7.3.1 EMU(船外活動ユニット) 

 EMUは宇宙飛行士を宇宙環境から保護するとともに宇宙飛行士の生命を維持して、船外活動を行うための装置です。

 EMUはさらに次の3つの部分から構成されます。

  a. 宇宙服(SSA:Space Suite Assembly)

  b. 生命維持システム(LSS:Life Support System )

  c. 補助的装備(Support Equipment )

 EMUは計画上約6時間半のEVAが可能です。ただし、酸素の消費には個人差があるため、実際にはもう少し長時間の作業が行われることがあります。
 EMUの構造を図7-2 に示します。

 

図7-2 EMUの構造

(出典:National Space Transoprtation System Referance, Volume 1 Systems and Facilities )

 

(1)宇宙服(SSA:Space Suite Assembly)

 宇宙服は搭乗員の胴体、四肢、頭部を包み込む人間の形をした圧力容器で構成され、重さは約120Kgです。又、サイズは各パーツ毎にとりそろえてありますので、その組合せにより大体の人のサイズに合うようになっています。

 図7-3 に宇宙服着用時の外観を示します。宇宙服は生命維持装置を装着して使用するので使用中の宇宙服の見かけはEMUそのものとなります。

 

図7-3 使用中の宇宙服の外観

(出典:EVA SUITS AND LIFE SUPRORT SYSTEMS G.LUTZ 1/10/91 )

 

a. 上部胴体(HUT:Hard Upper Torso)

 上部胴体は宇宙服の上半身である。次の4つの要素から構成されます。

  ・胴体部分

  ・腰部リング

  ・首リング

  ・保護服(TMG:Thermal Micrometeoroid Garment)

 胴の部分は硬いグラスファイバー製でこれに腕、ヘルメット、下半身、PLSS、DCM、それにミニワークステーションなどを取り付けることができるようになっています。

 この上から全体を保護服で覆うことにより厳しい外部環境から保護するようになっています。

 図7-4は上部胴体の外観。

 

図7-4上部胴体(HUT)の外観

(出典:EVA SUITS AND LIFE SUPRORT SYSTEMS G.LUTZ 1/10/91 )

 

b. 下部胴体(LTA:Lower Torso Assembly)

 宇宙服の下半分で、腰部、大腿部、膝部、ブーツ等から構成されます。

 この下部胴体の最上部の腰部リングが、宇宙服を装着するときの接合部となります。

 図7-5は下部胴体の外観。

 

図7-5 下部胴体(LTA)の外観

(出典:EVA SUITS AND LIFE SUPRORT SYSTEMS G.LUTZ 1/10/91 )

 

c. グローブ

 手を保護するとともに指先を動かして、ある程度の細かい作業ができるように作られています。

 表面が非常に高温あるいは低温のものを取り扱う場合はオプションとして耐熱ミトンを使うことが出来ます。今年から使用されている宇宙服は、低温環境に耐えるために指先にヒーターをつけています。

 図7-6はグローブの外観。

 

図7-6 グローブの外観

(出典:EVA SUITS AND LIFE SUPRORT SYSTEMS G.LUTZ 1/10/91 )

 

d. ヘルメット

 ヘルメットはEVA中のクルーの頭部を熱的環境や太陽からの強烈な日ざしから保護します。金でコーティングした可動式日除け等が装備されています。

 図7-7はヘルメットの外観。

 

図7-7 ヘルメットの外観

(出典:EMU Systems Training work book(EMU SYS 2102))

 

e. 通信用ヘッドセット(Comm Cap)

 マイクロフォン、イヤフォン、電子回路などを組み込んだ柔らかい布製の帽子で頭にかぶって使用します。NASAでは、スヌーピーキャップと通称されています。

 

f. 冷却服

 からだの形に合わせた柔軟性のあるスーツで次のものから構成されます。

  ・スーツ

  ・冷却水パイプ

  ・酸素還流パイプ

 素肌に着用し冷却水により体表から余分な体温を取り去るとともに宇宙服の末端から換気ガスを生命維持装置に還流させるパイプを支えています。

 また、心電計信号調整器や放射線被曝量を管理するための線量計を収めるポケットが取り付けられています。

 

g. 集尿具

 男性用(UCD:Urine Collection Device )と女性用(DACT:Disposable Absorption Containment Trunk )があり、冷却服の下に着用します。32液量オンス(約950cc )の容量あるいは吸水保持能力があり、使い捨ての用具です。

 

h. 心電図キット(Biomed kit)

 EVA中のクルーの心電図を地上でモニターするためにクルーにとりつける電極、コード信号調整器その他の小物から構成されています。

 

i. 飲料水バッグ(Drink Bag )

 21液料オンス(621.6cc )の飲料水の入れ物。宇宙服胴体内側ヘルメットのネックリングのすぐ下側にとりつけます。

 

 

(2)生命維持システム(LSS)

 LSSは、宇宙服の中の気圧と温度をコントロールし、呼吸用の酸素や電力を供給する装置で、宇宙服の背中に取り付けられています。中の酸素は再循環させており、水酸化リチウムカートリッジで水分や二酸化炭素を取り除いています。万一故障などで酸素が供給できなくなった場合に備え、バックアップ用の酸素タンクも装備してあります。宇宙服内は、約0.3気圧の純酸素で満たされておりその環境をLSSが維持します。生命維持システムは次の5つのサブシステムから構成されます。

  ・主生命維持システム(PLSS:Primary Life Support System )

  ・水酸化リチウム(LiOH)カートリッジ

  ・バッテリ

  ・表示制御モジュール(DCM:Display and Control Module)

  ・二次酸素パック(SOP:Secondary Ozygen Pack )

 図7-8 に宇宙服に装着したLSSを示します。

 

a. 主生命維持システム(PLSS)

 図7-8に主生命維持システムの外観を示します。

 

図7-8 宇宙服に装着したPLSS

 

b. 水酸化リチウム(LiOH)カートリッジ

 水酸化リチウムカートリッジは水酸化リチウム、活性炭、微粒子フィルターの3層から成り、呼吸用酸素浄化のために次の機能を果たします。

  ・微量成分(有毒ガス)の吸収

  ・二酸化炭素の吸収

  ・固体の微粒子や水酸化リチウムの塵の拡散防止

 活性炭層で微量成分を吸収、水酸化リチウム層で二酸化炭素を吸収し、微粒子フィルターで水酸化リチウムやその他の固体の微粒子を捕らえて宇宙服内に拡散するのを防止します。PLSSの背中に取り付けて使用し、軌道上(シャトル内)で交換可能です。

 図7-9 に水酸化リチウム(LiOH)カートリッジの構造を示します。

 

図7-9 水酸化リチウム(LiOH)カートリッジの構造

(出典:EVA SUITS AND LIFE SUPRORT SYSTEMS G.LUTZ 1/10/91 )

 

c. バッテリ

 バッテリは銀亜鉛電池を使用しており、EMUの全ての電気機器の電源となります。通常のEVA作業(6−8時間程度)を行うには問題のない容量です。PLSSの背中に装着して使用し、軌道上で交換できます。また、PLSSに装着したまで充電することができます。

 表7-3にバッテリ仕様を示します。

 

表7-3 バッテリ仕様

 

d. 表示制御モジュール(DCM:Display and Control Module)

 表示制御モジュールは、宇宙服の胸部に装着されており、宇宙服の状態の表示と各機器の調節を行うためのものです。通信機器、温度調節、換気、電源、宇宙服内の気圧等の制御が可能なほか、警告警報システム(CWS)も装備しています。またエアロック内にいる間接続される酸素、冷却水、電力供給用のエアロックアンビリカル(SCU:Service and Cooling Umbilical )コネクタもDCMの前部に配置されています。

 図7-10 に表示制御モジュールの外観を示します。

 

図7-10 表示制御モジュール(DCM)の外観

(出典:EVA SUITS AND LIFE SUPRORT SYSTEMS G.LUTZ 1/10/91 )

e. 二次酸素パック(SOP:Secondary Oxygen Pack )

 SOPはPLSSが故障したり、PLSSの酸素が枯渇するといった緊急時に、自動的に切替わり最低30分間は、生命維持装置のバックアップとして酸素を供給します。SOPは、PLSSの底部に装着され、軌道上では再充填することはできません。

 図7-11 に二次酸素パックの構造を示します。

 

図7-11 二次酸素パック(SOP)の構造

(出典:National Space Transoprtation Referance. Volume 1 Systems and Facilities)

 

 

(3)補助的装備

 生命維持装置と宇宙服のほかに、様々な補助用具が準備されています。主なものとしては次のようなものがあります。

 

a. フードスティック

 包装ごと食べられる棒状に加工したフルーツ。布製の袋に入れ飲料水バックにマジックテープでとりつけます。(注:現在では宇宙飛行士からの要望がないため準備されていない。現在はEVA前に食事をとることがすすめられている。)

b. EMUライト

 ヘルメットにとりつけて使用するライト。

 図7-12はEMUライトの外観。

 

図7-12EMUライトの外観

(出典:EVA Prep/Post Training Workbook(EVA P/P2102)Rev.A JSC-23901 )

c. EMU TVカメラ

 ヘルメットにとりつけて使用するTVカメラ。船外活動中のクルーの視野をリアルタイムで船内あるいは地上でモニターするために使用します。

 図7-13はEMU TVカメラをヘルメットに取りつけた外観。

 

図7-13ヘルメットに取りつけたEMU TVカメラ

(出典:EVA Prep/Post Training Workbook(EVA P/P2102)Rev.A JSC-23901 )

 

d. テザー(手首用と腰部用)

 EVA作業時に機器を一時的に繋ぎ止めておくためのベルト状のもので、手首テザーはEVA機器を使用中や移動中に失わないために利用し、腰部テザーはEVA中のクルーを宇宙船に繋ぎ止めておく(セーフティテザーにつなぐ)ために使用、又は、他のクルーを繋いでおくために使うこともあります。

 図7-14は手首テザー。

 

図7-14 手首テザー

(出典:EVA Contingency Operations Training Workbook(CONT OPS 2102)Rev.A )

 

f. 手首ミラー

 宇宙服の手首に伸縮性のベルトでとりつけ、胸に装着している表示制御モジュールの表示等をこのミラーに反射させて読みとるために使用します。(ヘルメット装着時には胸部は見えなくなるため。)

 

g. 耐熱ミトン

 7層の素材から成る2本指の手袋。宇宙服のグローブの上から装着し、高温あるいは低温のものを取り扱うときに使用します。

 

h. 船外活動時計

 手巻き式のアナログ時計。右側グローブの時計ベルトにとりつけ、高温と宇宙塵から保護するため、カバーで覆うことができます。

 

i. EVAカフチェックリスト

 EVA作業の手順やEMUの不具合対応などを表示するもので、手首にとりつけて使用します。

 

j. 船外活動はさみ

 ステンレススチール製の外科用はさみを改造したもので、耐熱覆い、ワイヤ、テザーなどを切断するのに使用します。

 

(4)スペースシャトルのEMU装備

 スペースシャトルの各フライトごとに、EVAを実施するためのEMUの装備は若干異なりますが、表7-4 に示すようにEMUはシャトルのエアロック内に搭載されています。

 

表7-4 スペースシャトルのEMU搭載状況