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宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター
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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
サチコの実験日記 Vol.5 無重力の宇宙で重力を発生させるとは?
皆さんこんにちは。私はJAXAで「きぼう」日本実験棟を使った生命科学実験の担当をしている矢野幸子です。前回は凍結細胞を使った研究についてお話ししました。今回は人工重力についてご紹介したいと思います。
宇宙での研究を可能にしているもの、それが「きぼう」にある細胞培養実験装置(CBEF)です。細胞培養実験装置には人工重力発生装置がついています。いったいこの装置、何のために宇宙ステーションに備え付けられているのでしょうか。

宇宙では重力が無視できるほど小さくなります。宇宙ステーションの中では宇宙飛行士がふわふわ浮きながら、まるで空中を泳ぐように移動しています。使っている道具も、手を離すと浮いて目を離すとどこかに飛んで行ってしまうので、マジックテープがついており、壁のマジックテープにくっつけて置いておきます。ガムテープを使うこともあります。重力のない宇宙では粘着性のある「テープ」が大活躍しているのです。
さて、せっかく無重力の宇宙なのですが、私たちJAXAの開発チームは、重力を作り出すために人工重力発生装置という装置を開発しました。この装置はマンガに出てくるような、宇宙ステーションごと回転させるような巨大なものではなく、直径が約34cm、お弁当箱が載る程度の比較的小さな実験専用のものです。残念ながら人間は載ることはできません。
人工重力発生装置には回るテーブルがついていて、回転することによって重力を作り出してます。陸上競技のハンマー投げの選手がハンマーをピアノ線につないで握り、体を中心にぐるぐる回転して勢いをつけている姿を見たことがあるでしょうか。選手が回転しながら手を離すとハンマーが遠くに飛んでいきますね。その時ハンマーを飛ばしている力が遠心力です。それから洗濯機の脱水も洗濯ものを洗濯槽の中でぐるぐる回転させることにより、遠心力を使って水分を飛ばしているのです。回転するものには、中心から外側に向かって遠心力が働きます。この遠心力が、回転している物にとっては重力と同じように作用します。回転しているものにとっては、回転の中心が地球では上の方向、手を離したら飛んでいく方向、つまり回転の外側が地球では下の方向になるわけです。
宇宙ステーションの日本の実験棟きぼうには小型の生物を育てて状態を観察できる装置があります。植物は根を下に、茎を上にのばして成長しますが、これは重力の方向を感じて成長しているからです。宇宙に行ったら無重力。植物が宇宙でどのように成長するかは、ずいぶん前からスペースシャトルによる実験がされています。植物は温度により成長速度が変わりますし、光の方向や水分も感じて成長しますから、同じ温度、同じ湿度、同じ光の条件で重力の「ある」「なし」だけを変えて比べないと、本当に重力の影響かどうかが言えませんね。
重力があるところとないところ、宇宙でわざわざ重力を作り出して比べるのには科学的な意味があるのです。私たちは宇宙ステーションでは人工重力発生機によって、重力のある・なしで比較して、確実にデータを取ることができるようになったのです。
それでは私たちが暮らしていくのに重力というものは必要でしょうか?地球上にいると当たり前のように重力を使って動いています。歩くのも、ペットボトルからお茶を飲むことができるるのも、重力があるからこそ。重力が全くないと、ものが浮いてしまいますし、お茶はボトルのキャップをしておかないと、勝手に出てきて飛び散ってしまいます。逆に装置の中に気泡が一度入ったらなかなか出てきませんし、トイレも食事も大変気を使います。どっちが上か下か、よく分からなくなって気持ち悪くなってしまう宇宙飛行士もいます。寝るときも自分の体を寝袋に固定しないと安定しません。月や火星には地球より少ないですが重力がありますので少しだけ重力を作り出した条件で生物がどのように成長するのか、実験するのも興味深いと思います。
さらに将来、火星まで宇宙飛行をする時代が来るかも知れません。火星の重力で生物が問題なく暮らせるかどうか知るための基礎研究は、地上では作れない、小さな重力を作り出す宇宙の人工重力発生装置を使って進められることでしょう。
ここからはマンガの世界かもしれませんが、宇宙旅行の最中に宇宙船の中でふわふわ浮きながら生活するよりも、少しだけでも重さがあったほうが楽かもしれません。宇宙飛行の途中でも少ない重力で生活できるような、小さな重力を作り出しながら進むロケット、そんな夢の乗り物ができるといいですね。それから好きな時に重力を作り出したり、なくしたりできて中で無重力体験を楽しめる装置があったら面白いですね。
人工重力発生装置。いま日本が持つ人工重力発生装置から、将来の宇宙飛行まで想像してしまう響きがあると思いませんか。

装置の説明はこちら
http://iss.jaxa.jp/kiboexp/equipment/pm/cbef/
(2011/09/26)
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