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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
サチコの実験日記 Vol.10 宇宙へ実験機材を送り出すときの話
皆さんこんにちは。私はJAXAで「きぼう」日本実験棟を使った生命科学実験の担当をしている矢野幸子です。今回は「宇宙へ機材を送り出すときの気持ち」についてお話したいと思います。

■ 宇宙へ運ぶのにも優先順位がある

私たちJAXAの実験担当者は、装置開発に関しては装置メーカと、生物試料に関しては各研究機関の研究者と綿密な打ち合わせと確認実験を重ねながら宇宙での実験を設計しています。重力がないという宇宙の性質、宇宙飛行士がやりやすい操作手順、もちろん宇宙飛行士にけがをさせないなどの注意も考えながら、機材を工夫します。準備の期間は実験の種類にもよりますが、早くても2年程度は必要です。
設計した機材が完成したら、試料を詰め込む作業を行います。打ち上げ本番前に、本番さながらの練習も行います。最後にいよいよ打ち上げられる状態で準備した機材と生物試料をロケットに運び込む作業は別の専門の担当者が行います。私はその担当者に品物を引き渡し、輸送用のバッグに詰め込むところまで見守ります。
品物が自分の手を離れてから、国際宇宙ステーションで宇宙飛行士が操作するまでには急いでも1週間から2週間はかかります。その間試料を良い状態に保つ必要があります。宇宙での実験まで良い状態を保つため時には冷蔵、もしくは冷凍保存しておきます。しかし冷蔵庫や冷凍庫に入れられる量が限られているので、できるだけコンパクトにする工夫をしています。
実験のためにどんな品物が運ばれるかというと、私がこれまで紹介してきた線虫や、培養細胞、植物の種子などの生物試料の他に、細胞を培養するときに使う交換培養液を含むカセットや植物を育てるための水、培養を終了させるための処理をする化学固定器具などです。器具にはあらかじめ中に栄養となる培養液や、化学処理剤を入れておきます。薬剤の活性を保つために器具ごと冷蔵で運ばれます。
特に生物の実験では生きたまま、もしくは冷蔵・冷凍で運ぶ場合が多く、鮮度が大切なので、できるだけ早く実験を始めてほしいと要求します。私たちは個別の実験担当者の枠を越えて、すべての実験がうまく進むように、どの実験が最優先でどの実験は少しなら待てるのかを話し合い、順番を決めてスケジュールを作っていきます。このような調整は日本だけでなく、国際的に行われます。みんなが納得する順番を作る作業は本当に骨が折れますがやりがいのある仕事でもあります。

■ 手塩にかけた機材の無事を祈る

国際宇宙ステーションへの荷物全体をみれば、食料品や機械装置などの常温で運ばれる荷物が多くあります。そのような荷物はロケット打ち上げの4か月以上も前に運び込み担当者に渡します。それからは開発担当者は装置の無事を祈りながら、再び宇宙からの画像で装置と対面できる日を待ちわびているのです。

私たちは準備した試料と機材をロケットに搭載すると、しばらくは待つしかありません。まずロケットの無事の打ち上げを願い、次に機材が無事に動作することを願います。それは手塩にかけて育ててきたわが子の晴れ舞台を見る親の気持ちに似ています。その気持ちを娘を嫁がせる父親の気分だ、と表現した人もいます。
そしていよいよ実験となった時、宇宙できちんと動作をするか心配なところです。うまく動くことは事前に確かめてありますが、動くまでドキドキします。宇宙から送られてきた映像に自分の開発した装置が現れ、宇宙飛行士が問題なく実験操作を終えたときはホッと胸をなでおろし、次は試料の無事の帰還を待ちます。当たり前のように動き、当たり前のように実験が進む。その裏に、多くの人の努力があるのです。

装置が軌道上で無事に動く姿を見て、当たり前のことですがよかったと思う。よくぞ宇宙でがんばってくれたと思う。それでも予想しない問題が発生することもあります。そのときはすぐに打ち合わせを行い、短時間で問題解決のための手順を仕上げ、宇宙飛行士に手順を指示します。そしてみごとに回復させた例がたくさんあります。
このように私たちは、常に真剣勝負で実験をしています。それもすべて、科学の発展のためです。誰もやったことのない、新しいことへ挑戦することの素晴らしさ。当たり前のように動作することへの確証。宇宙での実験成果を確実に手にするために、私は日々、地上で地道な確認作業を行っています。

(2012/02/27)
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