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コラム ―宇宙開発の現場から―

コラム―宇宙開発の現場から―
【紀さんの宇宙あれこれ】 Vol.13 -ドラゴン初ドッキング、X-37B帰還、神舟9号打上げ-
 初めにお断りさせていただきたいのですが、今回は予定の内容を変更したいと思います。実は、当初予定のスペースシップ2(SS2)本体の原稿を準備していたのですが、この約1ヶ月の間に地球周辺の宇宙利用に関連し、推進当事者は民間企業、軍、国家と違いますが、今後に大きく影響を与えそうな重要な出来事が3つも起こりました。
  •  ①スペースX社のドラゴン補給船の国際宇宙ステーション(ISS)へ初ドッキングと帰還成功
  •  ②米国空軍の無人ミニシャトル宇宙滞在469日で帰還成功
  •  ③中国の3人乗り宇宙船神舟9号上げ成功
の3つの出来事です。
では、トピックスとして以下順にご紹介していきます。
 ひとつ目はドラゴン補給船2号(C2+)です。これはVol.5Vol.6でご紹介したスペースX社のカプセル型の無人宇宙船です。詳しくはそちらを見ていただきたいと思いますが、何しろスペースシャトル引退後はISSからの回収手段はソユーズ宇宙船しかありませんでしたし、持ち帰れる量は僅かです。それが、ドラゴンが成功した事により大幅に回収量が増加(約3トン)することになり、参加国の利用の内容が充実し、関心がより高まると思います。

 さて、ドラゴン2号機は、米国フロリダ州ケープカナベラル空軍基地から今年の5月22日に打ち上げられ(前コラム掲載の頃でした)、25日に民間宇宙船として初めてISSへのドッキングに成功しました。31日ISSを離れ、3つのパラシュートを広げて、太平洋上カリフォルニア半島沖約900キロの地点に着水し、9日間のミッションを終えて、未明に無事帰還しました。
ISSのロボットアームに把持されたドラゴン宇宙船2号機(提供NASA)
ISSのロボットアームに把持されたドラゴン補給船2号機(提供NASA)
帰還したドラゴン宇宙船と回収船、外側が黒く変色している。(提供SPACEX)
帰還したドラゴン補給船と回収船、外側が黒く変色している。(提供SPACEX)
そして、ドラゴンはロサンゼルス港に到着後は、テキサス州マクレガーにある同社施設まで陸送され、各種検査がなされています。
ドラゴン宇宙船の前で、スペースX社社員と対話するイーロン・マスクCEOと訪問したチャールズ・ボールデンNASA長官(提供SPACEX)
ドラゴン補給船の前で、スペースX社社員と対話するイーロン・マスクCEOと訪問したチャールズ・ボールデンNASA長官(提供SPACEX)
 スペースX社のCEOで、開発責任者でもあるマスク氏によると、同社は今後数カ月、ドラゴンでを有人輸送に対応させるため改良に力を注ぐとのことです。技術者チームはヘリコプター並みの精度で地表に着陸できるシステムも開発中だそうですが、それ以外に大きな設計変更を加えるつもりはなくマイナーな調整で済むと言っています。具体的には地上管制に人数をかけなくて済むよう自動化を進める程度だそうす。
 今回のミッションは、コスト削減のため、2号機のC2ミッションであるISSとのランデブ試験と、3号機のC3ミッションであるISSとの結合試験をあわせて、C2+ミッションとして実施されました。
 ISSへ持っていった荷物は、食糧(米国、ロシアの宇宙食)、長期滞在クルー用の衣服、米国の実験ペイロード、交換修理品、予備品などです。回収したのは、米国の実験ペイロードおよびサンプル、JAXAの衛星間通信システム(ICS)の多重化装置、交換修理品、予備品などでした。

 NASAは、昨年のスペースシャトル退役後、コストが安い民間宇宙船開発を支援しており、物資のほか将来的には宇宙飛行士の輸送にも利用する計画を持っています。
 スペースXに続き、Vol.9で紹介したオービタル・サイエンス社が開発しているシグナス宇宙船も、アンタレスロケットで年内に打ち上げられる予定になっています。
 また、現在無人状態でインフレータブル(軌道上で膨らます構造)モジュールの軌道上実験を行っているビゲロー社は、自社の宇宙ホテルへの往復へドラゴン宇宙船を想定した構想を発表しています。(この辺りの民間有人宇宙活動状況は別の機会に紹介したいと思います。)
ビゲロー社の宇宙ホテル構想の中で、連結したインフレータブルモジュール両端に宇宙往復用のドラゴン宇宙船が結合している。(提供 ビゲロー社)
ビゲロー社の宇宙ホテル構想の中で、連結したインフレータブルモジュール両端に宇宙往復用の
ドラゴン宇宙船が結合している。(提供 ビゲロー社)
 ドラゴンの有人化は「きぼう」も含めISSの価値、利用の可能性を格段と高めると思われますが、これらの動きに負けず日本の「こうのとり」の回収型(HTV-R)の早い開発が期待されますね。

 二つ目はX-37BOTVです。あまり知られていないかもしれませんが、X-37BOTVは米国空軍によって開発されている、宇宙空間から帰還できる無人宇宙船です。長さ約9メートル、翼幅約4.5メートル、重さ約5トンで、スペースシャトルのオービターに比べると、大きさは4分の1程度しかありません。
アトラスロケットの衛星ファリング内の打上げ直前のX-37B(提供 US Air Force/ボーイング)
アトラスロケットの衛星ファリング
内の打上げ直前のX-37B
(提供 US Air Force/ボーイング)
米空軍の無人往還宇宙機X-37Bの構成図(提供 US Air Force)
米空軍の無人往還宇宙機X-37Bの構成図
(提供 US Air Force)
 OTVとは Orbital Test Vehicleの略で無人の軌道試験機ですが、ISS計画とは直接の関係はありません。このフェーズの前に着陸試験機X-37 ALTV(Approach and Landing Test Vehicle)があり、2006年モハベ砂漠でおこなわれた滑空試験にはあのスペースシップ1の母機のホワイトナイトが使われました。
 その目的や役割については明かにされておらず、軌道上で極秘に試験を続けていた米空軍は「実験を行うため」だと発表しているだけです。

 X-37Bの2号機(OTV-2)は2011年3月5日にフロリダ州ケープカナベラル空軍基地からアトラスVロケットによって打ち上げられました。設計上滞在可能日数の270日を大きく超え軌道上で489日間飛行し、地球の周りを7,000回以上周回して、指令によりX-37BOTV2号機は軌道を離脱し大気圏再突入した後、6月16日21時48分(日本時間)に西海岸バンデンバーグ空軍基地の滑走路に無事着陸しました。
長期間宇宙滞在可能なX-37Bの軌道上での飛行想像図(提供 US Air Force)
長期間宇宙滞在可能なX-37Bの軌道上での
飛行想像図(提供 US Air Force)
宇宙から帰還したX-37BOTV2。周囲の作業員との比較で大きさが分かる(提供 U.S. Air Force)
宇宙から帰還したX-37BOTV2。周囲の作業員との
比較で大きさが分かる(提供 U.S. Air Force)
 既に1号機は、2010年4月22日にケープカナベラル空軍基地から打ち上げられ、224日を経た同年12月3日、バンデンバーグ空軍基地の滑走路に自動着陸に成功しています。

 X-37Bは、アメリカのX-15など有名なⅩシリーズの長い開発の歴史の延長上の宇宙往還機です。すなわち、米国ではNASA,米空軍や国防高等研究計画局(DARPA)がそれぞれの目的で無人・有人超高速飛行の研究開発をしてきています。
 技術的にはスペースシャトルもその路線上に位置づけられ、X-33、X-34、X-43 などの試作機が出現したものの完成を見ない中で、当初はNASA主導の計画でしたが、2004年から空軍がボーイング社と開発し、アトラス-Ⅴロケットで打上げたのがX-37BOTV2です。ですから見た目はミニシャトルようですが、構造には軽量複合材料、耐熱材料にはスペースシャトルより優れた新耐熱タイ、アクチュエータには油圧式でなくメカトロ方式等の最新技術が採用されています。
 この空軍が開発した宇宙往還機がどのように使われるかが気になるところです。少なくとも最近宇宙開発の進展の著しい中国の動向も視野に入っているのではないかと想像されます。

 ボーイング社は、将来構想の一つとして、X-37Bの大型化・有人化について発表しています。X-37Cと呼ばれるこの機体は、X-37Bのサイズを165~180%大型化したもので、5名~6名の人員を運ぶことができるとしています。これには競争相手としてシエラ・ネバダ・コーポレーション(Sierra Nevada Corporation:SNC)のスペースデブ(SpaceDev)社によって開発されているドリームチェイサーがあります。
 これは2名~7名の乗員を低軌道へ運び、帰還させる宇宙往還機で、アトラスVロケットの上に搭載して垂直に打ち上げられ、滑空帰還して通常の滑走路へ着陸するものです。
 アメリカでは、サブオービタル飛行もそうですが、オービタル飛行でも民間企業が元気で頑張っています。日本も早く低迷状態から抜け出さないと益々差がつきそうです。

 最後の三つめは「神舟9号」による中国有人宇宙飛行です。
 中国政府は6月16日午後7時37分(日本時間)、中国西部の酒泉衛星発射センター(内モンゴル自治区)から3人の宇宙飛行士を乗せた有人宇宙船「神舟9号」を搭載した長征2号F9ロケットを打ち上げました。
神舟9号と天宮1のドッキング図(提供 新華網)
神舟9号と天宮1のドッキング図(提供 新華網)
 18日午後3時に既に軌道上にある「天宮1号」と高度343キロので自動ドッキングに成功しました。昨年11月に打ち上げられた無人宇宙船「神舟8号」が2度にわたり自動ドッキングに成功して以来7カ月ぶりで、この日のドッキングは「神舟9号」が後方の「天宮1号」との距離を狭ていく自動管制方式がとられました。
 「天宮1号」に移動した3人は、まず6日間、科学実験などを実施し、その後24日に「神舟9号」に戻った後、いったん切り離し、初の手動操縦による再ドッキング実験を試みます。「天宮1号」は実験用宇宙ステーションで、宇宙飛行士3人が同時滞在状況で最大20日間、酸素の供給が出来ます。「神舟9号」は6月29日、内モンゴルの草原地帯に帰還する予定です。
 今回の乗組員は景海鵬(ジン・ハイポン)、劉旺(リウ・ワン)、劉洋(リウ・ヤン)の3人で、景海鵬飛行士は2008年9月に打ち上げられた「神舟7号」にも搭乗しており、今回が2度目です。劉洋飛行士は飛行経験1680時間を持つ空軍パイロット出身の33歳で、15人の最終候補から選抜され、中国初の女性飛行士となりました。その選考基準は厳しく、心身ともに成熟して、25歳以上の既婚者で出産経験があること、虫歯やあざ・たこがないこと、口臭や体臭がないことなど、さまざまな条件があるそうです。
天宮1号内の3人の宇宙飛行士。天井や床の紐状の固定具や室内の様子がうかがえる。(提供 CCTV)
天宮1号内の3人の宇宙飛行士。天井や床の紐状の固定具や室内の様子がうかがえる。(提供 CCTV)
打ち上げ前に手を振る中国初の劉洋(リウ・ヤン)女性宇宙飛行士(提供 共同)
打ち上げ前に手を振る中国初の劉洋(リウ・ヤン)女性宇宙飛行士(提供 共同)
 「神舟9号」には80種類余りの宇宙食が搭載されていて、飛行士は毎日異なる種類の食事をとることができるようです。「天宮1号」は全長10.4メートル、重量8.5トン。内部の最大直径は3.35メートルで広さは15平方メートル。実験室と資材倉庫に分かれた構造になっています。
 「天宮1号」や「神舟9号」には洗濯機がないので、日本が開発したナノテクノロジーの下着が、汗の匂いを抑えることができるので採用されているとの話もあります。
 「天宮1号」の中には無重力による筋肉の低下を防ぐため、エアロバイクなどのフィットネス器機が用意されています。

 中国の有人宇宙船打ち上げは、2008年9月以来で4回目ですが、来年、「天宮1号」の寿命が終われば、さらに発展したモデルの「天宮2号」と「天宮3号」を順に打ち上げる予定です。その後、2016年頃から正式宇宙ステーション「天宮」を宇宙に打ち上げ、2020年にISSとは別の独自の宇宙ステーションを建設する計画です。
2020年完成を目指す中国宇宙ステーション予想図(提供 雷霆?事网)
2020年完成を目指す中国宇宙ステーション予想図(提供 雷霆?事网)
 中国の宇宙開発の現実の動きを見ていると、いろいろな見方や意見はあると思いますが、国家戦略に基づき確実に進んでいる印象を持つのは私だけでしょうか。その内に新しく開発しているロケットも含めて中国の 宇宙開発のお話をしようと思います。
 次回は、スペースシップ2(SS2)(その2)です。(続)
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