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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
【国際宇宙ステーションと世界の旅】 Vol.01 第一日目 砂漠の国で魚を飼う「カザフスタン バイコヌール宇宙基地から」
 <サレマツスズバ> こんにちは。
 今日ご案内するのは、カザフスタン共和国のチュタラムにあるバイコヌール宇宙基地、世界で最も古くそして今一番活躍しているロケット発射場です。国際宇宙ステーションに行く宇宙飛行士は古川さんも星出さんも、今は皆ここから宇宙に出発しています。それでは早速訪問してみましょう。

 Google等の地図検索サービスを開いたら検索窓に“バイコヌール宇宙基地”と入力してください。日本語でOKです。うまくできましたか?Syr Darya(シル川)の北側に大きくY字に広がる“バイコヌール宇宙基地“が表示されたら無事到着です。ここはソビエトが1955年に建設した発射基地で、世界最初の人工衛星スプートニク1号も、世界最初の宇宙飛行士、ユーリ・ガガーリンもここから宇宙に旅立ちました。今この地域はカザフスタン共和国からロシアが有料で借りている場所で、職員の多くが暮らす川沿いのバイコヌールの町はロシアとカザフの両方の行政機構が管理しています。

滔々と流れるシル川。流れは意外に速い
 
悠々川泳ぎを楽しむおじさんたち
 それでは、地図を目盛り4つ分くらいズームインして、バイコヌール宇宙基地の北側に鉄道路線を探してください。鉄道路線の先端にロシア語表示でСтартовая площадка (Launching pad) が発見できたら航空写真モードに切り替えてみましょう。
 茶色の大地に屹立するロケット発射台が見えましたか?国際宇宙ステーションに宇宙飛行士を送り出すソユーズロケットの発射台です。
 次はどんどんズームアウトしてみましょう。地図の左側に干上がったアラル海、さらにはその西にカスピ海や黒海が見えてくるでしょう。ここは中央アジアのほぼど真ん中のさばく地帯、風が吹けば砂嵐が起こり、らくだが闊歩する赤茶けた大地です。

町の近くを闊歩するらくだの群れ
 
灌漑による緑が対照的な街の中心
 この、水がもっとも貴重な資源と言える砂漠の中で、今私たちは魚を飼う準備を進めています。日本のメダカを育てて国際宇宙ステーションに打ち上げるためです。
 日本のメダカは、野外ではすっかり姿を消してしまいましたが、遺伝子配列が解読済みで有力な実験動物として実験室の中で多く飼育されています。無重力などの宇宙環境が生物に与える影響を、メダカを通して調べるのが目的です。そして、生き物であるメダカを国際宇宙ステーションに連れて行くには、人間が乗るのと同じソユーズロケットの力を使う必要があるわけです。

きぼうに搭載する水棲生物実験装置
 
装置の水槽で元気に泳ぐメダカ(地上試験)
 日本からモスクワを経由してメダカを運び、バイコヌール宇宙基地の中にある実験室で飼育をしながら、元気な宇宙飛行メダカを選抜して打ち上げます。飼育のための水も大量に日本から運ぶ必要があります。内陸の砂漠の国で手に入る水は硬度が高く不純物が多く含まれるので、うまく飼育するのが難しいのです。打ち上げの準備のために約2週間強、隔離された宇宙基地の中でメダカの準備をすることになります。この実験は2012年の秋の打上げを目指して準備しているところです。

 隔離された宇宙基地の中では単調な生活になります。テレビはありますがロシア語かカザフ語の番組が数チャンネル。小さな売店意外には店もありません。町に出るにはエスコート同乗の車で30分以上かかります。そんな中でロシア人のロケット技術者たちは、夕方バレーボールを楽しんでいます。地面がでこぼこなのでサッカーよりバレーボールだとのこと。
 一方わたしたちの楽しみは食事、そして夜更けの満天の星空です。食事もメニューが選べるわけではなくて毎食まかない方が用意してくれるのですが、肉のスープにうどんが入ったラグマン(ラーメンと発音が似ている?)、串焼きのシャシャリク、ロシア料理ですが壺の中でぐつぐつ煮えているアズー等々肉食系なら垂涎の味が楽しめます。中央アジアなので美味しいとんかつというわけにはいきませんが。

ガガーリンが打上前に過ごしたという基地内の家
 
北斗七星をかすめるISS
 長い夜更けの過ごし方は、星空散歩です。前を歩く人の背中も見失うような真っ暗な中、連れ立って夜空を見に散歩に出ます。宇宙基地の中ではセキュリティ担当者のエスコートなしで出歩くことは禁止されています。もっとも野犬がいっぱいいるので、一人で出歩くのは危険です。それにうっかりして、らくだがのこした巨大な糞を踏んでしまうかもしれません。

 空の端から端までかかる天の川が見られるのは、遮るものもなく、空気が乾燥した砂漠の中ならではです。事前に軌道をチェックしておけば国際宇宙ステーションが通り過ぎるのを毎晩のようにみることもできます。そんな夜空をぼんやり眺めていると、数分毎に空を横切って走っていく光の点があります。流れ星もあるのですが、空を走る光の点のほとんどは一つ一つが人工衛星なのです。一緒に散歩しているロシアの人たちは、「スプートニクだ、スプートニクだ」といいます。人類最初の人工衛星の名前がそのまま代名詞になっているのですが、こんなにたくさんの人工衛星が飛んでいるのを肉眼で身近に見ていると、スプートニク(同伴者)と言うのもちょっとうなずける気がします。

 かつては秘密都市だったバイコヌールも、ちょっとお値段は張るけれどモスクワから出発する観光ツアーが出ることもあるようです。

ガガーリン像の前から
 
旧型のソユーズロケット
 それではまた別の町でお会いしましょう。
 <ラフメット> ありがとう。
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