| 会場風景 | | 2001年1月19日(金)午後1時から筑波宇宙センターにて、関連機関、つくば市近隣の研究機関の研究者および技術者を対象に、若田宇宙飛行士とSTS-92クルー一行によるSTS-92ミッション報告会を開催しました。
ダフィー船長によるクルー紹介の後、スライドやビデオを上映しながら、STS-92ミッションの様子がクルーから報告されました。 最後に質疑応答の時間がもうけられましたので、以下にその様子をご紹介します。
Q1:宇宙で食事をするとき、飲み込んだ後の感覚は、地上だと胃袋の方に落ちていく感じがしますが、宇宙ではそれがどの様に感じるのでしょうか。
若田:宇宙では、食べ物を食べるとき、それが液状のものであっても、ご飯のようなものであっても、地球上で飲んだり食べたりする感覚とほとんど変わりませんでした。ですから特に飲み込むのが難しいとか、もたれるような感覚というものもありませんでした。食道部の蠕動(ぜんどう)運動(ものを飲み込む機能)は逆さまでもそのままずっと上がっていきますので、そんなに地上とは変わらないと感じました。
ただ、味噌汁も含めてほとんどの飲み物は、こぼれないようにストローで飲みます。コーヒーとか味噌汁というようなものまでストローで飲むというのは、味気ないような感じがしましたが、いったん口に入った後は地上とほとんど同じ様な感覚でした。
Q2:今回のミッションの中でいろいろ有った不具合は、地上でのシミュレーションの中では経験されたことだったんでしょうか。
ダフィー船長:常にそういった不具合を予期しています。うまくいくことをいつも前提としていますが、何か問題があったときにはちゃんと対応できるように、だいたい訓練の半分以上は、何か問題が起こったときのための準備にあてています。
今回のミッションの中でいくつかの問題がありましたが、それによって軌道上の手順、手続きが一部変わりました。先ず最初はKuバンドシステム(高速データ伝送系)の故障です。もうひとつはランデブーレーダの故障がありました。このレーダを使うことによって、ISSにアプローチするときに自分たちの位置を正確に決めることができるのですが、それが使えないため、レーダ無しでランデブーを行いました。ランデブーの訓練の約3割は、レーダが使えないという訓練を積んできました。 もうひとつは電源回路の一部にショートが起った件です。これについての訓練は行っていませんでした。ただし地上のミッションコントロールチームとの間で、他の失敗の準備は整えてきましたので、こういった状況が起こっても簡単にそれに対応することができました。2時間以内に他のやり方をしたら良いということが決まり、そして予定の時間内に作業を終えることができました。
Q3:宇宙ロボットのイメージおよび、宇宙飛行士の立場からこういう宇宙ロボットがあれば便利だというものが有れば教えてください。
若田:またヒューストンの方に戻ると、私たち宇宙飛行士は、テクニカル・ジョブ・アサインメントといういろいろな仕事をして行きます。そこで私は宇宙ステーション用のロボットの運用の開発の仕事、スペース・ビジョン・システムなどの運用の開発の仕事をしていきます。ですから、私が担当する業務は、実際にアメリカ人ひとり、ロシア人ふたりの3人の宇宙飛行士が軌道上で仕事を始めている国際宇宙ステーション、その運用の支援の仕事になります。「きぼう」日本実験棟のロボットアーム、カナダ製の2種類のロボットアーム、またヨーロッパ宇宙機関もロボットアームを1種類作っており、その支援が主な業務になります。 将来的に私がこういったロボットがあったら良いなと思っているものはいくつかあります。例えば宇宙ステーションの周りをかなり自由に飛び回り、目視検査を色々なところからできるカメラです。 土井宇宙飛行士が飛行したSTS-87ミッションでは、その時にもサッカーボールの様なカメラを船外に飛ばす実験がありました。そのような、宇宙ステーションの外観を検査するようなロボットも宇宙ステーションでは重宝がられると思います。それからまた、宇宙ステーションの中の作業においても、単純な作業、スイッチを入れたり、オフしたりとか、それからある一定の時間毎に繰り返し作業をしてくれたり、手順書を持ってきてくれるようなロボットだとか、船内での宇宙飛行士の活動を支援してくれるようなロボットなども、将来的にはとても興味深いロボットになると思っています。
| 会場風景 | Q4:ひとつ間違えますと自分の命がかかっているという大変なお仕事だと思いますが、最初宇宙に出発するとき、仕事しているとき、地球に帰ってきたときの心理状態を教えてください。ふたつめは、睡眠中に夢などを見られたかあるいは幻聴など聞こえないものが聞こえたり見えないものが見えたりとか、異常な体験をされたことがあれば教えてください。3つめは知覚とか感覚、あるいは感情が宇宙に行って何か変わったことがありましたら教えてください。
ウイリアム・マッカーサー飛行士:恐怖を感じたか、どういう心理状態かということについて回答します。ミッション前の最大の不安というものは、やはり失敗の不安です。山のような時間を費やし、地球を代表して宇宙に行くのに、私自身が失望するだけではなくて、多くの人たちを失望させてしまうということです。
長い間訓練、しかも素晴らしい訓練を受けたのでで、私たちの心配は取り去られました。 それからまた多くの人たち、一緒にこのハードウェアを作った人たちに射場で会いました。これは米国におきましても日本におきましてもそういう人たちは沢山いるわけです。スペシャリスト、エンジニアがロシア、カナダ、全てのISSに加盟している国にもいます。こういう人たちに実際に会うことによって非常に安全な宇宙船を作っている、最も安全な器材を使っている、人間が考える最も優れたものを作ってくれたのだと確信できました。勿論、宇宙飛行にリスクはあるわけですけれども、人間ができる最大の安全を期しての飛行だということを考えることで心配を克服しました。
マイケル・ロペズ-アレグリア飛行士:眠りについて回答します。どういう風に寝るかといいますと寝袋の中で寝ます。これは四隅が固定されていまして、好きな方向で寝られる訳です。寝袋からずれ落ちないようにするためにジッパーを上げます。寝袋に入らないと、あちこちにぶつかりますのでなかなか眠れないことになります。それぞれ個人的には違うかもしれませんけれども、やはり横になって自分の体重を背中に感じて寝たいなという感じがしました。実際に寝袋に枕はあるんです。ただ、何の役割も果たしませんが、最終的には実際に頭の後ろに枕を当ててこれにより、水平になっているという感覚を持とうとしているようです。 また薬を飲む人もいます。私は睡眠薬を最初の4,5日は飲みました。ただその後は作業が大変になりまして、睡眠薬なしでもゆっくり寝られるようになりました。ですから長期的なフライトになりますと、馴れてゆっくり寝られるようになるんだと思います。私は宇宙でも地球でも余り違いは感じませんでした。夢に関しまして時には見ましたけれども、宇宙で見た夢と地上で見た夢は余り違わなかったように思います。
ピータワイゾフ飛行士:3番目の知覚感覚について回答します。宇宙でどういう風に変わるかということですけれども、まず方向性が無重量下ではよくわかりません。どこが天井でどこが床というようなことがわかりづらくなります。そのモジュールの中で作業をしている人を見て、あれっ自分は天井に立っていたと気付くこともありました。また、他のクルーも床だと思って壁に立ったものの、すぐ気付いて位置をなおしたりするようです。宇宙の中で長期間いますと無重量のため方向性がわからなくなる、これが一番地上とは違った感覚だと思います。
Q5:重力の問題が非常に大きなものになってくると思うのですけど、その点について現宇宙ステーションでは重力を発生させる機構を持つようなことができますか。また、排泄の苦労話について、アポロ計画当時も苦労されていたようですけれど今、どの位改善されているのか聞きたいと思います。
ピータワイゾフ飛行士:宇宙ステーションで回転を発生させて重力を作るということについて、セントリフュージという装置があり、これを使用して生命科学の実験が行われる予定です。骨の中のカルシウムが不足してくるということが長期の宇宙滞在では考えられます。例えば火星計画では火星に行ったときに骨が充分強くなければ、そこの重力に耐えられないということがありますから、どの様にして、カルシウムが無くなるということを防ぐために、例えばセントリフュージの中に動物を入れて、その中で重力をかけるという実験を行う予定です。それによりまして、長期の宇宙滞在、宇宙飛行の場合の健康維持を研究していく予定です。
排泄については、スペーストイレットというものを持っていきます。これは電気掃除機をトイレで使うというように考えてください。地球ではご自分でお使いになるのはお勧めしませんけど。宇宙ではうまくいきます。そしてこれにつきましては、トレーニングを受けます。数時間フライト中に故障したということがありましたけれども、これについても事前に地上の訓練で対処方法をやっておきました。
Q6:皆さん7人でひとつのチームを組んでいますが、互いにコミュニケーションを取るために、日本では一緒に集まって食事をするということがお互いのチームワークを良くするひとつの方法がありますが、皆さんも楽しむために集まって食事をするということはあるんでしょうか。
若田:私たち3年間に渡って一緒に訓練を続けてきた仲ですが、一緒に食事をする機会というのはいろいろとあります。1ヶ月か2ヶ月に1回くらいは家族共々に誰かの家庭に集り、手料理をみんなで作って、いろいろ話をしながら食事を楽しむような機会があります。また、実際に宇宙に行った環境を模擬したシミュレータという模擬訓練施設の中に入って訓練を行いますが、その作業は例えば8時間とか長い時間にわたります。そういうときには、シミュレータでスペースシャトルとかロボットアームを動かしながら一緒に食事をとります。このような過程を通じてうまくコミニュケーションが図られるようになってきたと思います。日本では少し古い言葉で飲みにケーションという言葉があります。仕事が終わった後、同僚と飲みに行くことも宇宙飛行士の間でも若干あります。 このクルーは7人3年以上にわたって、非常にチームワーク良く訓練できたと思います。ですからそのおかげで、実際に軌道上に行ってもいろいろなトラブルがありましたが、目的のミッション全てを達成することができたと思います。
ただ、宇宙での仕事というのは宇宙飛行士だけで行われるのではなく、地上の管制局、つくばも日本の実験棟「きぼう」の管制局になりますが、その運用する全体のチーム、その全体のコミュニケーションがうまく働かなければ宇宙飛行は成功しないわけです。ですから私たちも、宇宙飛行士だけではなくて、実際にミッションに携わる人々みんなのコミュニケーションをできるだけ良く図れるように進めています。
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