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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
【紀さんの宇宙あれこれ】 Vol.14 スペースシップ2-民間有人弾道飛行間近!-(その2)
 前々回Vol.12のスペースシップ2-民間有人弾道飛行間近!-(その1)ではスペースシップ2(Spaceship Two:SS2)のベースとなったスペースシップ1(SS1)について紹介しました。
 前回Vol.13は、6月に宇宙関連で3つの重要なトピックス(①スペースX社ドラゴン宇宙船のISSへの初ドッキングと帰還成功、②米国空軍小型無人宇宙往還機X-37Bの469日宇宙滞在と帰還、③中国の3人乗り有人宇宙船神舟9号打上げ、無人宇宙船天宮1号とドッキング成功と帰還)があったので、飛び入りで紹介したため、(その2)が1ヶ月間延びましたが、いよいよSS2本体の話をしたいと思います。(Vol.12の(その1)も参考にしてください)

 SS2は、人や器材を乗せて、宇宙へ行き約5分間無重力状態を体験出来る弾道(サブオービタル)飛行するロケットエンジン付再使用型の宇宙往還機です。地上からはユニークな形状をしたジェット機(母機)に抱えられるようにして高度約15kmまで上昇すると、分離され、一瞬の間自由落下して、母機と安全な距離になると、ロケットを点火し勢いよく上昇します。
飛行試験で母機WK2から分離し、自由落下中のSS2。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
飛行試験中の母機WK2と結合したSS2。両機の大きさと形状の違いがわかる。特に翼の違いに注目。
(提供ヴァージン・ギャラクティック)
飛行試験中の母機WK2と結合したSS2。両機の大きさと形状の違いがわかる。特に翼の違いに注目。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
飛行試験で母機WK2から分離し、自由落下中のSS2。
(提供ヴァージン・ギャラクティック)
 全飛行時間は約2時間ですが、行きに3.5G、無重力体験後の帰りに6Gの加速度をそれぞれ90秒間体験することになります。
 SS2の1号機をVSS(Virgin Spaceship)エンタープライズ、15kmまで運ぶ母機のことをホワイトナイト2(Whiteknight2:WK2)といい、WK2の1号機 VMSイヴと呼ばれています。その由来はこの事業の推進者でヴァージン・アトランティック航空を含むヴァージングループの会長であるサー・リチャード・ブランソン氏のお母さんの名前に因んでいます。
 SS2は、2人のパイロットと6人の乗員を乗せることができます。飛行の最高到達高度は約110 kmで、いわゆる熱圏内になります。SS2の客室は長さ3.7m 、直径2.3mです。 翼幅は8.2m、全長は18.3 m(SS1の約2倍)、尾翼の高さは4.6mです。天井と両側の壁に通常の旅客機より大きな展望用の窓(約40cm×30cmの楕円)が乗員専用にあります。宇宙空間(真空中)での機体の姿勢は一般の人工衛星と同じく複数の小型エンジンの組み合わせたシステム(RCS)によって制御されます。
 WK2の大きさは翼幅43m、全長は23m、尾翼の高さは9mです。
SS2の乗員の座席配置図。3人が2列になる。無重力状態に入ると、座席がリクライニングになり、広い空間ができ宇宙遊泳が楽しめる。天井・側面の大きな展望用の窓が特徴。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
SS2の乗員の座席配置図。3人が2列になる。無重力状態に入ると、座席がリクライニングになり、広い空間ができ宇宙遊泳が楽しめる。天井・側面の大きな展望用の窓が特徴。
(提供ヴァージン・ギャラクティック)
 ヴァージン・ギャラクティック社のホームページを見るとわかるのですが、会社概要の中では歴史、安全、宇宙船、トレーニング、宇宙チケット、経験、環境およびブローシャーと、SS2を多方面から紹介しています。そして全体を通じてSS2の説明で一番詳しく、最優先して紹介している記述は安全に関連したことです。人を乗せるのですから当然といえば当然ですが、ヴァージン・ギャラクティック社の開発方針が明確に表れています。
 では、このSS2の安全を確保するために採用されている4つの技術の特徴について、紹介したいと思います。

 1番目はSS2の空中発射方式です。
 1969年、19歳のリチャード・ブランソンはアポロ計画の月面着陸のテレビ中継を家族で見ていて、自分も将来はあのようなすばらしい宇宙の仕事をしたいと思いました。そして、26年後の1995年、熱気球で世界1周記録挑戦のため天候待ちをしている時、ブランソンは奇しくもアポロ11号で人類初の月面着陸を、ニール・アームストロングと果たしたバズ・オルドリンと商業宇宙飛行打上げシステムについて話していました。その結論は最適なシステムは、安全性とコストの観点から考えると、地上からの直接打上げでなく空中発射方式だと意見が一致しました。ヴァージンチームは1990年代中頃から、宇宙への飛行システムはどの方式がよいか検討していましたが、なかなか安全を満足する飛行システムが見つからないでいたところでした。
 そんな中、2002年にヴァージンチームはヴァージン・アトランティック・グローバルフライヤー(単独、無着陸・無給油での世界一周飛行の最速記録を達成)開発の相談をするために、ポール・アレンが設立したスケールド・コンポジッツ社を訪問しました。そこで、アンサリイ X プライズを狙ってSS1を開発していたバート・ルターンと会い、彼の設計理念こそが、まさに探し求めていたものものだと確信したそうです。
 そして2004年、リチャード・ブランソンは、SS1がアンサイ X プライズに優勝した後、宇宙船の利用・運用会社ヴァージン・ギャラクティック社を設立し、SS1の技術提供を受けて再使用が可能な宇宙船SS2を開発することを決断しました。2005年には、ヴァージン・ギャラクティック社とスケールド・コンポジッツ社は、カリフォルニア州のモハべ空港&宇宙港に、SS2やWK2の製造を専門にする宇宙船製造会社スペースシップ・カンパニー(The Spaceship Company:TSC)を共同で設立しました。さらに2010年には、TSCはSS2やWK2の一貫製造、最終組立およびインテグレーションをする最終試験工場(FAITH)を完成しました。FAITHでは2機のWH2と2,3機のSS2の並行生産ができる広さがあるということです。
スペースシップ・カンパニー(TSC)社の最終試験工場(FAITH)前の母機WK2と結合したSS2。SS2の機体前部とWK2の2つ双胴機体前部が窓のある辺りまで基本的に同じなのがわかる。従業員との大きさにも注目。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
スペースシップ・カンパニー(TSC)社の最終試験工場(FAITH)前の母機WK2と結合したSS2。SS2の機体前部とWK2の2つ双胴機体前部が窓のある辺りまで基本的に同じなのがわかる。従業員との大きさにも注目。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
 ところで、今回空中発射が採用された最大の理由は、ロケット地上発射方式では、ロケットは打上後から濃い大気層を飛行するので大きな空気抵抗や空力加熱を受けるので、これを避けるためです。WN2は空気中の酸素を使うジェット機ですのでロケットほど速度は得られませんが、その分機体が受ける荷重は楽になります。
 具体的には、空中発射方式のSS2は高度15kmまでにWK2に運んでもらい、分離後WK2の速度を受け継いで、自分のハイブリッドロケットを点火し、最終的にマッハ3.5、秒速1.2kmの速度で高度110kmに達します。もちろんこの速度は高度100kmで地球を周回する人工衛星に必要な速度、秒速7.8kmよりは小さいものです。この方式は高度100kmをわずかに超え、約5分間滞在するのが目的の宇宙船だから可能なわけです。バート・ルターンはこのようなミッションについて、約15kmからの空中発射は最も安全で効率的な方式だと言っています。すなわちSS2は、母機と分離後宇宙までロケットエンジンに頼る時間が短くて、万一燃焼中に問題が起きた場合でも、ハイブリッドエンジンなので直ちに燃焼を中断し、SS2は滑空し飛行場へ無事帰還できるからです。

 2番目は炭素繊維材料の使用です。
 スケールド・コンポジッツ社の名前にも表れているように、航空機設計者バート・ルターンが率いるこの会社は、各種飛行記録を狙う実験機を前衛的とも言える設計をもとに、機体構造を全て複合材料で製造した実績が多くあります。
 スケールド・コンポジッツ社の炭素複合材料の製造技術が安全を支える設計思想の土台であり、ヴァージン・ギャラクティックプロジェクトの根幹を担っています。
 SS2とWK2の構造も全てが複合材料ですし、WK2は世界中でこれまでに製造された複合材料製の航空機の中で最大の大きさです。
 複合材料は鋼鉄材料に比べ、およそ強度で4倍、密度は1/4です。この機械的特性だけでなく、機体にかかる荷重を材料の破壊限度以下で飛行させれば、安全率も高くなり、いわゆる金属疲労のような現象は起こらないとバート・ルターンは自信を持っています。また多くのSS1のテスト飛行結果からSS2に空気力学的な外観形状変化が必要な場合でも、金属材料に比べ容易に部材を貼り付けることができる利点があります。
工場内で製造中の機体前部。塗装前なので素材の複合材料の作り方がわかる。(提供スケールド・コンポジッツ)
工場内で製造中の機体前部。塗装前なので素材の複合材料の作り方がわかる。
(提供スケールド・コンポジッツ)
工場内で最終調整中のSS2とWK2。簡素な作業の様子が感じられる。SS2は尾翼がフェザリングの状態で整備中。(提供スケールド・コンポジッツ)
工場内で最終調整中のSS2とWK2。簡素な作業の様子が感じられる。SS2は尾翼がフェザリングの状態で整備中。(提供スケールド・コンポジッツ)
 3番目はハイブリッドロケットの採用です。
 一般に、ロケットは燃料の状態で、液体ロケットと固体ロケットに分けられます。そして、燃料が固体、酸化剤が液体の組み合わせがハイブリッドロケットです。決して高性能ではありませんが、構造が液体ロケットに比較し単純であり、固体ロケットは燃焼が始まると止められないのと違い、酸化剤のバルブを閉めることによって、緊急時には滑空してスペースポートへ戻ることができるなどの点で安全性に優れています。酸化剤は笑気ガスとも呼ばれ、麻酔などにも使われる液体亜酸化窒素(N2O)で、燃料はポリブタジエン系合成ゴム(HTPB)です。
 ハイブリッドロケットエンジン単体は、シエラ・ネバダ・コーポレーション社(SNC)がスケールド・コンポジッツ社に対し開発していて、同じくSS1へも提供されました。SS2用には推力約27トン、燃焼時間55秒の大型のロケットモータ2(Rocket Motor Two:RM2)が新たに開発されました。2007年には3人が死亡する痛ましい事故がありましたが、それを乗り越え2012年7月にヴァージン・ギャラクティック社はSS2用RM2の第14回のフルスケール地上燃焼試験を完了したので、2012年後半にはフライト試験を行うと発表しました。
地上燃焼試験中のハイブリッドロケットエンジン。赤い燃焼ガスの中に「ダイアモンドコーン」と言われ正常燃焼時現れるパターンが見える。(提供ヴァージン・ギャラティック)
地上燃焼試験中のハイブリッドロケットエンジン。赤い燃焼ガスの中に「ダイアモンドコーン」と言われ正常燃焼時現れるパターンが見える。(提供ヴァージン・ギャラティック)
 4番目は、機体姿勢の安定保持技術「フェザリング」です。
 これは宇宙から地上の大気を通って帰還する時、尾翼の形状を変化させ空気力学的に安定を保つユニークな方法で、革新的に安全性を確保する技術です。
 地球に戻ってくる飛翔体にとって、大気圏再突入飛行は技術的に難度が高く、かつ危険なものです。バート・ルターンは単純な機構で安全性を追求するスケールド・コンポジッツ社の哲学に基づき、フェ-ルセーフの考えを入れ閃いたのが、バトミントンのあの単純なシャトルコックの形状の動きからのヒントだったのです。そして開発されたのが尾翼を可動させて、機体の姿勢とスピードを制御するメカニズム「フェザリング」技術です。
SS2のフライトパターン。母機WK2から分離(約15km)→ロケットエンジンで上昇→尾翼が回転しフェザリング形状→宇宙での無重力状態(110km)→フェザリングから標準形状へ戻る(21km)→滑空して宇宙港へ帰還(提供ヴァージン・ギャラクティック)
SS2のフライトパターン。母機WK2から分離(約15km)→ロケットエンジンで上昇→尾翼が回転しフェザリング形状→宇宙での無重力状態(110km)→フェザリングから標準形状へ戻る(21km)→滑空して宇宙港へ帰還
(提供ヴァージン・ギャラクティック)
 具体的にはSS2が上昇中濃い大気を抜けると、両翼先端に付いているSS2特有の垂直尾翼を約65°まで回転し主翼に立った、横から見るシャトルコックのようになります。
 この形状は大気圏降下時に機体に大きな抵抗を与え、かつ良い姿勢の安定性を与えます。また、もともと最高速度が小さいことに加え、大きな抵抗と軽い構造のため機体の表面温度は高くならず、従来の有人宇宙船のように熱シールドや耐熱タイルは必要ありません。帰還時は高度が約22kmに達すると尾翼を標準の形状に戻しグライダーのように滑空して宇宙港へ戻ります。
尾翼が65°回転したフェザリング形状での単独飛行試験中のSS2。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
尾翼が65°回転したフェザリング形状での単独飛行試験中のSS2。
(提供ヴァージン・ギャラクティック)
尾翼が標準形状での単独飛行中のSS2。左図と比べ尾翼形状の違いに注目。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
尾翼が標準形状での単独飛行中のSS2。左図と比べ尾翼形状の違いに注目。
(提供ヴァージン・ギャラクティック)
 ヴァージン・ギャラクティック社は、SS2は有人宇宙飛行だけでなく実験器材を積んだ宇宙実験専用フライト、またWN2は母機としてだけでなく、パイロットや乗員訓練、無重力体験飛行、それに高度15kmでの長時間での各種研究・実験フライトなど、研究者、技術者、教育者や学生等を対象に利用の拡大構想を進めようとしています。事実NASAも飛行フライト提供プログラムで3回のSS2利用を採用しています。
宇宙実験仕様で、器材を客室へ積んだSS2想像図。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
宇宙実験仕様で、器材を客室へ積んだSS2想像図。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
 以上のような特徴を持つSS2は、商業飛行に向け着々と準備が進められています。その主なものを幾つかを紹介します。
  • 2011年10月17日:米国ニューメキシコ州の宇宙専用港「スペースポート・アメリカ」で、ヴァージン・ギャラクティック社の専用ターミナルビル落成式が行なわれました。このターミナルビルは、「ヴァージンギャラクティック・ゲイトウェイ・ツー・スペース」と命名され、約11,000㎡の床面積を有し、旅客ターミナル部分とスペースシップの格納庫から構成されています。
米国ニューメキシコ州の標高1,400mにある専用宇宙港「スペースポートアメリカ」の上空を試験飛行するSS2を結合したWK2。下にヴァージン・ギャラクティック社の専用ターミナルビル(「ヴァージンギャラクティック・ゲイトウェイ・ツー・スペース」)と約3,000mの滑走路が見える。(提供ヴァージン・ギャラクティック)
米国ニューメキシコ州の標高1,400mにある専用宇宙港「スペースポートアメリカ」の上空を試験飛行するSS2を結合したWK2。下にヴァージン・ギャラクティック社の専用ターミナルビル(「ヴァージンギャラクティック・ゲイトウェイ・ツー・スペース」)と約3,000mの滑走路が見える。
(提供ヴァージン・ギャラクティック)
  • 2012年5月29日:ヴァージン・ギャラクティック社は、SS2と母機WN2がFAA米国連邦航空局より高度100kmの宇宙空間に到達するテストフライト実施の認可を受けたことを発表しました。既にモハベ宇宙港でWN2が80回、SS2のグライダー飛行は16回飛行実験が実施されており、秋から年末にかけてのロケット噴射飛行による最終確認フェーズへ進む予定になっています。
  • 2012年7月11日:英国で開催された世界的に有名なファンボロー航空ショウで、ヴァージン・ギャラクティック社は、フライト予約者は日本人16人を含む529人となり、宇宙飛行を待っていると発表しました。ちなみにSS2のフライト代は20万ドル(1,800万円:1ドルが80円として換算)です。
 また同時に、リチャード・ブランソン会長は小型衛星を最も低価格で軌道上に運ぶ新型の空中発射型ロケット「LauncherOneランチャーワン」を発表しました。これは、非常にいろいろな意味で興味があるシステムなので、紹介したいのですが長くなりますので、次回にお話をしようと思います。(続)
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