人体等価物質下での線量計測

代表研究者 藤高 和信(放射線医学総合研究所)


人体ファントム概念図
図1 線量計コンフィギュレーション

実験の概要・目的
 数種類の受動型放射線検出器(熱蛍光線量計(TLD)、プラスチック固体飛跡検出器(PNTD)、ガラス線量計(RPLG))を、放射線に対し人体と等価な特性を持つ物質(人体等価物質)で作られた人体模型中の主要臓器の位置に挿入し、人体内の宇宙放射線被曝線量分布を明らかにする。

実験の目的
 放射線被曝による発ガン等のリスクは、放射線に対する感受性の違い等により各臓器毎に異なる。そのため宇宙飛行士の放射線被曝によるリスクをより正確に求めるためには、人体内の主要臓器毎の被曝線量を求めることが必要である。今回の実験では、人体内の被曝線量分布を求めることにより、体外の被曝線量(皮膚の被曝線量に相当)から体内の臓器線量を予測評価する手法を確立するとともに、数種類の受動型放射線検出器を用いたより詳細な線量計測方法の確立を図ることを目的とする。

過去の宇宙実験の成果
 これまでに、1997年7月から8月にかけて約40日間ロシアのミールにて、同様の検出器の組合せにより船内での皮膚線量に相当する被曝線量の測定を行った。その結果、これらの受動型放射線検出器の組合せによる測定は、小型で長期間安定して動作し、また測定が簡便で再現性がよく、宇宙放射線被曝の線量評価に必要な情報を提供できることが確認されている。
 しかし、人体内の被曝線量分布については、1989年〜90年にかけてNASAが人体等価物質でできた頭部のみの模型を用いて3回(STS-28、-36、-31)行っているだけで、頭部以外の実験はこれまで行われた実績がなく、健康リスクを論じる上で重要な主要臓器毎の人体内被曝線量を測定した例はない。

実験の原理
 今回の実験に用いる受動型放射線検出器は、図-1に示すように、6種類のTLD(6LiF、7LiF、BeO、Mg2 SiO4、Al2 O3、CaF2)、PNTD、RPLGで、これらを人体等価物質で作られたケースの中に入れ、1つの線量計を構成したものである。
 この線量計を人体模型中の生殖腺、骨髄、肺、胃等の主要臓器の位置59ヶ所に挿入し測定を行う。今回用いるTLD、RPLGは、応答が入射粒子のLETに依存し、またそのパターンがそれぞれ異なる。これらの応答特性をあらかじめ求めておくことにより、宇宙放射線の線質と線量を詳細に把握することが可能となる。また、PNTDにより、数keV/μ以上の高LET成分について直接的にLET分布を計測することが可能である。これらの情報を組み合わせることにより、宇宙放射線被曝の評価に必要な線量、線質の計測をより正確に行うことができる。

期待される成果
 船内の宇宙放射線環境における人体内の被曝線量分布をより詳細に計測することができることから、体外の被曝線量より体内の被曝量を推定し、宇宙飛行士の宇宙放射線被曝によるリスクをより正確に求めるための手法を確立することが可能になると期待される。また、受動型放射線検出器の組合せによる、より簡便・安定な宇宙飛行士用個人線量測定技術の確立に資することができると考えられる。



Last Updated : 1998. 5.27