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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
【紀さんの宇宙あれこれ】 Vol.8 号外:「系外惑星ケプラー22bとヒッグス粒子」
今回は号外として、前回の後の一ヶ月の間に、すなわちこの2011年の12月に宇宙関係として歴史的な大発見になるかもしれないビックニュースが二つも発表されたのでお伝えしたいと思います。系外惑星「ケプラー22b」と「ヒッグ粒子」についてです。

ケプラー22bの想像図。
シュミット型宇宙望遠鏡搭載のケプラー探査機。左上の系外惑星を観測しているイメージ。
ひとつ目は、12月6日に発表された系外惑星「ケプラー22b」です。「ケプラー22b」は太陽以外の恒星のハビタブル・ゾーン(生命居住可能領域)内に地球型の惑星として、2009年3月NASAによって打上げられた「ケプラー(Kepler)」(製造業者は米国ボール・エアロスペース社)」によって初めて確認された系外惑星です。

「ケプラー」はNASAが地球型の系外惑星を発見する目的で、太陽を約373日の周期で周回する地球追尾太陽軌道で3年間以上、15万個もの恒星を調べ、周期的な明るさの変化(トランジット法)から系外惑星を特定し、さらにその惑星がハビタブルゾーンに位置しているか調べる質量約1トンの宇宙望遠鏡搭載の科学探査衛星です。

系外惑星とは、太陽系以外で、恒星を周回している惑星のことです。宇宙の進化の研究が進むにつれ、そのような恒星は数多くあるだろうといわれてきましたが、太陽系でも分かるように、一般に惑星は光っている恒星に比べて非常に小さく、また自分自身では輝いていないので発見が困難でした。
20世紀後半になって幾種類かの観測方法が進歩し、1995年に初めて、ペガスス座51番星という恒星に木星クラスの質量を持った惑星が発見されて以来、21世紀になり観測技術が進み、発見個数が急速に増えてきました。NASAのウエッブサイトによると12月15日現在647個が登録されています。
しかし見つかるのは、観測し易い大型の惑星です。地球より大きすぎると当然重力が大きく、地球型生態系から想像する生命とは大分違うものになる可能性が高くなります。また、その恒星(太陽に相当する星)からの距離が近すぎると表面温度が高すぎたり、遠すぎると低すぎたりして、いわゆる水が液体で存在することが不可能な位置のものばかりになります。このような理由から、なかなか地球サイズでハビタブルゾーンにある系外惑星が発見されませんでした。
世界中で、地球サイズの系外惑星の発見競争が、地上や宇宙から鋭意進められています。日本のスバル望遠鏡でも2002年に撮影されており、2010年11月には銀河系外の銀河で初めてHIP13022bが観測されました。
「ケプラー22b」は、打ち上げから間もない2009年3月に、その光のゆらめきが確認されていましたが、NASAはこのほど、「ケプラー22b」が恒星の前を3回横切り、その存在が確認されたとして発表しました。

太陽系とケプラー22系のハビタブルゾーンとそれぞれ存在する惑星。

「ケプラー22b」の公転周期は290日、地球からの距離は600光年あります。その直径は地球の2.4倍でスーパーアース(巨大地球型惑星)に分類されます。表面温度は約22℃ということですが、岩石惑星・ガス惑星・氷惑星のどの分類に属するのかは今のところまだ不明です。
ケプラー望遠鏡が発見した惑星候補の数は、2010年10月では312個、2011年2月で1,235個、そして2011年12月現在約2,326個とウナギ上りで増え、特に地球サイズに近くハビタブルゾーン内にある数は10個あり、その内のひとつが「ケプラー22b」ということです。

2011年12月現在のケプラーが発見した系外惑星候補分布。縦軸が地球の直径を1とした大きさの倍数、横軸が一年の日数、青丸が2010年6月、赤丸が2011年2月、黄色円が2011年12月(総数が2326)での観測された系外惑星。

ケプラーの観測対象範囲は、銀河系の3つの一等星、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル(牽牛星)とこと座のベガ(織女星)を結ぶ夏の三角形のデネブと織姫星の間約2,500光年の範囲です。参考までに地球からの距離はデネブが1,400光年、アルタイル(牽牛星)が17光年、ベガ(織女星)が25光年です。

ケプラーの観測範囲。はくちょう座の近傍であることがわかる。

ケプラーの観測範囲。銀河系を斜めから見た鳥瞰図。まだ観測範囲がほんの一部であることがわかる。

ケプラー16b。2つの太陽(連星)を周回する系外惑星。丁度太陽が並んで見えているイメージ。
発見された系外惑星の中には、2つの太陽を持つケプラー16bのような惑星もあります。この惑星では、2つの太陽の動きの組合せで、朝日、夕日や日中の太陽の位置が毎日変わり、どんな昼・夜になっているのでしょうか。

また、欧州南天天文台(ESO)は9月13日、南米チリのラ・シヤ天文台で行った観測で、新たに50以上の太陽系外惑星を発見したと発表しました。この中には、地球の1~10倍程度の質量を持つスーパーアースが16個あり、生命が存在する可能性もあるということです。
このように、現在世界中で系外惑星は次々と発見されており、その環境が地球により似た系外惑星がこれから多く発見されてくるでしょう。生命の存在の可能性もあり非常に楽しみですね。

CERN全体図。大きな円がLHC、小さい円が陽子を作り出すスーパー陽子シンクロトロン(SPS)。
ふたつ目は、「神の粒子」といわれる「ヒッグス粒子の発見が近づいた」という発表で、12月13日CERN(セルン:欧州合同原子核研究機構)が緊急の記者会見を開いたものです。CERNが大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の実験データを分析し、ヒッグス粒子発見につながるヒントが得られたと発表しました。今はまだ、あるともないとも言えませんが、観測データを増やしていけば、来年には決着がつくということです。




陽子と陽子を衝突させ4つのミュオンが発生したアトラスの実験。
 
CMS実験の検出器でヒッグス粒子が崩壊する様子のシミュレーション。

CERNはスイスのジュネーヴ郊外にある、世界最大規模の素粒子物理学の研究所です。
CERNは去る9月に「ニュートリノ」が光速を超えた実験結果が出たと発表しました。もし、この結果が正しければ光速一定で構築されているアインシュタインの一般相対性理論を覆す重大な発見になります。実験担当グループもその予想外の結果に驚いており、計測誤差の検討も含め継続してそのデータの検証中です。
また、CERNはWorld Wide Web発祥の地としても知られ、所内の文献の検索および連携のために考案された言語がHTMLやHTTPで、ティム・バーナーズ=リー氏によってここで開発されたものです。

さて、今回使われた装置はCERNが、2008年に稼働した円形大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で地下100mに 全周 27km (ほぼ山手線一周にあたる)、フランスとスイスの国境を横断して設置されています。今回実験は、LHCに設置された大型検出装置「アトラス」と小型ミューオン・ソレノイド(CMS)を使い、それぞれの装置で、ほぼ光速まで加速した陽子同士を衝突させて崩壊させる実験を行い、その様子を解析しヒッグス粒子の存在の証拠を探っているものです。「アトラス」には、日本の科学者約100人が参加しており、検出器にも日本の最先端の技術が使われています。

LHC装置内に配置されている「アトラス」と「CMS」。

「アトラス」の構成概要。幅44m、直径22m、重さ7,000トン

建設中のアトラス内部。巨大な長方形ドーナツ状の8本の超伝導トロイド電磁石が見える。黄色い丸の中の人と比較すると大きさがわかる。


実は、このような大型加速器建設は、ISS計画とある種の因縁があります。CERNは欧州が建設しましたが、アメリカも1980年代にやはり超大型加速器の計画を持っていました。
その当時アメリカは、ISSを提唱したレーガン大統領の時代で、いわゆる「強いアメリカ」政策を推進しており、B1大型爆撃機開発や巨大プロジェクトとして「3S」プロジェクトを進めていました。「3S」とはヒッグス 粒子を発見するSSC(超伝導超大型加速器)、軌道上のレーザー衛星などと地上システムを統合し、ソ連からの核攻撃に備える戦略防衛構想のSDI(戦略防衛構想:スターウォーズ計画)そして、SS(宇宙ステーション計画:ロシアが参加前で「フリーダム」と呼ばれていました)です。
「3S」は莫大な予算が必要なプロジェクトであり、それぞれ紆余曲折がありましたが、結局SSCとSDIは中止され、国際協力で進められていたこともありSSだけがISS(国際宇宙ステーション)と呼称も変わり生き残り、現在に至ったことになります。

なお、CERNの事業の中には、極小のブラックホールをつくる計画もあリます。もし出来ても短時間で消滅し、深刻な影響が出る可能性はないといわれていますが・・・
何はともあれ、来年には更に実験が追加され、ヒッグス粒子が発見されれば物質に質量があるのはどうしてなのかという根本的な謎がわかり世紀の大発見となり、宇宙にある暗黒物質(ダークマター)の構成物質、さらには新しい物理理論の発見へつながっていく期待が大きく広がります。
今回の二つの発見はその進展次第で、宇宙論、物理学のみならず、幅広く私たちの将来へ大きなインパクトを与える人類の知見となることと思います。目が離せません。

次回は、スペースX社以外でも積極的に進められている他の有人宇宙飛行に戻ってお話したいと思います。(続く)
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