ISS到着後2週間以内、帰還後3日間以内には宇宙飛行士に対するデータ収集は原則として不可能です。
  • 有人実験であることから、応募時には所属の研究機関における所定の倫理審査による承認が必要です。
  • 選定された提案テーマの宇宙実験実施は2007年から開始することを想定しています。
  • 限られた被験者(宇宙飛行士)に関する実験となることから、多くの宇宙飛行士をフライトさせるNASAが主導して編成する研究チームに参加することが必要です。各研究者間による調整の結果によっては提案内容全てが実施できない場合があります。
  • 使用可能な実験装置はFEIP 2.1項「Research Involving Human Subjects」で確認して下さい。
    FEIPは下記から入手して下さい。
ここからダウンロードして下さい



b) 募集対象とする研究領域
宇宙滞在期間と宇宙からの帰還後のヒトに生じる問題に対する有効な対処法(countermeasure)あるいは医療技術(operational techniques)の開発に焦点を当てた下記領域に関するテーマに限定いたします。
ア) 骨量減少 イ) 心循環器系の変化 ウ) 食物と栄養
エ) 行動とパフォーマンス オ) 免疫、感染、血液 カ) 筋萎縮
キ) 臨床手法 ク) 前庭系の適応(感覚運動統合)