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宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター
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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
【国際宇宙ステーションと世界の旅】 Vol.9 第九日目 イタリアはねずみがお好き?
Buongiorno! Come Sta?
 皆さんはイタリアと言うとどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
イタリア料理、サッカー、ラテン、楽天的、デザイン、芸術、歴史、バチカンといったところでしょうか。塩野七生をずっと読んでいたわたしには、2000年前にヨーロッパ世界に帝国を築いた、ローマ人の物語が一番に思い浮かびます。そのイタリアとの縁は“ねずみ”が取りもってくれました。

 20世紀中盤の米ソの宇宙開発競争では、最初に宇宙に人類を送り込むにあたっていろいろな動物がその先導役を努めました。たとえば1957年にスプートニク2号で宇宙に行ったロシアのライカ犬が有名です。現在でも動物を用いた実験は宇宙飛行士が被験者になるだけでは出来ない、生体の変化の研究のために重要です。第一話で出てきたメダカ実験もそのひとつですが、地上での研究データの蓄積がたくさんあるマウスを使った実験の重要度は高く、NASAではスペースラブ用にResearch Animal Holding Facility スペースシャトル用にAnimal Enclosure Moduleと言う飼育装置を設計し、多くの実験を行ってきました。

Research Animal Holding Facility(RAHF)
Research Animal Holding Facility(RAHF)
写真提供 NASA
 
Animal Enclosure Module(AEM)
Animal Enclosure Module(AEM)
(RAHFは向井宇宙飛行士がバックアップを勤めたニューロラブ計画でも使用されました。)
 宇宙ステーション時代になっても動物を飼育する装置の検討は行われてきたのですがRAHFやAEMをつかった実験で直面した、無重力の中での糞尿処理(排泄物が、装置内を漂ってしまいますからね)や動物が受けるストレスの問題の解決はなかなか難しいものでした。日本が水棲生物実験装置を分担したのと同じように、宇宙ステーション用のマウス飼育装置に挑戦したのは、イタリア宇宙機関Agenzia Spaziale Italiana; ASIです。

 2005年の夏に、イタリア フラスカティで、この新たに設計する動物飼育装置の性能や利用方法についての国際間での調整会議がおこなわれました。フラスカティはローマ郊外の歴史の古い町で、中世のイタリア貴族の別荘(ヴィラ)がたくさん残っている美しい場所です。試みにGoogleマップで「フラスカティ イタリア」と入力してみると、スペイン広場を中心にして円を描くローマの環状線から10kmほど西に位置していることがわかります。ここにはヨーロッパ宇宙機関の研究所 ESRINがあり、宇宙ステーション関係の国際会議もしばしば行われています。
European Space Research Institute(ESRIN)
European Space Research Institute(ESRIN)
 
アルドブランディーニのヴィラ
アルドブランディーニのヴィラ
 イタリア滞在で楽しみなのは、おいしいワインとイタリア料理、美しい工芸品です。イタリアの夏の夜は長く、長い会議が終わった後に街に出てもまだまだ宵の口、夜の10時過ぎになっても、まだこれからが本番と言う感じでたくさんの人が繰り出してきます。まさに「Mangiare(食べて)、Cantare(歌って)、Amore(愛して)」。この陽気に人生を謳歌している人々が2000年前に質実剛健な組織国家を作ってヨーロッパを制覇したローマ帝国の末裔とはちょっと信じられないぐらいです。

 最終日は帰国便の出発が夜遅くだったため、ローマを見物する時間が取れました。街角の店では、デルタのドルチェビータと言う美しい万年筆を見かけました。日本で買おう買おうと思うたびに少しずつ値上がりし、なかなか手に入れられなかったものです。値札を見ると300ユーロばかり、ちょうど財布に残っていた現金で買えそうな額でした。

デザインが美しいDELTAのドルチェビータ万年筆
デザインが美しいDELTAのドルチェビータ万年筆
 
テルミニ駅の見取り図。
テルミニ駅の見取り図。
 しかしそのとき、「確かアメ横ではもう少し安かったよなぁ」と言う考えがよぎってしまったのが一生の不覚でした。ここで買い物を見送り、スペイン広場から地下鉄に乗り、ローマ中央のテルミニ駅について改札を出ようとしてズボンの前ポケットに手を入れると、財布が無いのです。ローマではすりが多いとは地球の歩き方にもでていましたから、満員電車の中でもバックパックは前に抱え、両ポケットは両手でしっかり押さえていたのに、どこで抜かれたのかまったくわからない、それは芸術的な盗まれ方で、悔しいながらも関心してしまいました。しかも右ポケットには小銭入れ左ポケットに財布があったのですが、しっかり財布のほうだけを取られてしまったのです。財布には現金の300ユーロのほかにクレジットカードが入っていたので、同行の上司にお金おを借りてあわてて日本に電話をかけてカードをとめてもらい、被害届を出すために警察にいくことにしました。駅員に聞くと警察は1番ホームのずっと先のところにあるとのことでした。見当を付けて行って見ると、なんだか10人ぐらいの人の列が出来ています。最後尾に並ぶと前の人から、「あんたもやられたね^^何とられたの?」と声をかけられました。全員がすりの被害なのです。ほかに日本人、アメリカ人、イギリス人、イタリア人も混じっていました。中にはパスポートと航空券もろとも取られたという人もいて、現金とカードだけと言うのはましなほうとのことです。婦警さんの簡単な事情確認のあと、「係官が食事に出ているので」との事で小一時間も待たされ、やっと現れたその担当官に、「あのう、地下鉄ですりに。。。」と話し始めたら
「ああ、じゃあスペイン広場駅ね、で、時間は3時過ぎだな、はいそれじゃこれが調書の控えだから、保険請求するなら使ってね、ハイ、次の人。。」
「おいおい、そこまでわかっててなんで取り締まらないんだよー」と思わず(心のなかで)突っ込みをいれてしまいました。

 今日でも、インターネットを検索すると、私とまったく同じ様な被害の報告がたくさん出てきます。ローマのねずみ小僧は今でも健在で活躍しているようです。

Mouse Drawer System (MDS)
Mouse Drawer System (MDS)
写真提供 NASA
 
写真提供 NASA
 その後、宇宙でねずみを飼うための実験装置はMouse Drawer System (MDS)としてASIによって完成されました。この装置は2009年8月にスペースシャトルディスカバリーによって日本の実験棟「きぼう」に6匹のマウスとともに運ばれ、それ以前の宇宙でのマウス飼育記録の22日間を大幅に更新する90日間の飼育実験に成功しました。ネズミは半分の3匹のみ生還できたので、実験としては完全な成功とはいえなかったのですが長期間の飼育に成功したのは大きな一歩です。

 皆さんもローマを旅することがあったら、ねずみの存在に思いを馳せて、十分ご注意ください。それではまた次の町で。

Grazie, Ciao!
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