3.ISS/JEMについて


ISS CG
地上から400kmの宇宙空間を、日本を含む15カ国が共同で建設を進めている「国際宇宙ステーション」が飛行している。

 微小重力環境では、地上で実施が困難な実験を可能にする。もし重力が無かったら、地球上の重力環境の下に進化してきた生物はどの様になるのか? 物理や化学の現象はどの様に振舞い、それらを地上の様々な活動にどの様に応用できるのか?人類が長年にわたって追求してきた科学の謎に迫り、また地上では見ることができない宇宙の姿や、地球の環境を観測することも出来る。
 ISSはこれらの宇宙空間の特長を生かした様々な研究を長期間にわたって実施する「宇宙の研究所」として、また人類の宇宙進出のための挑戦をする恒久的な拠点として、国と人種を超えて取り組まれている、人類史上最大の国際協力による科学技術プロジェクトである。

国際宇宙ステーションの概要
寸法 約110×75 m
質量 約450t
電力 最大電電力 110kw(実験として 30kw)
与圧モジュール 合計容積 1200
居住モジュール 2個、実験モジュール 6個、補給モジュール 2式
搭乗員 6〜7名(組み立て期間中は3名)
軌道 円軌道、高度330〜480km、軌道傾斜角 51.6度
輸送手段 スペースシャトル、アリアン5、ソユーズ、プロトン、H-IIA等
通信能力 追跡・データ中継衛星システム(米国/NASA)、その他、ロシア、
日本のデータ中継技術衛星システム

 ISSはアメリカ、日本、ロシア、カナダ、欧州等の計15カ国が共同して建設を進めている。スペースシャトルやロシアのロケットの40回以上の打ち上げによって、組み立てられ、完成時にはサッカー場程度の大きさになる。(写真右)
 地上から約400kmの上空を時速28,000km、約90分で地球を周回している。
 内部は大型旅客機2機分程度の空間となり、重力を除くと地上と同じ1気圧、20℃程度の環境を作り出し、最大7名が3ヶ月〜半年程度滞在する予定である。

サッカー場
宇宙ステーションの大きさはサッカー場
散髪
宇宙ステーションの内部の様子
(飛行士が髪を切っている)


 平成10年(1998年)に最初のモジュールが打ち上げられて以来、16回のシャトルの打ち上げ、26回のロシアロケットの打ち上げにより、建設が進められている(2004年11月現在)。平成12年(2000年)11月からは宇宙飛行士3名が交代で滞在を始め、平成16年(2004年)10月末現在、滞在日数が約1500日に達する勢いである。(写真下)
 平成15年2月のスペースシャトルコロンビア号事故により、長期滞在飛行士が3名から2名に減り、現時点では組立作業が中断しているが、今後太陽電池パネルの追加、欧州や日本の実験モジュールの打ち上げを経て、完成し、その後10年以上様々な活動が行われる予定である。

平成14年(2002年)12月現在の宇宙ステーション(NASA提供)




 
 

 日本が開発を担当するのは、「きぼう」と呼ばれる実験モジュール。宇宙飛行士が長期間活動できる、日本では初めての有人宇宙施設で、最大4名まで搭乗できる。
 「きぼう」は主に「船内実験室」「船外実験プラットフォーム」という2つの実験スペース、それぞれに付いている船内保管室および船外パレット、実験や作業に使用する「ロボットアーム」および衛星間通信システムの6つから成り立っている。船内実験室には、実験試料などを船外実験プラットフォームとやりとりするためのエアロックがある。

寸法 船内実験室 :4.4m外径×11.m長さ(円筒形)
船内保管室 :4.4m外径×4.2m長さ(円筒形)
船外実験プラットフォーム :5.0m幅×4.0m高さ×5.6m長さ(箱型)
ロボットアーム(親子方式6自由度アーム) :親アーム9.9m長さ、子アーム1.9m長さ
空虚重量 約27t
電力 24kw、120VDC
寿命 10年以上
搭乗員数 通常2名、時間制限付きで最大4名
打上手段 スペースシャトル(3便)




「きぼう」 日本実験棟概要


 微小重力環境を活かした様々な実験や研究を行う「きぼう」の主要施設。1気圧の空気で満たされ地上と同じ服装で活動できる。天井、床、左右の壁に、電力、空調、通信、ロボットアームの操作などの「きぼう」を運用するためのラックが11個、各種実験を行うためのラックが12個(うち2個は実験物資保管用)、計23個のラックが収納される。船外実験プラットフォーム側に窓が2つあり、船外実験の様子を確認することができる。



 実験装置などの物資を保管するところで、地上と同じ1気圧で満たされている。6棟ある実験モジュールのうち、専用の保管室をもつのは「きぼう」だけである。ラックを8個収納することができ、必要に応じて宇宙飛行士が船内実験室ラックと入れ替えを行う。ISSのラックは、各国共通の規格で設計、製作されており、例えば「きぼう」の実験ラックをアメリカの実験棟ディスティニーに移して実験を行うことも可能。



 実験装置を宇宙空間に直接に晒すことで、高真空、広大な視野といった宇宙環境を利用した天体観測、地球観測、宇宙技術開発などの実験を行う。船外実験プラットフォームは、宇宙で実験や試験を行うために必要な電力の供給や冷却機能を持っており、実験装置を10個取り付けることができる。実験装置はスペースシャトルや日本のH-IIAロケットなどで運ばれ、「きぼう」のロボットアームで交換される。ISSの数ある実験スペースの中で、大規模な船外実験ができるのは「きぼう」だけである。



 船外実験プラットフォームで使用される実験装置を保管するところ。3個の実験装置が保管可能。これは取り外し可能であり、実験が終わった装置をスペースシャトルで地上に持ち帰り、新しい実験装置を運ぶための輸送パレットともなる。実験装置はロボットアームを使って船外パレットとの間で移動させる。



 船外実験用の実験装置の交換などを行うための6個の関節を持つロボットの腕で、宇宙飛行士が船内実験室から操作を行う。実験装置など大きい機器等の移動を行うための「親アーム」と、より細かな作業を行うための「子アーム」から構成される。子アームは使用時に親アームの先端に取り付けられ、使わないときは船外実験プラットフォーム上に設置されている。


ロボットアーム(親アーム)


ロボットアーム(子アーム)



 船内と船外を結ぶ物資専用の出し入れ口。



 日本のデータ中継衛星こだまを経由して、軌道上の「きぼう」と筑波宇宙センターの管制室を双方向で結ぶ通信システム。




「きぼう」の開発状況
「きぼう」は、昭和60年(1985年)に予備設計に着手後、試験用モデルの製作試験を経て、フライトモデルを製作し、筑波宇宙センターで各構成部品を組み合わせ、地上の管制施設を含めた確認試験を実施した。(写真上)

その後、船内実験室は、平成15年(2003年)5月に横浜港を出港、5月30日にNASAケネディ宇宙センター(KSC)に隣接するポートカナベラル港に到着した。(写真上)

平成15年8月から、KSC内の宇宙ステーション整備施設(Space Station Processing Facility : SSPF)で、NASAの与圧結合アダプタ2(ノード2)との組み合わせ試験を実施した。(写真上、右 : 試験に参加する野口飛行士)

その後もエアロックの動作確認やフライト・クルー・インターフェース・テスト、日本人宇宙飛行士も含めて様々な試験を実施している。(写真上 : 左 : 若田飛行士)




「きぼう」で行う研究の事例
地球観測
Earth Observations
 
私たち地球は、オゾン層の破壊や地球の温暖化、砂漠化など深刻な問題を抱えている。宇宙から地球をつぶさに観測し、調査することで、様々な環境問題の解決を目指す。
 「きぼう」に搭載されるSMILESは、オゾン層を破壊する成層圏中の塩素や臭素等の微量気体、およびオゾン自体が放出する短い電波(サブミリ波)を宇宙から観測する。

天体観測・宇宙科学
Astronomical Observations and Cosmology
 
宇宙では、大気にさまたげられることなく、360度の視界で観測を行うことができる。その特徴を最大限活用できる、「きぼう」の船外実験プラットフォームに搭載される実験装置MAXIは、宇宙をX線で見張る世界最高の広視野高感度カメラ。銀河系の外で起こっている天体のダイナミックな振る舞いや銀河の分布を調べることができる。宇宙の成り立ちや構造、その起原や進化の謎を迫る。

微小重力実験
Microgravity Experiments
 
ほとんど重力がない環境では、地上で混ざり合うことのない2つの物質の混合なども可能になるほか、大きな結晶や分子が均等に並んだ結晶を作ることもできる。「きぼう」に搭載する溶液・蛋白質結晶成長実験装置を使った実験では、地上より分子がきれいに並んだ大きなタンパク質結晶を取得し、それを調べることにより様々な病気の解明や、医薬品の開発などを目指す。

地上(左)と宇宙(右)で作成したタンパク結晶
STS-87
ライフサイエンス
Life Science
 
人類が宇宙で長期滞在する時代に向けて、微小重力や放射線などの宇宙環境が、人間や動物、植物たちに与える影響を調べ人類の活動範囲を拡大する。また、これらは、生物の仕組みを解明すると同時に、地球生命の生存と人類の健康と繁栄にもつながる実験である。「きぼう」に搭載される細胞培養装置では動物、植物、微生物の細胞を用いて、宇宙環境での生命の基本現象を研究する。

宇宙利用技術開発
Technology Development
 
将来の宇宙活動に必要なロボット、通信、エネルギーなどの技術を、宇宙で試験を重ねながら開発する。船外実験プラットフォームでは、従来の人工衛星を利用した試験などに比べてこれらの技術開発を効率的に行うことができる。
 SEDA-APはプラズマや放射線等の宇宙特有の環境を計測し、宇宙飛行士の健康を管理すると共に宇宙環境を利用した技術開発や実験に役立てる。