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筑波宇宙センターでの記者会見

会場風景
 2001年1月19日(金)、STS-92ミッション報告会の後、筑波宇宙センターで若田宇宙飛行士らSTS-92クルーの記者会見が行われました。
 初めに、クルーからの挨拶があり、その後質疑応答が行われました。以下にその様子をご紹介いたします。

若田:今日は国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟の開発の中心である筑波に、一緒に飛んだSTS-92クルーと一緒に、ミッションの報告に来られたことをとても嬉しく思います。
 今回のフライトでは、私はロボットアームの操作を主に担当しました。この操作により、Z1トラスとPMA-3という構造物を宇宙ステーション側に取り付けたり、こちらにいる4人のミッションスペシャリストが船外活動するときの支援を行いました。


Q1:「きぼう」日本実験棟をご覧になった感想と、それから、これから「きぼう」が国際宇宙ステーションでどんな役割を果たすだろうかという期待感、可能性を教えてください。

若田:3年以上にわたってSTS-92の訓練や準備を重ねてきた関係で、なかなか筑波の方に戻ってくる機会がありませんでした。今日はここで、「きぼう」の開発状況を見てみましたが、実際に飛行品が着々とここに集められて試験も順調に進んでいると感じました。そして、2004年から2005年にかけての打上げに向けて、「きぼう」の開発が確実に進んでいることを実感しました。
 今後は私もヒューストンの方に戻ってミッションスペシャリストとしての訓練を継続して行きます。その中で「きぼう」の開発、また運用の開発などの仕事を行うことになると思います。今後は、今までよりも近い形で「きぼう」の開発、運用の開発に携われると思い、それを楽しみにしています。
 ふたつめの質問については、日本の実験棟は色々な要素を持っています。例えば、船内実験室は、我々が普段着姿で微小重力を利用した様々な実験を行う施設です。また海外の研究者が非常に注目しているのは、船外実験プラットフォームです。これは、宇宙空間の微小重力に加え、高い真空レベルの環境を利用して実験を行う施設です。
 ロボットアームは、親アームと子アームの2種類のロボットアームがあり、宇宙飛行士が実際に船外に出て行かずに実験装置などの交換ができます。「きぼう」はユニークな実験設備になっていると感じています。

ダフィー船長:今回、国際宇宙ステーションで実際に作られる設備、宇宙機が世界中でどのように作られているか、見る機会に多く恵まれ、その中でもここ日本で組み立てられている「きぼう」は、まさにワールドクラスのものであると感じました。
 この「きぼう」が非常にユニークな設備および特徴を持ち、他の設備ではできないようなことができます。例えば小さなエアロックがあり、これにより、外の宇宙環境への実験装置などが曝露できるようになっています。こうした設備で色々な未知のものの研究ができると思います。今、多分こうなっているんだろうということ、ただしそれがなかなか実行できないようなもの、そういったものについて科学の色々な分野で「きぼう」が使われる事になると期待しています。


Q2:今回、カメラが故障したとわかった瞬間どう感じましたか。また、本日実際に「きぼう」のロボットアームを見て、ロボットアームのスペシャリストとして動かしたいなと思いましたか。
 さらに、「運用の開発」とは、わかりやすく言うとどういうことでしょうか。


若田宇宙飛行士
若田:最初の質問ですけれども、これはカメラの故障と言うよりも、スペースシャトルの電源系にショートがおきて、電力供給ができなくなったために、ふたつのカメラが使用できなくなりました。その瞬間に同じくコンピュータによる画像処理システム、これはビル・マッカーサーさんが操作しているシステムですが、そのスペース・ビジョン・システム(SVS)の方にも電源が行かなくなりました。これは、Z1トラスやPMA-3を宇宙ステーション側に取り付ける時に欠かせない重要なシステムです。
 訓練ではSVSが使えなくなったとしても組み立て作業ができるような訓練を、ヴァーチャルリアリティの訓練設備などを使って行っていました。
 ショートが発生したときには、実際に復旧作業をする必要がありました。そのときにどういう復旧作業のパターンがあるかということをクルーの仲間と相談したり、それからこの時は1時間もたたない内に地上では電力系の復旧をするときに必要な手順を作成して、我々に伝えてくれました。その作業を実行して、カメラふたつはもう使えませんでしたが、SVSの機能を回復させて作業ができました。実際にカメラが無い状況でも落ち着いて作業ができたと思います。
 そのショートが発生した瞬間は、今こういう状態になったけれども、どう対処すべきか、どういうオプションがあるのかということを直ちに考え始めました。地上からこのようにして復旧作業せよと命令が来ましたが、それを宇宙飛行士の間で妥当かどうかということを話し合って、そして実際の復旧作業に臨みました。ですから、訓練をしていたこともあって、その辺は落ち着いてできました。
 今日はクルー全員で「きぼう」のロボットアームを見ましたが、早く色々な動作の試験などに参加したいと思っています。じつは、私はこのSTS-92ミッションに搭乗が決定する前は、NASAの宇宙飛行士室の方で、カナダ製のロボットアーム、ヨーロッパのロボットアーム、そして日本のロボットアームの開発の支援の仕事をしていました。その時もシミュレータや実際に技術試験モデルなどに接する機会もあり、そういう実機に触れる機会をとても楽しみにしています。今年、夏にはまたそのような運用の操作性の評価試験などがありますので、ぜひまた筑波に来てそういう試験にも参加したいと思っています。
 最後の質問について、運用の開発とはどういうことかということですが、通常開発というのは「もの」を作ることです。運用というのは例えばロボットアームを操作するときの手順とか、ハードウェア自体は色々な作業をする能力を持っていますが、例えば装置の交換などの作業をするときその性能の内のどういうものを使って操作していくのが一番望ましいか、ロボットだけではなくその時に使うカメラがどういうもので、何人でその作業をするか、また宇宙飛行士3人が軌道上にいるときに誰がどういうことを担当して、ひとつのロボットアームの操作をしていくかということです。
 例えば自動車をどのように運転して目的地に行くとか、目的地に行く方法は色々あると思いますが、自動車の性能というものは予め定められたもので、そこから一番効率良く、ハードウェアの性能を最大限に活かしたり、もっと人間が作業しなければいけないものもあると思うので、そのバランスを考えながら、ベストな操作・作業方法を考えていく、それが運用の開発と言えると思います。


Q3:一週間の日本の滞在期間中に色々な報告会などに出席して、日本の人々の熱心さや期待感などを、どのように感じましたか。

ダフィー船長:素晴らしいプログラムを経験しました。行く先々で非常に暖かく歓待を受けました。私たちが帰還後に異なる都市を訪ねて、私たちがやったこと、学んだことを皆さんに話すことは非常に価値があると思いました。この宇宙ステーションの建設の過程で、こういうことは大事だと思いました。米国でもロシアでも同様ですが、日本の皆さんの支援は非常に重要です。皆さん今日来てくださいまして本当に感謝したいと思います。皆さんが、私たちのミッションの成功を助けて下さったのです。私たちのことを報道して下さったと言うことをここで改めて感謝したいと思います。

メルロイ飛行士:船長がすでにきちんと私たちの感情を非常にクリアにまとめたと思いますので、追加することはありませんが、若田宇宙飛行士と一緒に仕事をした、そしてクルーの一部として彼がいたということ、これは米国と日本の間で起こったことのひとつの象徴だと思います。そしてこの国際宇宙ステーションを作るという過程を象徴するものだと思います。それぞれが非常に大きなプロジェクトの一部を構成するものだと、そして我々は非常に大きな国際的な繋がり、日米だけではなく世界各国との繋がりをもつということです。船長からお話がありましたように私たちとしては私たちの経験、私たちの共同作業がいかにうまくいったか、NASDAとNASAの共同作業の成功、こういうものを国民の人と共有していきたいと思います。こういう共同プロジェクトはエキサイティングですし、宇宙は特に子供にとってエキサイティングだと思います。特に子供に科学あるいは宇宙に興味を持ってもらいたいと思います。スリリングなことです。無重量であることから宇宙で食事をするとか、どうやって非常に大きな実験棟を建設するかという経験も素晴らしいわけです。 日本に来れたことは大変素晴らしかったし、大変楽しい経験だったと申し上げたいと思います。

マッカーサ飛行士:宇宙に行って地球を見て、なんて美しい星だろうと、なんて美しい星に自分たちが住んでいるんだろうと感じられることは非常に重要なことだと思います。こうした宇宙開発の仕事の中で、本当に私たちが住んでいる美しい地球には、それぞれ違った文化がある。非常に厳しいスケジュールでしたが、そのなかで日本の美しい文化を理解して、寝る時間も確保しなければならなかったので、なかなか全部周り切れないという気持ちがあります。ただこうして宇宙に行くということ、地球全体が共有すること、そして日本の方々には大きなサポートを頂きました。そしてNASDAがISS計画に参加してくださること、それは大きな貢献です。

ワイゾフ飛行士:日本の皆様は本当に暖かく歓迎してくださいました。いろいろなところを訪問致しましたけど、本当に暖かく迎えていただきました。特にこのISS計画につきましては、両国がもっと学んで行かなければならない、これを若い人々にメッセージとして伝えたいと思います。宇宙開発を行うかどうかということのなかで、この宇宙ステーションの存在というものは子ども達に対するメッセージとして、常に新しいものを学ぶ、新しいものをどんどん吸収していく、こうした宇宙からのメッセージというものは、それぞれの人生のなかで、そしていつも新しいものを学んでいくことによって、大きな事を達成していけるのだという、そうした判断を教えることが大切だと思います。

ロペズ-アレグリア飛行士:この1週間の間に3つの場所を訪問しました。日本は初めてでしたので非常に印象深かったのですが、ニコン本社、IBM、三菱重工業、この3つは非常に印象的でした。重工業であれ、エレクトロニクスであれ、小型化、精密光学であれ、日本の技術的な能力は国際的な宇宙のコミュニティのなかで本当にトップクラスだという印象を得ました。そうした組織の中で、人々が独立したプロジェクトを支持していこうということ、そうしたことが非常に重要になってきます。私はどこへ行っても皆様に暖かく迎えていただきました。特に若田宇宙飛行士が部屋に入ってきたときの皆さんの表情を見ますと、今後も日本で大きな支持が得られるであろうということを認識しました。これは私たちクルーだけのことではなくて、実際に有人宇宙飛行というものは世界中で最も関心を持たれていることだと思います。ですからマスコミの皆様、是非ともこの私たちの情熱というものを世界に伝えていって頂きたい、私たちの目指すところを世界の皆様に伝えていって頂きたいと思います。

若田:メディアの皆さんには、宇宙開発、特に国際宇宙ステーションを広く国民の皆さんに正しく伝えていただき、感謝いたしたいと思います。おかげで、私たちクルーが、今回は東京、大阪、そしてまた筑波で帰国報告を行いましたが、いずれのところでも皆さんが非常に熱心に歓迎して下さり、とても興味深い質問がたくさん出てきて、有人宇宙開発、日本が参加している国際宇宙ステーション計画に対する期待が非常に高いということを強く感じますた。ぜひ我々はその期待に添えるようにがんばっていかなければいけないという思いを新たにしています。
 16ヶ国の国際協力で進められている国際宇宙ステーション、これが人類が進めていく本来の形での国際協力プロジェクトになっていくことを期待しています。今後地球の環境を守っていくことは私たちみんなの義務です。また、それと同時に人間の活動領域を広げていくこと、月面、火星へと私たちのフロンティアを広げていくときに、一国でそれを進めていく時代ではなく、国際協力なしでは行っていけない時代だと思います。そういう意味で、日本もその中で重要な役割を果たして行かなくてはいけないと思いますし、必ず果たしていくと思います。その日本の国から参加している宇宙飛行士として、私も是非みんなの期待に添えるようにがんばりたいと思っています。


司会:若田宇宙飛行士がSTS-92ミッション期間中に和歌を詠んだことについて、宮内庁からご連絡がありました。それについて若田宇宙飛行士から報告願います。

若田:今朝10時頃、宮内庁の渡辺侍従長の方から、皇后陛下から私が今回のミッション中に短歌を詠んだことにつきまして、非常に嬉しく感じていらっしゃるということで、お礼のお電話を頂きました。じつは5年前になりますけれども、STS-72というスペースシャトルミッションで、日本のH-IIロケットで打ち上げられた実験観測フリーフライヤー(SFU)の回収を行いました。それはここにいるダフィー船長がコマンダー・船長として私と一緒に搭乗した飛行でした。その宇宙飛行の後に、皇后陛下が宇宙飛行士たちのことを、短歌に詠んでくださいました。私も大変嬉しく思いまして、ぜひ次回宇宙に行ったときに、短歌を詠んでみたい、お返しの歌を詠ませていただければと感じておりました。この飛行中、STS-92国際宇宙ステーションの組み立て飛行中に、地球の美しさ、尊さをまた新たに感じながら短歌を詠みました。その件に関しまして、本日皇后陛下よりお言葉を頂きました。


 
最終更新日:2001年1月26日

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