全天X線監視装置(MAXI)搭載のSSCにより世界で初めてX線CCDによる全天マップの取得に成功

公開 2020年4月30日

宇宙航空研究開発機構
理化学研究所
大阪大学

国際宇宙ステーション(ISS)・「きぼう」日本実験棟 船外実験プラットフォームに搭載の全天X線監視装置(Monitor of All-sly X-ray Image:MAXI)は、観測装置SSC(ソリッドステートスリットカメラ)を用いた全天マップを作成しました。X線CCDを用いた軟X線帯域の全天マップとしては、世界で初めての結果です。

X線CCDは高いエネルギー分解能を持っているので、X線放射の物理的起源について詳しく調べることが可能となりました。今回の観測結果により1keV(キロ電子ボルト)前後の軟X線巨大X線構造(図1の赤色)が、銀河系内に分布する大規模な高温プラズマからの熱的放射であることが、はっきりしました。加えてこれまでより精度の良いマップが得られたことで、この巨大なX線構造の形態がよりはっきりしました。強度が高い部分に着目すると、銀河中心の北東を中心とする球形であり、一方、弱い強度分布まで調べると、その構造は銀河中心に対して対称である可能性も新たに示されました。

この成果は2020年4月発行の日本天文学会 欧文学会誌『 Publication of Astronosical Society of Japan(PASJ)』2020年第2号 に掲載され、得られた全天マップ画像(図1)は同誌表紙にも掲載されました。(掲載論文のタイトル:"MAXI/SSC All-sky maps from 0.7 keV to 4 keV")

図1:MAXI/SSCによる疑似カラー合成全天マップ。赤、緑、青はそれぞれ0.7-1、1-2、2-4keVに対応している。(出典:RIKEN/JAXA/MAXI team)

解説

これまで多くの観測によって電波からガンマ線にわたる電磁波の全天マップが取得され、様々な空間構造が確認されてきました。その結果、地球近傍から銀河系全体にわたるダストやガスの分布に始まり、ビッグバンの名残としての背景放射の観測による宇宙全体を支配する宇宙論パラメータに至るまで、種々の重要な情報が得られ、その中にはノーベル賞受賞に繋がった成果も含まれます。

1keV前後の軟X線帯域では、1990年代のROSAT衛星[1]の観測成果によって初めて全天マップが得られ、0.3keV以下と0.4-1.2keV帯域で、異なる空間構造が確認されました。最近の研究によれば、前者は、太陽風と地球近傍にある中性原子の相互作用による電荷交換反応(SWCX)が起源である可能性が高く、後者(銀河中心の周辺:銀経、l ±60°、銀緯、-30< b <60に分布)は銀河系内に分布する大規模高温プラズマの熱的放射である可能性が高いと考えられるようになりつつあります。近年この「軟X線巨大構造」と部分的に重複する天空領域に、フェルミバブルと呼ばれるガンマ線の巨大構造が見つかり、この軟X線巨大構造の起源の解明に新たな関心が向けられています。

MAXI搭載のSSCは2009年8月に運用を開始し、JAXAと理化学研究所を始め多数の研究機関の参加のもとに現在も観測を継続中です。SSC以前には1990年代に活躍したROSAT衛星により軟X線マップが取得されましたが、ROSATと比較しSSCが優れる点が二つあります。1つ目はエネルギー分解能です。ガス比例計数管を使ったROSAT/PSPCに対して、MAXI/SSCはX線CCDを採用しているため、優れたエネルギー分解能を持っています[2]。2つ目は得られたマップのスムーズさです。ROSATは狭い視野で、半年かけて全天を観測しました。荷電粒子増加に伴うバックグラウンドの急増の影響により使えないデータがあった場合、結果として空間的な欠損が生じてしまいます。しかしMAXI/SSCはISSの周回に合わせて広い天空領域を繰り返し観測しています。こうして最終的にはそれぞれの場所を1000回程度し、それらを足し合わせることにより全天に渡りスムーズなマップを実現しました。

図1が今回得られたMAXI/SSCの全天マップで、これは0.7-1keV(赤)、1-2keV(緑)、2-4keV(青)に対応する疑似カラー合成となっています。ここには、ブラックホールや中性子星など天空に散在する多数のX線天体(点源)の他、赤色の広がったX線強度分布が見えています。今回の研究では、この広がった成分に注目しています。SSCのデータを利用すると、全天のどの場所に対しても精度の良いX線エネルギースペクトルが得られます。特に低エネルギーX線の強い800平方度あまりの領域(全天のおよそ50分の1)に着目した場合、もしSWCX起源の放射であれば図2の黒いエネルギー分布が期待されますが、実際得られたのは全く異なる形の赤のエネルギー分布でした。この観測されたエネルギー分布は、放射源がおよそ百万度の高温プラズマだと考えると説明できます。「すざく」衛星など全天の40万分の1程度の視野を持つ望遠鏡で複数の場所を局所的に調べた結果から、同様の結果が示唆されていましたが、本研究で初めて実際に全天を隙間なく調べることができました。

図2:MAXI/SSCがSWCXからのX線を観測した場合に期待できるエネルギースペクトル(黒)と、実際に得たエネルギースペクトル(赤)の比較
図3:MAXI/SSCで得た0.7-1keVのX線強度マップ(図1の赤と同じ)。「ほ座超新星残骸」、「はくちょう座スーパーバブル」や、銀河系巨大X線構造が見える。(出典:RIKEN/JAXA/MAXI team)

全天には広がったX線源が多数存在し、比較的大きなものでは図3に示した「はくちょう座スーパーバブル」や「ほ座超新星残骸」が知られています。今回着目した軟X線巨大構造はそれよりさらに大きく、特に強度の強い部分は図3の赤い点線で囲った領域に集まっています。もしこの部分が単一の起源を持つ構造であるとすると、地球から比較的近くにある超新星残骸であると考えられます。一方で強度は弱いながら、更に南側へこの構造が続いていることが判りました。その場合は、白の点線で囲ったように銀河中心に対して南北ともに同程度の大きさを持っているようにも解釈できます。その場合軟X線巨大構造が、フェルミバブル同様に我々の銀河中心に存在するブラックホールの活動によって作られた事を示唆します。今後SSCデータのさらなる解析や、将来の観測装置による研究が全天に広がったX線構造の起源解明につながると期待されています。

  • [1] 1990年代に運用されていたドイツのX線観測衛星ROentgen SATellite。ROSATの全天マップはこちらで公開 されています
  • [2] ただし放射線損傷により性能が徐々に低下していくため、本研究では観測開始から2年間(2009年8月から2011年8月)のデータを用いました

補足

全天X線監視装置(MAXI)は2009年8月からISS「きぼう」船外実験プラットフォームで運用を開始しました。MAXIにはGSC(ガススリットカメラ)とSSCの2種類の科学観測装置が搭載されています。GSCは2-20keVのX線に感度を持つガス比例計数管で、大きな有効面積と高い観測効率で突発的に現れる天体の探査を得意とします。本研究に用いられたSSCは0.7-7keVの低いエネルギーに対する感度とエネルギー分解能に優れ、広がった放射の観測を得意とします。

本研究でも利用したMAXIの観測データはJAXA宇宙科学研究所のデータアーカイブシステム(DARTS)から提供されています。本研究で得た研究者向けのSSC全天マップデータもDARTSから配布を開始すると同時に、一般向けの観測データ早見システムJUDO2からも利用できるようになりました。

論文情報

雑誌名
Publications of the Astronomical Society of Japan
論文名
著者名
責任著者:中平 聡志(宇宙航空研究開発機構)
共著者:常深 博(大阪大学)、冨田 洋(宇宙航空研究開発機構)、中島 真也(理化学研究所)、片岡 龍峰(国立極地研究所)、牧島 一夫(カブリ数物連携宇宙研究機構)
DOI
10.1093/pasj/psz139

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