前回の予告では「空中発射ロケット」でしたが、予定を変更してESA(欧州宇宙機構)の新ロケット「ベガ(VEGA)」を紹介します。
ベガはESAが10年以上もの長期間をかけ開発し、ついに2012年2月13日初飛行に成功しデビューした最新のロケットです。このロケットの基本形は固体燃料ロケットで、小型衛星打ち上げを狙っており同じような目的で開発されている日本の「イプシロン」ロケットのライバルでもあるので知っておいて頂きたいと思った訳です。
フランス領ギアナ・クールー基地、整備棟内打上げ準備中のベガロケット。 |
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フランス領ギアナ・クールー基地、打上げ射点パッド上のベガロケット。1段ロケットにカバーが付いている。 |
打上げ直後のベガロケット初号機。2012年2月13日。 |
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イプシロンロケット飛行想像図 |
ESAの打上げロケットの品揃え戦略では、大型衛星用は自主開発した、ご存知の方も多いと思いますが、アリアン5ロケットで既に実用化され活躍しています。中型衛星用のロケットは自ら開発せずロシアのソユーズロケットを導入し、昨年の10月にESAフランス領ギアナのクールー射場から初飛行に成功したばかりです。そして小型衛星打上げ目的に開発されたのがベガロケットです。
今回の打上げ成功で、ESAは小型から大型の衛星を打ち上げるロケットのラインナップが完成したことになります。現在世界的な経済危機の中で、特にEUは参加国それぞれに特有の利害がありながら、EU分裂を避けるべく対応していると同じような意味で、宇宙開発でも同様に各国の立場がある中、巧みに国際的に分担し進めてきたベガロケット開発プログラムが成功し、ヨーロッパとして当面の輸送系体制が確立したように感じられます。
ESAのロケットラインナップ。左よりベガロケット、ソユーズロケット、アリアン5ロケット。
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ところで、ヨーロッパの固体ロケット技術はあまり知られていないと思いますが、実績は以前からあり、フランスがソ連、米国に次いで1965年世界で第3番目に人工衛星を打上げた「ディアマンロケット」は、1段は液体ロケットでしたが、2段、3段は固体燃料ロケットだったのです。このディアマンロケットは3バージョンあって1975年までに全部で12回打上げ9回成功し、フランスがESAでのロケットでの主導的な立場にある裏付けになっています。その後ESAはアリアンロケットシリーズ(アリアン1,2,3,4そしてアリアン5)開発を進めて来きたことになります。
一方イタリアは、1962年NASAと宇宙研究計画に関する学術協定(サン・マルコ計画)を結び、イタリアの洋上人工衛星打ち上げ基地でとして、ケニア沖合南緯約3度、 東経40度のインド洋上にサン・マルコ・プラットファームを建設し、この基地から1988年までスカウトロケットで23個の人工衛星や各種観測ロケットを打ち上げました。
発射直後のスカウトロケット |
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洋上打ち上げ基地上のスカウトロケット |
参考までにですが、スカウトロケットは、米国が1957年スプートニク・ショックを受けた直後の1961年に、エクスプローラー9で初打ち上げに成功以来1994年の118号機まで約30年間、小型衛星の打上げに活躍したロケットです。スカウトロケットは全段固体燃料の4段式ロケットで全長23m、質量22トン、直径1mの大きさで、200kgクラスの科学衛星、軍事衛星、外国の衛星を打ち上げました。日本もロケット開発初期の頃参考にしたロケットです。
さて、ベガロケットの話に戻りましょう。ベガロケットはESAの小型衛星打ち上げ用ロケットとして、1990年代初め頃から検討されており、1993年来日したアリアンスペース社ビゴー会長(当時)がNASDA(宇宙開発事業団)を訪問した時、日本の小型衛星打上げ用ロケットについて、当時調査国際部長だった私に熱心に質問していたのを思い出します。
そして、1990年代に幾つかの候補ロケット案のトレードオフがされた後、第1段にアリアン5の固体補助ロケット(SRB)ノウハウを用いる、第2、3段にも固体ロケット、そして第4段に衛星打ち出し精度を上げるために液体ロケットとする構成で2000年にESAの正式プログラムとして承認されました。
ベガロケットはこのような歴史的背景の下、サンマルコ・スカウト計画の流れを引き継ぐイタリア主導のロケットですが、ESA参加17ヶ国中、イタリア、フランス、ベルギー、スペイン、オランダ、スイスそしてスウェーデンの7ヶ国がこのプログラムに参加しています。開発はASI(イタリア宇宙機関)とAvioとのジョイントベンチャーであるELVSpAがプライムコントラクターとして、ASIとCNES(フランス国立宇宙研究センター)の技術サスポート得て、欧州企業40社からおよそ1000人が参加して進められました。
次に、少しベガロケット本体について説明したいと思います。先ず大きさですが、全長が30m、直径は3mで全質量は137トンです。打上げ能力は高度700kmの極軌道に1,500kg、LEO(低高度地球周回軌道)には300kgから2,500kgのバリエーションがあります。この大きさは「はやぶさ」などを打上げたM-Ⅴロケット(全長31m、直径2.5m、全質量138トン、打上げ能力は傾斜角31度で1,850kg)とほぼ同じですね。
また、JAXAが開発している次期固体ロケット「イプシロン」(長さ24m、直径2.5m、全質量91トン、打上げ能力はLEOに1,200kg)よりは大きく、打ち上げ能力も高いといえます。
具体的なベガロケットの構成ですが、基本形は3段固体ロケットットプラス液体ロケットの4段式ロケットです。
ペーロードを大気飛行中保護する衛星ファリングの直径は2.6mで長さ7.2mです。
第1段ロケットは新開発のP80と呼ばれ、長さ10.5m、直径3m、推進薬は88トンで一体型のロケットモータとしては世界最大級といえます。大きさだけで言えばスペースシャトルの固体補助ロケット(SRB)が直径3.7m、推進薬500トンと世界最大ですが、作り方が一体型のケースでなく4つのセグメントに分けて製造し、射場で一体に組み立てて仕上げる方式です。
このベガロケットで実証される技術、世界最大のカーボンエポキシフィラメントワインデイング一体成形ケースや電気機械方式の推力制御ノズル技術はESAの次世代輸送系(GNL)へ反映されることになっています。
第2段、第3段ロケットは、以前引退したスカウトロケットの後継としてイタリアが進めていたゼフィーロ16をベースに開発されました。直径は共に1.9mですが、第2段ロケット・ゼフィーロ-23は長さ7.5m、推進薬約23トンで、第3段ロケット・ゼフィーロ-9が長さ4m、推進薬10トンです。
第4段ロケットはウクライナ製の液体ロケットで長さ1.7m、直径1.9m、推進薬550kgで、UDMH/NTO(非対称ジメチルヒドラジン/四酸化二窒素)の2液式メインエンジンとコールドガスの姿勢制御用スラスターで構成されています。第2,3,4段ステージが飛行中のロール制御、コースティング中の姿勢制御をはじめ、衛星の投入精度を上げる役割を担っています。
今回のペーロードは9つ小型衛星で、第4段ロケットによりメインペーロードのLARESを近地点1,450kmで分離し、その後ALMASat-1を、25年以内に大気圏内へ落下させるデブリ対策のため、近地点350kmで、7つのキューブサットは順次300×1450kmの軌道上で分離されました。
ベガ1号機に搭載された小型9衛星。丸い球形がLARES、比較的大きい立方体がALMASat-1、左右にある7つの小さい立方体がキューブサット。 |
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ベガロケットで打上げ予定のESAのリエントリー実験機IXY。 |
少し技術的な内容が長くなってしまいましたが、最後にVERTA(Vega Research and Technology Accompaniment)に触れたいと思います。VERTAは前述の7ヶ国が参加して作られ、5つのデモフライトの調達、カスタマーサービス向上そして製造に付帯するサービス・技術サービスの3つを行うことを目的としています。
VERTAは、積極的に低コストで、科学研究、地球観測、種々のコマシャールミッションの顧客獲得を、複数衛星打ち上げも含め行う意気込みで、商業打上げ促進のため最低でも年に2回は打上げるとしています。最初の商業打上げ契約として、既にセンチネル2、3衛星の打上げが2014~2016年に予定されています。さらに、デモフライトの中には、ESAのIXV( Intermediate Experimental Vehicle)の実験飛行も含まれています。
将来的には、ベガロケットは、今後実績を積みながら各段の大型化や性能向上の構想が検討されています。
なお、ベガの初号機打上げ成功後、第4段ウクライナ製エンジン(RD-869)の替わりのエンジンをドイツが開発提供したいと申し出たという報道が流れました。世界の宇宙産業界が積極的にシェア争いをしている一面を感じるニュースでした。
このベガロケットに負けぬよう、我が国の固体ロケット技術を集大成し、運用の効率化を含め、低コスト化を目指して開発されている「イプシロン」ロケットの2013年度の初飛行が待ちどうしいですね。期待しましょう。
では、次回は「空中発射ロケット」のお話をしたいと思います。(続)
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