微小重力を用いた多成分会合コロイド系の相挙動の研究

更新 2020年7月30日

山中 淳平 YAMANAKA Junpei

名古屋市立大学 医薬学総合研究院(薬学) 教授

福井大学工学部 助手、JST ERATOプロジェクト研究員をへて、1999年度より名古屋市立大学。2019年度現在、医薬学総合研究院(薬学)教授。

Colloidal ClustersStudies on phase behavior of multicomponent colloidal clusters under microgravity

実施中
研究目的 正と負に帯電させたチタニア粒子の会合体(クラスター)の構造と会合数分布を調べることにより、平衡状態図(相図)を得ることが目的です。また、小さいために測定が難しいですが、チタニア四面体クラスターの光学特性の測定を試みます。
宇宙利用/実験内容 正と負に帯電させたチタニア粒子を仕込んだ試料バッグに圧力を加えて、バッグ内の仕切りを破り、軌道上で試料を撹拌・混合します。その後、2日ほど静置することによって、正負の粒子を会合させてクラスターを形成します。その後、紫外線を照射してゲル化固定します。ゲル化固定させた試料を地上に持ち帰り、研究代表者の研究室で分析し、状態図としてまとめます。
期待される利用/研究成果 フォトニックバンドギャップと呼ばれる光を通さない波長帯を有するフォトニックマテリアルを作るための最小構成要素である四面体クラスターを安定的に得る条件を求めることができます。フォトニックマテリアルを作ることができれば、光メモリ、光共振器、超低損失光導波路等の理想的なオプトデバイスを作ることができるようになります。さらには、フォトニックバンドギャップ端付近では屈折率を負にすることができると言われています。これを利用すれば、完全レンズ、透明マント、完全な電磁シールド等の実現が期待されます。

関連トピックス

詳細

共同研究者

  • 奥薗 透 (名古屋市立大学医薬学総合研究院(薬学) 准教授)
  • 豊玉 彰子 (名古屋市立大学医薬学総合研究院(薬学) 講師)
  • 樋口 恒彦 (名古屋市立大学医薬学総合研究院(薬学) 教授)
  • Dr. Jitendra Mata (Australian Nuclear Science and Technology Organization, ANSTO)

要旨

微小重力を用いた多成分会合コロイド系の相挙動の研究(以下、Colloidal Clusters)ミッションでは、正と負に帯電させた微粒子を混合・撹拌した後に静置し、所定の時間内に正と負の微粒子が何対何で結合(会合といいます)するのかを条件を変えて調べます。地上では、会合する早さよりも早く沈殿してしまうので、微小重力環境を利用して沈殿を防ぎます。図1には地上実験で得られた会合数1から4までの共焦点蛍光顕微鏡画像を示します。赤が正に帯電させた粒子、緑が負に帯電させた粒子です。微小重力実験では、会合数4のクラスター(会合体のことです)をなるべく多く得るための条件を探します。

図1 会合数1~4の場合の地上実験結果例1

実験の概要

近年、フォトニックマテリアルやプラズモニックマテリアルと呼ばれる特別な人工物質の研究が盛んです。フォトニックマテリアルとは、光を通さないフォトニックバンドギャップを有する物質のことです。あらゆる方向から見て、フォトニックバンドギャップが存在するものは3次元フォトニックマテリアルと呼ばれますが、まだ実現していません。3次元フォトニックマテリアルの特徴は、例えば、メタマテリアルと同様の負の屈折率を実現し、perfect imagingが可能※1、3次元フォトニックバンドギャップ※2 による光閉じ込めや超低損失の光導波が可能、屈折率分布を制御してクローキングが可能※3と言われています。

  • ※1:M. Notomi, Rep. Prog. Phys. 73, 096501(2010)
  • ※2:K. M. Ho, C. T. Chan, and C. M. Soukoulis, Phys. Rev. Lett. 65, 3152(1990), K. Edagawa, S. Kanoko, and M. Notomi, Phys. Rev. Lett. 100, 013901(2008)
  • ※3:T. Ergin, N. Stenger, P. Brenner, J. B. Pendry, M. Wegener, Science 328, 337(2010)

しかし、3次元フォトニックバンドの形成は容易ではありません。これを実現するには、ダイヤモンド構造が必要と言われています。一例として、図2にSiダイヤモンド構造のフォトニックバンドを示します。図中の斜線部が3次元フォトニックバンドギャップです。Siではバンドギャップの波長帯が極めて短波長なので実用に供することは難しいですが、高屈折率のチタニア(TiO2)を用いれば、可視光帯にバンドギャップを形成することが可能と予測されています。

ダイヤモンド構造ならばフォトニックバンドギャップが得られることは予測されていますが、ダイヤモンド構造はコロイド結晶では安定相として出現しません。そこで私たちは、正四面体を最小要素として積み上げれば、擬似的にダイヤモンド構造を得ることができるのではないかと考えています。そのためには、安定的に正四面体クラスターを得る必要がありますが、平衡状態図といった基本的な情報さえ存在しないため、正四面体クラスター作製条件を試行錯誤で探しているのが現状です。特に、チタニアのような比重の大きい材料の場合、地上では短時間で容器の底に沈降してしまうため、平衡状態図を得ることは困難です。

そこで、微小重力環境において、正および負に帯電させたコロイド微粒子を混合し、会合数と会合体の形状・構造を調べます。特に、ダイヤモンド構造の最小構成要素となる正四面体クラスターを効率的に得る条件を探ります。微小重力下では、平衡状態に達するまでコロイド分散液を静置した後、ゲル化させて固定します。そのため、純水にゲル化剤を混合し、紫外線を照射してゲル化させます。固定した後、地上に回収し、会合数、会合体の形状・構造、異なる形状・構造毎の数密度分布を得て、平衡状態図を作成します。さらに、大きさが非常に小さいため測定が難しいのですが、正四面体クラスターの光学特性を測定し、フォトニックマテリアルとしての基本的な性能を調べることを試みます。

図2 Siダイヤモンド構造のフォトニックバンド

実験装置

装置概要

本実験では装置と呼べるほどの複雑な機構・構成ではなく、供試体レベルの簡便で安く早く作ることを目標としました。供試体には、合計28個の試料バッグを収納可能で、供試体の天板には試料をゲル化固定させるための紫外線LEDユニット(市販品)を取り付けています。紫外線LEDユニットに給電するためのコネクタを1個供試体側面に取り付けています。外観を図3に、内部を図4に示します。

図3 供試体外観
図4 供試体内部(試料バッグはダミー試料)

装置の構成

供試体の構成を図5に示します。供試体筐体を構成する部材は、JAXAで描いた図面に従って外注にて機械加工してもらっています。また、ケーブルは外注にて製作しています。LEDユニットは市販品です。JAXAではこれらを組み立てて、各種試験を行い、機能的・性能的に私たちの要求を満足することを確認しています。

図5 供試体構成品

装置の主要構成品

供試体は図5に示された部品で構成されますが、これら以外に試料バッグ等が実験には必要です。図6に供試体以外の構成品を示します。試料バッグはガスバリア性の高いフィルム素材を熱融着して製作しています。図7には、軌道上に実際に打ち上げた試料バッグの一部を示します。小さいバッグですので、軌道上での紛失をなるべく防ぐ目的で、難燃性のノーメックスの紐でバッグを連結しています。

図6 供試体以外の構成品
図7 試料バッグ(試料はダミー試料)

仕様

器具類名称 数量 機能・性能
供試体 1式 •試料バッグを28個収納可能
筐体 1式 • 試料バッグ、試料固定板、紫外線LEDアレイ、LEDドライバを内蔵可能
• 材質: ジュラルミン(A2017-T3またはA2017-T351)
紫外線照射部 1個 • 型式: HLDL-306X244U6-SP
• 入力電圧: 多目的ラックのワークベンチ16 VDC
• 消費電流: 0.51 A max
• 消費電力: 9.0 W max
• ピーク波長: 365 nm(typ.)
• 重量: 2.5 kg以下
• LEDアレイドライバ内蔵
ケーブル 1本 多目的ラックのワークベンチの16VDCコネクタと供試体を接続し電力を供給

期待される成果

  1. フォトニックマテリアルの最小構成要素である四面体クラスターの研究を発展させることにより、革新的な光デバイス用新素材の開発につながります。具体例としては、光メモリ、光共振器、超低損失光導波路、完全レンズ、透明マント等が挙げられます(図7)。
  2. 宇宙実験結果とBrownian Dynamicsシミュレーション結果を比較することにより、シミュレーションモデルを検証できます。これにより異なる材質の結果を予測できるようになります。
  3. モデルの検証を通じて、クラスター間に作用する力を確認できます。クラスター間に働く力のメカニズムは単一粒子の場合と変わらないので、粒子間相互作用に関するコロイド物理の発展に貢献できます。
図7 実験の範囲と意義

参考資料


国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
有人宇宙技術部門 きぼう利用センター
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