上記の問題への対応として、国際公募参加機関は募集・選定から3年以内に宇宙実験が実施できるテーマ募集のありかたを検討してきました。その結果、確実に使用可能な搭載装置、確保可能な実験操作時間などの実験リソース内で実施できる実験形態に基づく公募の実施に至りました。
宇宙実験試料と実験装置ならびに実験操作手順は世界のテーマ提案者に共通です。なお、次回以降の募集形態は今後検討予定です。
【注意事項】
S. cerevisiae、C. elegansを用いた実験についてのFEIPの記述について
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FEIP2.2.1項にS. cerevisiae、2.2.2項にC. elegansを試料とする宇宙実験に関する記述がありますが、日本からの応募の場合には本募集要項に従った提案として下さい。詳細は各試料に関する項目に説明します。
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c) 共通事項
打上げから回収までの各段階における制約条件を以下に示します。これは、原則として各生物種による実験に共通です。
1)打上げ時
- 実験装置と生物試料はスペースシャトルのミッドデッキあるいはカーゴベイに搭載されるMPLM(Multi-Purpose Logistic Module)に収容されます。
- ミッドデッキには打上げ17時間前までに実験用資材等を搭載する必要があります。MPLM本体は打上げ1, 2ヶ月前にシャトルに搭載されますが、これに実験資材を搭載するには打上げ4日前までに終了させる必要があります。
- 生物試料輸送時は、保温剤利用などによる電力を要しない温度管理と打上げ時の振動からの防振は一定の範囲内で可能です。(したがって、植物を栽培状態で打上げることは、種子の場合よりも困難です。)
- スペースシャトルの打上げ後からISSへのドッキングまでの期間(通常3日間)は、宇宙飛行士による実験操作はほとんどできません。この期間に実験操作を要求する場合には、その理由を明確にする必要があります。ただし、ミッドデッキ内のものに限ります。
2)ドッキング時
- スペースシャトルのISSへのドッキング関連操作は、打上げ後3〜10日間に実施されます。
- この間に実験試料、資材がスペースシャトルからISSへ移送されます。
- この間の実験操作要求はほとんど実現しません。
3)ISS内実験期間
- 宇宙飛行士はISSの組立や維持管理などに多くの時間を費やすことから、複雑な操作、訓練に長時間を要する操作などの要求を含めないことを推奨します。
- 実験開始時期、終了時期、実験操作時期等が厳密でなく、幅のある実験提案を推奨します。
- 軌道上で生物試料を保管することが必要な場合には、その方法(温度、期間など)を明確に示すことが必要です。
- 化学固定も可能ですが、固定しない試料も含め、冷蔵あるいは冷凍できる容量に限界があります。今回の公募では、室温保管などの簡便な保管方法を推奨します。
4)帰還、試料回収時
- 植物試料を栽培状態で地上へ回収することは困難です。また、帰還時の植物試料の採取、化学固定などの実験操作の実現は極めて困難です。
- 回収用の冷蔵庫と冷凍庫の容量にも限界があります。このため、低温保管がどうしても必要な場合にはその理由を明確にする必要があります。それでも、このような要求は審査時に不利に作用します。
- スペースシャトル着陸後、ミッドデッキ内の物品であれば最も早くて3時間、MPLM内の物品の場合は2〜3日後に入手可能です。
d) Arabidopsis thaliana、Brassica rapa を試料とする実験概要
【実験装置】
-
-
ESA提供のEMCS(European Modular Culture System)ないしはNASA提供のABRS(Advanced Biological Research System)が使用されます。
装置の詳細は下記ウェッブサイトに記載されています。
EMCS http://www.estec.esa.nl/spaceflight/emcs/emcs.htm
ABRS http://lsda.ksc.nasa.gov/Hardware/GetSpecificHardware.pl?hdw=abrs
【実験概要】
- どちらの装置も種子からの実験に適合しており、最大120日間までの実験が可能です。
- ABRSでは植物を培養状態で打上げること、軌道上でそのまま栽培することが可能です。途中でEMCS(人工重力発生器を備えるなど、ABRSとは性能が異なります)に移すことも可能です。
- 軌道上では宇宙飛行士による極めて簡単な実験操作であれば可能です。採取した試料を化学固定、冷凍保管することが出来ます。
- 地上対照実験は軌道上実験手順を模擬して実施される計画です。
表−dに培養条件等の詳細を示します。
表−d Arabidopsis thaliana、Brassica rapa による実験
試料種 |
Arabidopsis thaliana、Brassica rapa (mutantを含む) |
実験装置 |
ABRS |
EMCS |
培養面積 |
2容器 284cm2 |
8容器 36cm2 |
最大高 |
19.0cm |
16.0cm |
照明 |
最大 300 μmol/m2/s |
最大 300 μmol/m2/s |
明暗周期 |
選択可能 |
選択可能 |
温度制御 |
10-35℃ |
18-40℃ |
給水・給肥 |
自動 |
自動 |
気相成分制御 |
各容器
フィルターしたキャビンエアーエチレンは除去 |
各容器
実験要求に応じた気相成分の供給 |
CO2制御 |
0.03%〜大気環境 |
0.03〜0.05% および1〜5% |
エチレン除去 |
最大 25ppb |
最大 10ppb |
湿度制御 |
各容器 60〜80% |
各容器 50〜85% |
データダウンリンク |
データ、画像 |
データ、画像 |
画像取得 |
可視光 |
可視光、赤外線 |
重力環境 |
10-3 g |
10-3 g 〜 2.0 g |
e) Saccharomysces cerevisiae を試料とする実験概要:MYCOS
【注意事項】
FEIP2.2.1項にはSaccharomysces cerevisiaeを用いた宇宙実験機会としてEMMYS-1、EMMYS-2、MYCOSの記述があります。MYCOSに先行して実施される宇宙実験EMMYS-1、-2に関しては、これらから得られる試料の分配のみを募集対象とします。このため、提案書はMYCOSを目標として作成して下さい。
分配を受けることを希望する場合には、その提案書に含めて下さい。
その場合、入手することによって達成可能な科学的意義、入手を希望する試料数量、解析方法、ならびに本提案との関係を明確に示す必要があります。
【実験装置】
-
-
NASA提供のSSBRP Incubatorが使用されます。装置の詳細は下記ウェッブサイトに記載されています。
http://brp.arc.nasa.gov/
【実験概要】
- 培養容器に播種し4℃で打上げ、ISS到着後は実験開始まで冷蔵庫(4℃)に保管されます。
- 回収用の宇宙船がISSにドッキングする2〜3週間前から培養容器に移して実験を開始します。
- 培養終了後は同Incubator内に4℃保管され、その後帰還用宇宙船の冷蔵庫で4℃保管され回収されます。
- 地上対照実験は軌道上実験手順を模擬して実施される計画です。
表−eに培養条件等の詳細を示します。
表−e Saccharomysces cerevisiae による実験概要
試料種 |
Saccharomysces cerevisiae (mutantを含む) |
実験装置 |
SSBRP Incubator |
ISS上設置期間 |
30から110日間(注1) |
実験期間 |
実験要求に応じる(注1) |
打上げ時温度制御 |
4℃ |
軌道上温度制御 |
培養開始前:4℃ 保管(およそ14〜80日間)、
培養期間 :20〜30℃、
培養終了後:4℃(およそ14〜21日間) |
回収時温度制御 |
4℃ |
培養容器 |
OpticellTM (注2) |
培養液 |
YPD(注3) |
放射線モニタリング |
Passive Dosimeter System(PDS)(注4) |
(注1)
装置は最大110日間軌道上で運転可能です。その期間内であれば任意の培養期間を設定することが出来ますが、選定後は他の提案との調整により変更が必要な場合が想定されます。厳密な培養期間の要求ではなく、一定の幅を持たせることが肝要です。
(注2)
http://www.opticell.com/ に紹介されています。ガス交換可能な薄型容器です。
(注3)
使用株に応じて選択できます。
(注4)
TLD(Pille Thermoluminescent Detector)と3層のPNTD(Plastic Nuclear Track Detector)から構成され、試料と共に回収されます。PNTDはPDS(Passive Dosimeter System)ホルダーに収納され打上げ時に輸送用コンテナに収納されます。ISS到着後にTLDが同ホルダーに収納されて培養容器近傍に設置されます。実験終了後にPNTDは再び輸送用コンテナに設置され、TLDは別なところに保管されます。計測結果は解析後に各研究者に提供されます。
【注意事項】
FEIP2.2.2項にはCaenorhabditis elegansを用いた宇宙実験機会としてCEMMS-1、CEMMS-2、CEMMS-3、FIERCEの記述があります。FIERCEに先行して実施される宇宙実験CEMMS-1、-2、-3に関しては、これらから得られる試料の分配のみを募集対象とします。このため、提案書はFIERCEを目標に作成して下さい。
分配を受けることを希望する場合には、その提案書に含めて下さい。
その場合、入手することによって達成可能な科学的意義、入手を希望する試料数量、解析方法、ならびに本提案との関係を明確に示す必要があります。
f) Caenorhabditis elegans を試料とする実験概要:FIERCE
【実験装置】
-
-
NASA提供のSSBRP Incubatorが使用されます。装置の詳細は下記ウェッブサイトに記載されています。
http://brp.arc.nasa.gov/
【実験概要】
- Cenorhabditis elegansは無菌液体培地を満たした培養容器に播種され、20℃を維持してISSに輸送されます。
- ISS到着後、SSBRP Incubatorに収納し軌道上実験を開始します。
- 4容器はビデオ画像記録用に使用され、定期的に取得、記録された画像がダウンリンクされます。
- 残りの容器は分割され、それぞれ異なる期間(17〜28日間)培養されます。
- 培養終了後、各群の1容器内試料は-80℃でISS内に保管し帰還用宇宙船のGN2 Freezer(http://lsda.ksc.nasa.gov/Hardware/GetSpecificHardware.pl?hdw=kscgn2)内に保管して回収、1容器内試料はTrizol固定後に-20℃以下でISS内に保管し帰還用宇宙船内で4℃以下に保管し回収、残りの1容器内試料は培養状態を維持して回収します。
表−fに培養条件等の詳細を示します。
表−f Caenorhabditis elegansによる実験概要
試料種 |
Caenorhabditis elegans (mutantを含む) |
実験装置 |
SSBRP Incubator |
ISS上設置期間 |
30から110日間(注1) |
実験期間 |
17〜28日間(注1) |
打上げ時温度制御 |
20℃(培養状態) |
軌道上温度制御 |
培養期間:20℃ 培地保管:4℃Trizol
固定試料:-20℃ 冷凍試料 :-80℃ |
回収時温度制御 |
培養状態:20℃ 固定試料:4℃以下 冷凍試料:-80℃ |
培養容器 |
OpticellTM (注2) |
培養液 |
無菌液体培地 CeMM(注3) |
Subculture |
培養期間が異なる3系列 |
試料処理 |
培養終了時 |
画像取得 |
7〜14日間隔(4容器のみ) |
放射線モニタリング |
Passive Dosimeter System(注4) |
(注1)
装置は最大110日間軌道上で運転可能です。その期間内であれば任意の培養期間を設定することが出来ます。
(注2)
http://www.opticell.com/ に紹介されています。ガス交換可能な薄型容器です。
(注3)
LU,N.C. and Goetsch,K.M. 1993, Nematologica 39(3):303-311
(注4)
TLD(Pille Thermoluminescent Detector)と3層のPNTD(Plastic Nuclear Track Detector)から構成され、試料と共に回収されます。PNTDはPDS(Passive Dosimeter System)ホルダーに収納され、打上げ時には輸送用コンテナに収納されます。ISS到着後にTLDが同ホルダーに収納されて培養容器近傍に設置されます。実験終了後にPNTDは再び輸送用コンテナに収納され、TLDは別なところに保管されます。計測結果は解析後に各研究者に提供されます。