宇宙放射線環境計測 |
今回STS-91で実施する宇宙放射線環境計測のこれまでの経緯 |
1998年から国際宇宙ステーション(ISS)の建設が始まり、2001年には日本の実験モジュールもISSに取り付けられます。そして、ISSでは日本人を含む数名の宇宙飛行士が常時滞在し、微小重力の宇宙環境を利用して宇宙実験等の様々な活動を行うことになっています。
ISSでは、ひとりの宇宙飛行士の滞在は数ヶ月に及ぶため、この間、微小重力や宇宙放射線等の環境が宇宙飛行士に対して与える影響は無視できません。このような影響のうち、宇宙放射線が人体に及ぼす影響を調べ、宇宙放射線に対する宇宙飛行士の健康管理に役立てるため、宇宙開発事業団(NASDA)では、宇宙放射線を計測する技術の開発と宇宙放射線についての基礎的なデータの蓄積をアメリカのスペースシャトルを利用して行っています。
国際宇宙ステーション計画の第1段階として、スペースシャトルとミールがドッキングして共同飛行を実施します。これは1995年から1998年にかけて9回割り当てられられています。この共同飛行は、スペースシャトルからミールへ搭乗員や物資を輸送し、ISSの利用に先立って必要となる科学研究等を行いISSの組立や運用を行う際のリスクを軽減することを目的としたものです。ミールとドッキングしたスペースシャトルは、国際宇宙ステーション(ISS)と同一の軌道を飛行するため、ISSと同一の放射線環境下で実験を行うことができます。NASDAはこの9回の飛行のうち4回を利用して宇宙放射線環境のデータを蓄積することになりました。これまでにSTS-79、84,89で実験を実施しました。今回のSTS-91の飛行が最後の実験となります。
宇宙放射線の計測では、スペースシャトルなどの船内で見られる荷電粒子(電荷を持った粒子。電子、陽子、高エネルギー重粒子など。)と中性子を計測します。荷電粒子の計測のためには実時間放射線モニタ装置(RRMD)を使用しています。第1回目のSTS-79では船内の物質や人体に与えるエネルギー(LET(線エネルギー付与))の高い領域の荷電粒子に、第2回目のSTS-84では低LET領域の荷電粒子に重点をおいて計測しました。この2回の実験で、軌道に飛来すると考えられる荷電粒子の全LET範囲の計測が可能となりました。また、第3回目のSTS-89ではデータレコーダを搭載しました。これは第2回目の実験で南大西洋上空の計測データが予想以上に多く地上へデータが十分伝送できなかったため搭載したもので、これにより南大西洋上空の計測データを記録することができました。過去3回の飛行によりRRMDで計測したデータはリアルタイムで日本国内に伝送され、このデータと気象衛星等で計測された他の宇宙放射線データと比較検討しての、実験的な宇宙放射線環境の予測システムの研究にも使用されました。さらに第3回目のSTS-89では中性子モニタ装置(BBND)を用いてスペースシャトルで初めて
中性子スペクトラムの計測をリアルタイムで行いました。
この他、宇宙放射線生物影響実験を実施しています。軌道上では、地上に比べてエネルギーの高い宇宙放射線を被曝することになるうえ、微小重力等の地上とは異なる環境下にあります。このため、高LETの宇宙放射線により生物はどのような損傷を受けるのか、そして、放射線により損傷を受けたDNA等が修復する場合、微小重力等の環境により地上と比べてどのような差が生じるのかという点について、生物試料を用いて実験してきました。
宇宙放射線環境を計測するための技術の開発 |
宇宙放射線についての基礎的なデータの取得や宇宙ステーションでの被曝管理に必要となる宇宙放射線環境の計測技術の開発を行います。
宇宙放射線についての基礎的なデータの蓄積
図に示すように1.船内の宇宙放射線環境、2.人体内の線量分布、3.宇宙放射線が生物に与える影響の3種類の分野でデータの蓄積を行います。
宇宙放射線とは
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Last Updated : 1998. 5.25