宇宙放射線に対する実時間線量計測

代表研究者 道家 忠義(早稲田大学)


図1 S/MM-4型RRMD
図2 S/MM-6型RRMD

実験の概要
 RRMDを用いて、宇宙船内における陽子から鉄粒子までの入射粒子によるLET(線エネルギー付与:物質を通過する荷電粒子が飛跡に沿っての単位長さ当たりに物質に与えるエネルギー)分布をリアルタイムで計測し、得られた測定値を基に線量当量を正確に推定して、宇宙放射線の生物学的効果を明らかにする。

実験の目的
 将来、宇宙で長期間にわたって人間が活動する際、地表で受けるよりはるかに強い宇宙特有の放射線を被曝することになると予想される。このような状況において、宇宙放射線被曝に対して逐次、宇宙飛行士の健康管理をする必要がある。そのために、今後宇宙ステーション時代に向かって宇宙での放射線環境を予測するシステム(宇宙天気予報)と共に実時間でそれらの計測を行う手法の確立がこの実験の目的である。

過去の宇宙実験の成果
 放射線の生物学的効果は線量当量によって評価される。線量当量は線質係数と吸収線量の積であるが、線質係数はLET(線エネルギー付与)の関数となっていて、吸収線量はLETを積分した量となっている。したがってLETを直接計測することが、線量当量を計測する直接的な手段になる。宇宙放射線環境では、LETにして0.2keV/μm(最小電離粒子による寄与)から1000keV/μm(検出器中で止まった鉄による寄与)までの粒子が飛来してきていると考えらる。我々は既に1994年の第2次国際微小重力実験室(IML−2)において5keV/μm以上、1996年のSTS−79において3.5keV/μm以上、1997年のSTS−84において0.2keV/μm以上の範囲のLET粒子の観測に成功した。

実験の原理
 STS−79の時に使用したS/MM−4型検出器はIML−2型検出器を発展させたもので、図1に示すように3枚の2次元電荷分割型位置検出器(PSSD−1〜PSSD−3)を用いている。このテレスコープ型検出器は、3.5keV/μm以上のLET領域で測定が可能であるが、低LET領域の測定には不向きだった。このため、STS−84で使用したS/MM−6型検出器は、図2に示すように低LET粒子も検出できる新しいタイプの2次元ストリップ電極型位置検出器3枚を並べたテレスコープを使用する。このテレスコープにより0.2keV/μmから600keV/μmの範囲のLET粒子を計測することができる。

期待される成果
 S/MM−4型及びS/MM−6型検出器で測定することにより、0.2keV/μm以上の範囲で計測が可能となり、全体としての評価が期待できる。特にSTS−91では、同じフライトで両検出器により計測が行われるため、同時期の全線量当量のデータが取得できる。


Last Updated : 1998. 5.27