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宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター
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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
【国際宇宙ステーションと世界の旅】 Vol.6 第六日目 ヨセミテバレーとシリコンバレー-重力が織りなす地上の美と、人工重力の夢-
写真1(ゴールデンゲートブリッジ上空のスペースシャトルエンデバー号 9月21日:出典NASAエイムス研究所)
写真1(ゴールデンゲートブリッジ上空のスペースシャトルエンデバー号 9月21日:出典NASAエイムス研究所)
 北米大陸にはダイナミックな自然の景観を楽しむことができる多くの国立公園があるが、その中でも季節の変化や、生態系の多様さ、アクセスのしやすさなどから、ヨセミテ国立公園をお勧めしたい。黒部立山アルペンルートのアメリカ版と言えるだろう。
 サンフランシスコといえば写真1のゴールデンゲートブリッジが有名だが、もう一つ大きな橋が湾をまたいでいる。対岸のオークランドを結ぶベイブリッジだ。この橋を渡り、そこからさらに車で約4時間200kmほどをひたすら西に向かって走るとカリフォルニア州とネバダ州を境するシエラネバダ山脈に突き当たる。この山脈のほぼ中央にヨセミテ国立公園の中心地であるヨセミテバレーがある。1000mの高さに垂直な壁として聳え立つ一枚岩・エルキャピタン、あるいは空高く浮かぶ半球形の岩塊・ハーフドーム等は年月をかけて氷河の重みが削りだした壮大な景観である。映画Star Trek Vの冒頭シーンでロッククライミング中のカーク船長とMr.スポックが重力についてのシニカル問答を交わす舞台にもなったのがこの地である、物語の世界では23世紀には人類は重力を自在に操る技術を有することになっているのだ。
 さて、現実に目を戻し公園を見回せば、数百メートルの落差をほとばしる数々の瀑布を目にすることができる。水が重力エネルギー解放の瞬間に見せる美しさに息をのむ。雪解けの水がほとばしる春先から5月頃に訪れれば、莫大な水量をもってヨセミテ渓谷に流れ下る数々の滝の壮大な美しさを楽しむことができる。
 また、ヨセミテには重力を克服しつつ、現存する生命としては最も大きく成長するジャイアントセコイアが林立する森がある。恐竜はいないが、太古の昔に戻ったような眺めだ。植物の細胞壁がどこまで重力に抗して生物体を維持することができるか、その限界への挑戦が見るものを畏敬させる。


写真2 ヨセミテ渓谷(高低差約1500m)
写真2 ヨセミテ渓谷(高低差約1500m)
 
写真3 ヨセミテ滝(約730m)
写真3 ヨセミテ滝(約730m)
 
写真4 大セコイア(約60m)
写真4 大セコイア
(約60m)
 これらの景観の壮大さはいずれも地球の重力が作り出したものであることに思い至る。国際宇宙ステーションの無重力の世界と対極が作り出す自然の美観だ。
 渓谷内のロッジに宿泊し広い国立公園の中でじっくりトレッキングを楽しみたいところだが、今日はもう一つの目的地があるので駆け足だ。帰りは南向きのルートをとり、カリフォルニアでもう一つのバレー、いわゆる“シリコンバレー”の中心のサンノゼを目指してみよう。この場合は中間地点のリバモア市から南に抜けてゆく道が便利だ。リバモアに近づくとアルタモント・パスの風力発電設備が見える。ハイウェイの両側に、5000機を超えるといわれる風車が立ち並ぶ様は、ヨセミテ国立公園の自然が見せるのとは別の迫力がある。このような巨大なウインドファームを3つ抱えるカリフォルニア州の風力発電量は州内の総電力需要の5%(2012年2月時点)とのことだ。リバモア市を通り過ぎ、南に向かうなだらかな山道を経由して、カリフォルニア湾の南の端サンノゼに至る。頑張ればヨセミテ日帰り弾丸ツアーが可能である。


写真5 丘の上に林立する風車が延々と続く風力発電所
写真5 丘の上に林立する風車が延々と続く風力発電所
写真6 カリフォルニア州の地形
写真6 カリフォルニア州の地形
 シリコンバレーは、写真6に見えるカリフォルニア湾の東岸を中心とした地帯である。渓谷とはいうものの、広くなだらかな地形が広がる。すぐ外側の太平洋を寒流が流れているの関係で、20℃前後の気温と低い湿度が保たれ、年間を通してエアコンが不要な快適な気候で、アップル社をはじめとする、多くのIT企業が集まる地域として有名だ。この地域の一角にNASAエイムズ研究センター(ARC)がある。ARCはNASAの中にあって、各種の風洞を有して航空工学研究、宇宙探査等の研究を行ってきた研究所であるが、巨大な飛行船格納庫でも有名であった。これは1930年代に飛行航空母艦USS-Maconの格納庫として建設されたもので、長らくシリコンバレーの一つのランドマークであったが老朽化のため本年(2012年に)解体されることとなったのは残念である。


写真7 飛行船格納庫 ハンガー1
写真7 飛行船格納庫 ハンガー1
 
写真8 ARC上空を飛行するスペースシャトル
写真8 ARC上空を飛行するスペースシャトル
 1990年代に、このエイムス研究所で国際宇宙ステーションに向けて2つの大きなプロジェクトが動いていた。Gravitational Biology ProjectとCentrifuge Projectである。
 重力が生物に与える影響を詳しく研究するためには、同じ生物を「重力のある状態」と「重力の無い状態」の2つの系に置いて、生じる変化をデータとして捉える必要がある。この実験の際には、重力以外のパラメータはすべて同等にそろえることが望まれる。
 これを実現するために、2つのハードウェアが想定されていた。ISSのモジュール径を直径とする大型の遠心機(Centrifuge)とその遠心機に実験生物を納めて取り付ける飼育機(Habitat)である。げっ歯類、魚類、昆虫類、植物等各種生物のためのHabitat開発をGravitational Biology Projectが担い、大型遠心機とそれを収納するモジュール開発をCentrifuge Projectが担当していた。このCentrifuge Projectについては1997年にきぼうモジュールの打ち上げを交換条件として日本が担当することになり、開発がARCから日本に移管されて開発がおこなわれた。完成すればISSは大型の人工重力発生装置を備えた生命科学実験室を持つ予定であった。


写真9 直径2.5mの遠心機の試作モデル
写真9 直径2.5mの遠心機の試作モデル
 
写真10 Centrifugeの構想図
写真10 Centrifugeの構想図
 2003年のスペースシャトルコロンビア号の事故はCentrifuge計画にも大きな変更を迫り最終的には2005年に計画の中止という形をとることになったのは残念である。途中まで製作されたCentrifugeモジュールは、現在では筑波宇宙センター内に展示展示されており、計画の名残をとどめている。
 その一方で、本コラムの一回目でご紹介した水棲生物実験装置は、当初セントリフュージ搭載を想定したHabitatの一つとして開発を進めてきたものであり、Centrifuge中止の苦難を乗り越えて今日を迎えた。
 最初の実験は10月下旬から行われる予定である。
 重力から解き放たれたメダカたちの実験にご注目いただきたい。


写真11 Aquatic Habitat
写真11 Aquatic Habitat
 
写真12 Centrifuge Accommodation Module
写真12 Centrifuge Accommodation Module
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