|
||||||
第4回ライフサイエンス国際公募選定 フライト実験候補テーマ
筋蛋白質のユビキチン化を介した筋萎縮の新規メカニズム
Cbl-mediated protein ubiquitination Downregulates the response
of skeletal muscle cells to growth factors in space
代表研究者:二川 健(徳島大学 医学部 栄養生理)
研究目的
無重力による筋萎縮の新規メカニズムを実証し、その予防の可能性を探る。
研究方法・内容
長期間宇宙に滞在した宇宙飛行士の骨格筋は、帰還後自力で立てなくなるほど萎縮する。この無重力による筋萎縮は、今後人類が宇宙開発を進める上で必ず解決しなければならない重要な課題である。代表研究者らは、1998年に打ち上げられたスペースシャトルによる実験で、無重力により萎縮したネズミの骨格筋では特殊な蛋白質分解経路(ユビキチン-プロテアソーム経路)だけが活性化することを発見した。この蛋白質分解経路は分解しようとする蛋白質をユビキチンというペプチドで標識する(ユビキチン化)という特徴があり、この宇宙フライトネズミの骨格筋でも多くの蛋白質がユビキチン化され分解されていることがわかった。今回の研究では、宇宙ステーションで長時間培養したネズミの筋細胞は、細胞を増殖させる因子(増殖因子)を与えてもその信号を遺伝子 (核) まで伝達する蛋白質(情報伝達物質)が高度にユビキチン化され分解されているため、全く増殖しないことを実証する(図参照)。さらに、無重力によりユビキチン化されやすい情報伝達物質とその反応を誘導する酵素も同定し、無重力による筋萎縮の新規メカニズムの全容を解明する予定である。
期待される成果
無重力環境では筋蛋白質を分解するシステムが筋細胞の増殖も制御しているとする仮説はとても斬新である。また理論的には効果があると考えられてきた増殖因子がなぜ無重力による筋萎縮には無効であったかも明らかになる。さらに、現在においても筋力トレーニング以外に長期間の宇宙滞在による筋萎縮を予防する手段はない。しかし、本研究は、情報伝達物質のユビキチン化を抑制する薬剤や食事(宇宙食)を開発することが無重力による筋萎縮を防ぐ重要な手段になることを示している。これらの成果は、高齢化社会の我国の社会問題でもある寝たきりによる筋萎縮の予防にも応用できる。